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「凄いよね、一桁とか……私は絶対無理」
「別に……俺より上の奴は幾らでも居るし。言っとくけど、彰悟の方が成績良いんだぜ?」
「え、そうなんだ? 知らなかった」


 ああ、でも彰悟が成績優秀なことは聞いたことがあったかもしれない。

 朝比奈よりも斉藤の方が上だったんだ、どちらも凄いと感心してから、ふと思いついたことがあった。夏希は朝比奈に問いかける。


「ねえ、朝比奈の得意な教科って何?」
「あ? 何だよ、いきなり……理数系の方がどっちかって言ったら得意だけど」
「理数系か……あのさ、頼みがあるんだけど」
「……頼み?」
「そう。朝比奈も勉強中で悪いんだけどさ、良かったら数学教えてくれない? 分かんない所があって……あ、無理だったら別に良いんだけど」


 さすがにもう考査も近いし、無理強いはしない。黎にも自分の勉強があるだろうし。

 今言った頼みだって、望みは薄いけれどあわよくば、というものに過ぎないのだ。了承してもらえたらラッキー、という思いでしかなかった。

 だから断られたって仕方ないと思っている。というかどう考えたって断られる可能性の方がずっと高かったし。

 それなので、少し考え込んだ黎が教えてやる、と言ってきた時には正直驚いた。


「え、良いの?」
「そんな長い間は無理だけどな。分かんない箇所を教えるくらいだったら。沢山あんの?」
「ううん、二、三問くらい」
「じゃあ平気だろ。図書室閉まるまでもうちょっとあるし」
「やった! なら問題集とってくるから、ちょっと待ってて!」
「いや、持ってこなくても俺がお前達の机の方に行けばそれで済むことじゃ……って、行っちまったし」


 黎の言葉も聞かないままに、夏希は菖蒲が勉強している机に戻った。そして問題集とシャープペンシルと消しゴムを持って再び黎の場所に戻ろうとしたが、顔を上げた菖蒲に話しかけられる。


「……ん、何処行くの、夏希?」
「あ、菖蒲。ちょっと朝比奈に数学教わってくるね」
「は? 朝比奈? 何でいきなり朝比奈なの?」
「あそこの本棚で会って。話してたら数学教えてくれるって言ったからさ、行ってくる」
「……いってらっしゃい?」


 いまいち話が分からないまま夏希を送り出す菖蒲。手を振って本棚の方に向かう夏希に、菖蒲は暫し考え込んだ後自己完結をして、再び勉強に取り掛かった。

 歩きながら分からないと思っていた問題があるページを開いて、夏希が帰ってくるのに気付いてこちらを向いた黎に話しかけた。


「朝比奈、ここ」
「どこだよ。……あー、これな。これ、確かにちょっとめんどくさかった」
「さっぱり分かんないんだけど」
「だからこれは……」


 そこから黎の説明が始まった。これがまた丁寧で分かりやすいのだ。解説を見てどれだけ考えても分からなかった問題が、するりと糸が解けるように解けていく。


「あ、なるほど。凄い、分かりやすい!」
「そうか?」
「うん! あ、ならこっちは?」
「ん?」


 分からなかった問題は全部で三問。そのどれも黎は簡単に解いてしまった上に、分かりやすく解説してくれた。改めて彼は頭が良いと夏希は思う。

 三問全てを教われて満足した夏希。問題集を抱えて、黎に向かって礼を言う。


「ありがと。朝比奈のおかげで考査も何とか大丈夫のような気がする」
「そりゃ良かった。他の勉強も頑張れよ」
「うん。……って、朝比奈もね」


 他人事のように笑いながら言った黎に、夏希は呆れながらも同じように笑った。
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