06

 酷薄な笑みを浮かべたまま、颯紀は今だ生きている『ソレ』に向かっていき、颯紀から距離を取ろうとしている『ソレ』を爪で引き裂いて殺す。

「あと三匹」
「ねえ、残りは何処に居るのか教えてくれない?」
「え、九重? 何で……」
「気にしないで。残りは?」

 今まで颯紀に抱えられていたのに、いつの間にか自分を抱えるのが燎になっていたことに困惑する夏希に、燎は微笑みながら問いかける。
 夏希は今だ困惑していたが、燎の言葉を聞いて視線を巡らせ、咲雪の近くに居ることを指摘した。

「貴方達、身体が濡れているわね? だったら私の氷はよく効くんじゃないかしら?」

 ピキピキ、と咲雪に掴まれている部分から、女の身体が凍りつく。そして全身が固まった後、粉々に砕け散った。

「あと二匹よ。何処に居るの?」
「あとは……あ、っ!?」

 残りの二匹を捜していると、一匹は見つけた。自分の近くに。だから自分を抱えている遼を狙っているのだろうと推測し、燎に居場所を告げようとしたが、しかし『ソレ』は夏希に向かって牙を抜く。
 下半身が腕を掠め、痛みと共に血が流れ出す。どうして、と夏希は思った。今までまるで居ないかのように、夏希には向かってこなかったのに。
 手で怪我の部分を押さえると、指の隙間から血が流れ出す。早く居場所を告げないと、と焦る夏希とは裏腹に、五人は目を見開いていた。

「あ?」
「見える……?」

 今までどれだけ目を凝らそうが全く見えなかった『ソレ』が、燎が腕に抱えている夏希を攻撃した直後にいきなり姿を現した。文字通り『見える』。
 何でいきなり、と思うのと同時に好都合とも思う。居場所が分かれば仕留めるのは簡単。近くに居た那岐が風で切り刻み、倒す。

「どうしていきなり見えるようになったのかしら……」
「アレがみえるようになったのは……」

 ――彼女を攻撃してから。
 思えば彼女は不思議な存在だった。異形が現れる前に突如として現れ、彼らに見えない異形を見る。そして今度は彼女を攻撃した瞬間、身体を隠す術を失ったかのように姿を見せた異形。
 本当に彼女は何者なんだろうか。
 一方夏希はというと、いつの間にか自分を攻撃した何かが倒されているのに首を傾げる。自分は彼女の居場所を告げたつもりはなかったのだが、彼らが自力で見つけたのだろうか。
 しかしこれで残りは一匹となった。最後の一匹を探す夏希の目に入ってきたのは、欠伸を噛み殺しながら教室に入ってきた、髪を伸ばした時任羽間と、その後ろに居て彼を狙っている最後の一匹。

「と、時任、後ろ!」
「え?」
「え、羽間?」

 叫んだ瞬間、羽間が夏希を見つめて目を見開いていた。彼女の言葉で羽間が居ると知った五人もまた、羽間の方を見て驚いたように目を見開いている。
 その瞬間にも『ソレ』は羽間に飛び掛って――。

「あ!」

 危ない、と思った瞬間に、羽間の手が『ソレ』の首を捕らえた。

「え……」

 そのまま壁に叩きつける。まるで彼には『ソレ』が見えているような――。

「鬱陶しいな」

 ぐ、と手に力を込めて女の首を絞める。女は苦しそうに呻いているが、やがてピクリとも動かなくなった。
 羽間は動かなくなった『ソレ』を床に捨て、夏希を見る。ジッと見つめられて、何だか居心地が悪い。どういう顔をしたら良いのか分からないでいる夏希に、羽間は近づいていった。

「お前、俺が見えてたの?」
「え……そりゃ、目の前に居れば見えるもんなんじゃ……?」
「……」

 質問の意図が掴めずにいる夏希に、羽間は何も言わない。しかし何か言いたげに口を開いては、閉じる。
 そんな羽間に五人が近づいていく。

「そいつ、俺達には見えないさっきの妖が見えてたんだよ」
「ていうか羽間も見えてなかった?」
「見えてはないけどー、同じような力を使う奴の居場所くらい、何となく分かるよ」
「だったらサボらずに早く来い。お前が居ないおかげで、俺達がどれだけ苦労したか……」
「疲れた……」
「本当よね」

 疲れたような溜息を吐く彼らに、羽間は「寝てたらいつの間にか時間が経ってたんだよねー」と悪びれもせずに笑う。それがいつものことなのか、彼らは何も言わずに羽間を睨むように見るだけ。

「まあまあ、とりあえずさ」

 羽間は肩を竦めながら言う。

「そこの女は何なんだろーね?」

 ニッと笑って彼女を見た羽間に、五人の視線も集まる。十二の瞳に見つめられ、夏希はただ戸惑うばかりだった。
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