15

 その後にあった競技は何事も無く終わり、いよいよ午前の部のメインの競技、男女混同リレーの番になった。


「黎ー、妃芽ー!」


 グラウンドに入場した二人を見つけた彰悟が、それなりに大きい声で二人の名前を呼び、大きく手を振った。

 黎はそんな彰悟に苦笑し、妃芽は恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに微笑み、こちらは小さく手を振り返す。

 途中まで一緒に歩いていた二人は、順番の関係からトラックの反対側に分かれて走り出す。五番手と六番手に走るので、自分の番が来るまで待機するため、腰を下ろした。

 リレーってあっという間に順番が回ってくるんだよな、と夏希は応援席から見ながら思う。

 一番手の女子がスタート地点に立った。一度練習しているとは言え、やはり緊張するらしく、全員が顔を強張らせている。

 ピストルは体育委員会の人ではなく、教師がやるらしい。練習の時だから教師がやるんだと思っていたが、違ったようだ。

 ピストルの音と共に、一番手の女子達がスタートした。

 練習の時も彼らは本気で走っていたようだし、結果は変わらないんじゃないかと思いながらぼんやりとリレーを見ている夏希。

 しかし、こういう時に限って何か起こるもので。


「あ……!」
「……っ」


 練習の時とさほど変わらない順位のまま黎にバトンが渡るところだった。どちらがミスをしたのかは分からないが、バトンは彼の手から滑り落ちる。

 黎は即座に反応してバトンを拾って走り出すものの、二人に抜かされて四位になってしまった。


「二人に抜かされちゃったね」
「その二人はまた抜かせるでしょうけど……最後の一人が危ないわね」
「うん」


 練習の時も、もう少し距離が短かったら一位の男子は黎に抜かされることなくゴール出来たはず。バトンを落としてしまってあの時よりも距離があるから、抜かせないかもしれない。

 その考えは当たっていて、黎を抜かした二人は比較的早いうちに再び追い抜かすことが出来た。だが一位の男子を抜かすには、距離が足りないかもしれない。

 徐々に距離を縮めてはいるものの、間に合わない。見ていた誰もがそう思ったが。


「うわ……凄い」


 黎が、ここに来て更にスピードを上げてきた。ラストスパートには少し早いんじゃないかと思ったものの、彼のスピードは全く落ちない。

 距離がどんどん縮まる。楽勝に勝てると思っていた一位の男子も慌ててスピードを上げるが、黎のスピードはそれを上回っている。

 あと五十メートルほどでゴールだったが、二人の距離はそんなになかった。


「く、そ……っ!」


 男子は悔しそうに叫ぶ。その瞬間に黎に追い抜かれ、彼はそのままゴールした。後少し、後もう少しだけ距離が短かったら勝てただろうに。

 逆転一位を果たした黎に、クラスメイトの歓声が上がった。

 リレーを邪魔したら失格になるので、ビリの人が走り終わるまで黎に駆け寄るのを我慢していた彼らは、全員がゴールしたのを見ると一斉に駆け出していく。

 夏希は菖蒲に自分達も行くべきか、と目で問いかけてみると、菖蒲が頷いたものだから一応は二人の元に向かった。


「朝比奈、お前すっげえな!」
「バトン落とした時はもう駄目かと思ったぜ!」
「うんうん、さすがだよね!」
「そんなに落ち込まなくても、妃芽ちゃんも精一杯頑張ったよ! だから大丈夫!」


 吹き荒れる賛辞の嵐に、黎は息を整えながら笑っていた。妃芽は申し訳なさそうに黎やクラスメイトに謝っていたが、どうやら彼らは気にしていないらしい。

 結果的に勝てたからだろうな、と微かに思う。

 その後はクラスメイトは係の人に落ち着かされ、応援席に戻された。中々戻らなくて係の人も大変そうだったが、負けると思っていただけに嬉しかったのだろう。

 黎達リレーの選手が退場する。これで午前の部は全て終わったことになるから、夏希達は少しの間お昼休憩と言うことになる。

 それなので生徒達は一度教室に戻り、昼食を食べ、それでまた午後の競技に挑むのだ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -