08

 体育祭の練習から一週間。今日は体育祭本番である。因みに雨など絶対降らないだろうと思われるくらい、良い天気だった。

 開会式や選手宣誓などを終え、いよいよ競技が始まる中、夏希は自身のクラスの持ち場で椅子に座って、菖蒲と話していた。


「……はあ」
「雨降らなかったわね。降りそうもないし」
「思いっ切り快晴ですよね……」
「暑いくらいだわ」


 日焼けするから嫌、と菖蒲は日焼け止めを塗りながら言う。夏希も日焼けするのは嫌だったので、日焼け止めを腕や足に塗った。


「菖蒲は玉入れで、あまり動かないから良いじゃん」
「何言ってんのよ。玉入れって結構体力使うのよ。しゃがんで立って投げるんだから」
「そう?」


 それでも、夏希からすれば羨ましい。少しも走らないで済むわけだし。


「はあ……菖蒲、最初の競技って何だっけ?」
「百メートル走よ」


 まあ、定番な競技だった。放送が入っていたのでもう始まるらしい。スタート位置についている百メートル走のメンバーを見ると、どうやら飯野由貴が出場するらしい。

 一年生の男女が終われば、次は二年生の男女だ。最初は女子からなので、由貴の姿もある。

 夏希の隣に座っている妃芽が、黎のグループと一緒に応援していた。本当にあそこは仲が良いんだな、と微かに思った。


「由貴ー、頑張って!」
「由貴、応援してるよ!」


 妃芽と彰悟が叫ぶと、由貴は二人に気付いて笑いかける。彰悟の隣に居た拓弥が、二人の元気さに苦笑していた。

 彼らは夏希の隣に座っているものだから、自然と彼らの会話が聞こえていた。


「あはは……二人とも元気だね」
「元気すぎだろ。つうか煩えよ。そんなに応援しなくても、アイツ足が速いから勝つだろ」
「まあ、メンバーを見ても多分勝てるだろうけどさ。一応応援したいじゃん? ねえ、妃芽?」
「うん!」


 元気いっぱいに尋ねる彰悟と頷いた頷いた妃芽に、黎は溜息を吐く。もう何か言うのは諦めたらしい。

 彼も大変そうだなと思いながら会話を聞いていたら、体育委員会の人達の位置について、という声が聞こえてきて、夏希は視線を由貴の方に向ける。


「よーい」


 パァンッ、とピストルの音が辺りに鳴り響き、由貴達は一斉に走り出す。

 先程黎が言っていた通り、由貴の足は速い。共に走っている人たちを引き離し、あっという間にゴールしている。

 妃芽もそうだったが、走り方も綺麗だった。あのくらい速く走れたら体育も楽しくなりそうだ。一度でも良いから、あのくらい速く走ってみたい。

 その後は何事も無く男子も走り終え、三年生の男女も終えて、由貴が妃芽達の元へ戻ってきた。妃芽は由貴に駆け寄って、先程の走りを賞賛する。


「さすが由貴!」
「やっぱり由貴は速いね。凄かったよ」
「ありがとう、妃芽……拓弥」


 妃芽と拓弥に褒められて、由貴は照れくさそうに笑っている。妃芽に褒められたこともそうだが、拓弥に褒められたことが嬉しいのだろう。

 夏希はその光景を見て青春だなあ、とただそれだけを思った。そしてつまらなさそうな顔でプログラムを見ている菖蒲に問う。


「菖蒲、次は何?」
「一年生の学年種目ね。その次が玉入れだから、私はもうすぐ行かなくちゃならないわ。玉入れが終わったら二年生の学年種目で、その次が夏希の嫌がってる借り人競争」


 言いながら菖蒲は次の種目に出る生徒が集まる場所を見た。そこにはもう一年生の大半が集合していて、もうすぐ入場しそうだ。


「……意外と早いなあ。菖蒲がもうすぐ行っちゃうってことは、私はしばらく一人か……」
「一人が嫌なら、友達の所に行ってる?」
「うーん……私もどうせすぐに動くことになるからいいや」


 生徒会の放送によって、一年生は入場する。その後に放送された玉入れの出場者の収集に立ち上がった菖蒲を見ながら、夏希はそう言った。
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