13

 夏希が黎に手を引かれ、共に走っていくのを、四季は笑いながら見ていた。

 ――黎ったら大胆。

 そもそも体育祭の競技で手を繋いで走る理由が四季には分からないが、彼は負けないために無意識にやっているのだろう。黎はあれで負けず嫌いなところがある。

 しかし女の子がクラスで一番速い男子の足に合わせるのは相当キツいと思うが、そこまで気付いていないようだ。配慮が足らない。

 自覚すればそういうところも無くなるのだろうか。気になるところである。


「――あれ、黎は?」
「……妃芽」


 四季がそんなことを思いながら黎と夏希を見るのを楽しんでいた時、由貴と一緒にジュースを買いに行っていた妃芽が帰ってきた。

 黎と夏希が行って割とすぐだったので、夏希は本当にタイミングが悪かったらしい。

 四季から言わせてもらえば、妃芽が由貴を連れて行ってくれたおかげで、黎と夏希は少し近づくことが出来たのだが。

 女の子はジュースを買いに行くのだって付き添いを欲しがる。男子だってそういう人も居るだろうが、女子の方が顕著だろう。

 妃芽がたった一人でジュースを買いに行っていれば、夏希は由貴を連れて行っただろうから、黎は今も此処に居て、彼女と近づくことはなかっただろうに。

 妃芽が黎を探してキョロキョロしているのを見ながら、四季は思う。


「黎ならあそこだよ」


 妃芽の問いに答えたのは、妃芽のことが好きな拓弥だった。まあ彼なら優しいから、妃芽に恋愛感情を抱いてなくとも答えてあげただろうが。

 拓弥が指差した先――競技のゴール地点を見て、妃芽は首を傾げた。


「え、どうして黎があそこに居るの?」
「由貴と妃芽がジュースを買いに行ってすぐに、蒼麻さんが来たんだよ。お題がクラスのあ行の名前の人だったらしくて、由貴を探しに来たんだって。でも居なかったから黎が代わりに行ったんだよ」
「そうなんだ……」


 黎が此処に居ない理由は納得出来たが、少しの間といえど黎と話せないことに妃芽は落ち込んでいるらしい。拓弥と由貴は妃芽の様子に苦笑している。といっても由貴と拓弥の笑みはだいぶ違っていたが。

 そんな妃芽を横目に、四季は黎と夏希を見ていた。ゴールで競技が終わるのを待っている二人は仲良さそうに何かを話していて、時に笑い合っている。

 ――よし。

 四季は心の中だけでガッツポーズした。二人の距離が近づくのは良いことだ。このままどんどん仲良くなれば良い。


「――ねえ、四季」
「……ん?」


 笑みを浮かべながら二人を見ていた四季に、話しかける声。

 それはいつもならもっと騒がしいはずの彰悟だった。そういえば今日の彰悟は何か静かだな、と思いながら彼の声に返事をする。


「何、彰悟?」
「四季は前にさ、黎に好きな人が出来たかもしれないって言ってたよね?」
「あー……うん、まあ」
「それって、あの子?」
「……そうだと俺は思ってるよ。黎はよく彼女見てるし」
「へえ……そうなんだ。でも俺、黎とあの子が話すところ初めて見たんだけど。好きならどうして話しかけないの? いつもの黎ならそんなことはないのに……あ、もしかして無意識?」
「……よく短時間でそこまで辿り着けるね」


 黎の好きな人という情報を得ただけで彼と話をしたわけでもないのに、黎が自分の気持ちに気付いていないことに気付くなんて凄いな。


「黎と何年一緒に居ると思ってんの」
「まあ、そうなんだけどさ」
「それにしても、あの子が黎の好きな子か……」


 彰悟は夏希を見ながら呟く。

 その時の四季には、彰悟が一体何を考えているのか全く分からなかったけれど。
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