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 菖蒲の玉入れを終え、二年の学年種目も何事もなく終わらせることが出来た。二年の学年種目が終わったと言うことは、夏希が出る借り人競争の番になったと言うことだ。

 ――どうか、変なお題を引きませんように。

 そう祈りながら、夏希は前の人について入場していく。自分の番になるまでスタート地点の横で待機しているのだが、その時に菖蒲の方を見てみると、彼女が笑顔で夏希を見ていたので苛立った。

 夏希の前の人達がスタートし、次の番である夏希達がスタート地点に立つ。心臓がドキドキしてきた。物凄く嫌だ、早く終わってほしい。

 前の人達は比較的に簡単なお題だったのか、あっという間にゴールしてしまった。そういえば、まだ夏希が嫌がるネタ的なお題が出てないような気がする。


「ああ、本当にやだ……」


 周りに聞こえないような声で呟いた。そんなことを言っている間に、体育委員の人はピストルの準備をして、位置についての掛け声を言った。

 夏希達は身構える。よーい、という言葉の一秒か二秒後ピストルの音が鳴り響いて、夏希達はスタートした。

 とりあえず何も考えずに目の前に落ちていた紙を拾ってみた。

 紙を開いてみると、そこにはこう書かれていた。


「えーと……『自分のクラスのあ行の名前の人』? って、うちのクラス二人しか居ないし」


 夏希のクラスのあ行の名前の人と言ったら、朝比奈黎と飯野由貴の二人である。

 かなり限定されてしまうお題だな、と思う。クラスにあ行の名前の人が居なかったらどうするつもりなのだ――と思ったが、それはないな。

 ともかく男、特に目立つ黎を連れて行こうとは思わない。だとしたら夏希が探すのは勿論、由貴の方である。


「飯野さんは……と、あれ?」


 自分のクラスの方に走り、妃芽や彰悟達と話しているはずの由貴を探す。だが見つからない。

 嘘でしょ、と少し焦り始めた夏希を呼ぶ声があった。


「夏希?」
「菖蒲……飯野さん知らない?」
「飯野さん? 知らないわ」


 菖蒲は首を振る。学年種目が始まる前までは夏希達の横で話していたから、終わった後も席は変えないと思う。

 女の子なら出歩いて別の場所で応援するかもしれないが、黎達が出歩くのを好んでなさそうだったから、動かないで一緒に応援していると思ったのにとんだ誤算だ。


「どうしよう……」
「蒼麻、どうしたの?」


 困り果てている夏希に話しかけてきたのは四季だった。


「七海……飯野さん知らない?」
「由貴? あー、タイミング悪いね。さっき妃芽と一緒にジュース買いに行っちゃったんだよね」
「えー……」


 入れ違いになってしまったらしい。四季の話によると、本当についさっきまでは居たらしいので、運が悪い。

 肩を落としている夏希に、四季が問いかける。


「どんなお題?」
「え? 自分のクラスのあ行の名前の人」
「ああ、じゃあ良かったね。黎が居るよ」
「……は?」


 完璧に自分は関係ないだろう、と傍観を決め込んでいた黎は、四季にいきなり話しかけられて驚いていた。

 夏希は内心で溜息を吐く。こうなってほしくない、こうしたくないと思っていることほど、実際に起こってしまうものだった。

 しかしこれ以上時間をかけたくない。夏希は早くゴールして、この競技を終わらせたいのだ。そして休みたい。

 黎を連れて行くのは目立って嫌なのだが、あまり時間をかけても目立つだろう。どうせ目立つならさっさと終わりになる方が良いに決まっている。


「じゃあ朝比奈、悪いけど一緒に行ってくれる? 早くゴールしないとだし」


 夏希はちらりと他の組の人達を見る。どんなお題か知らないが、今はまだ誰もゴールしてないし、一位にもなれるかもしれない。夏希としてはなれなくても別に構わないのだが。


「……ま、仕方ないな。ほら、行こうぜ」
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