彰悟は四季に話を聞いてから、黎と話している少女を見やった。
妃芽には悪いが、彼女が黎の好きな人だと聞いて、正直黎の好きな人が妃芽でなくて良かったと思った。
妃芽のことは、別に嫌いじゃない。好感の持てる良い子だと思う。けれどそれだけ。彰悟は妃芽の恋よりも、ずっと一緒に居る親友の恋を応援するつもりだ。
此処まで聞けば親友思いの良い人なんだな、と思う人が居るかもしれないが、実際は全くそういうわけではなかった。
彰悟は由貴が好きだった。好きになった切っ掛けはよく覚えていないけれど、ともかく彰悟は由貴が好きだ。
だが由貴は彰悟が親友と思っている四人の中の一人、拓弥のことが好きらしい。ずっと彼女を見ていたから、それくらいのことは気付いている。
幸いにも、拓弥の好きな人は由貴ではなかった。幸いにも、なんて言ったら由貴はとても傷つくだろうが、それでも本当のことなのだから仕方ない。
そして拓弥の好きな妃芽は、黎のことが好きで。黎はまた別の人を想っていた。
これに気付いた時、チャンスだと思った。
黎の恋を応援して黎と好きな人をくっつけたら、妃芽は失恋することになる。失恋した妃芽を拓弥に慰めさせて、妃芽に拓弥を好きにならせて、由貴を失恋させる。
そうしたら、自分にもチャンスが出来ることになる。由貴は優しいから、親友と好きな人が付き合ったとしても妃芽を責めることなんて出来ないだろう。
だけど黎の好きな人がもし妃芽だったら。二人が付き合ってしまったら、由貴と拓弥が付き合ってしまう可能性の方が大きいわけだから、拓弥がフリーで居る限り、彰悟が由貴と付き合える可能性は極めて少ない。
だから黎の好きな人が妃芽以外で良かったと思ったのだ。
妃芽と由貴以外だったら素直に応援する。協力しても良い。寧ろ黎には誰かと付き合ってほしいから、積極的に応援するだろう。
もしも彼の好きな人が妃芽か由貴だったら、彰悟は協力なんてせずに全力で邪魔しただろう。だから自分は良い人ではない。
彰悟の中には拓弥のように好きな人の恋を応援するだとか、好きな人のために身を引くだとか、そんな考えは一切存在していなかった。
つまりは彼は、四季と同じ考えだった。好きな人とは付き合いたいに決まっているし、身を引く意味が分からない。
彼女が自分以外の人が好きだとして、どうして自分は諦めなければいけないのだ。彼女が自分以外の人を好きなら、彼女の気持ちを自分に向ければ良い。
彼女の笑顔が見たいなら自分が笑わせてやれば良いし、彼女の幸せを想って身を引くくらいなら、自分で彼女を幸せにすれば良い。
拓弥が妃芽の恋を応援しようとしていることは知っていた。彼女を笑わせることは自分では出来ないから、だから彼女が笑顔で居れるように応援していると。
有り得ない。それで泣き寝入りをするなんて絶対にごめんだ。彰悟は由貴に自分を好きになってもらう。もらえるように頑張るつもりだった。
「黎はまだ自分の気持ちには気付いてないんだっけ……全く、聞いて呆れるよ」
――だから、俺が協力してあげよう。妃芽、ごめんね? 君の恋は諦めてよ。
こんなことを思ってるなんて、妃芽のことが好きな拓弥が聞いたら怒りそうなものだけど。
「俺は、俺と俺の親友が幸せになれば良いと思ってるしね」
妃芽が傷ついたとしても拓弥が慰めて、それで妃芽が拓弥を好きになれば、彼女だってまた笑える日が来る。つまりは何も問題はない。
「ほら、完璧」
この一方通行だらけの恋模様を終わらせよう。皆が幸せの、ハッピーエンドで。
感動をより味わいたいのなら、ハッピーエンドの前に悲しい出来事を体験するのが定番なのだ。全て順調にいったら面白みもない。
お姫様は悲しみを乗り越えて幸せを掴む。なんて在り来たりなお話なのか。でもそれで良いじゃないか。一番確実に幸せを得られるじゃないか。
奇想天外な話なんて要らない。どこまでも王道な話を作ろう。
「四季は、黎の恋を応援しようと思ってる?」
「一応思ってるよ。妃芽には悪いけど、俺は親友の方が大事だし」
「だよね……さすが四季」
彰悟は笑いながら、四季に言った。
「俺も黎を応援したいと思ってるよ。だから、黎の恋に協力してあげようじゃないか」