03

「何匹くらい居るかな?」
「何匹居たって同じことだろ。いい加減に諦めれば良い。本当に往生際の悪い奴ら」
「仕方ないって。純粋な妖である自分達の方が強いって思ってるわけだし」
「鬱陶しいのよね、毎回毎回」
「否定はしねえがな」

 くすくすと笑いあいながら話す。その際にも気配を探るのを忘れずに。見つけたら、即刻排除。
 今宵は出現していないと言うことはないと思う。この教室には確かに異様な空気が流れているのだ。それはこの場に居る五人全員が感じている。
 どうしてかは分からないが、妖が現れるのはこの学校が最も多かった。昔この学校が建てられた場所に何かあったのかもしれない。それか、この場所が鬼門か。まあ、どちらでも良いこと。
 自分たちの日常を侵すのなら、死を。

「――ん?」

 ふと、颯紀は何かを感じ取った。妖というほど非凡な存在ではなく、人というほど平凡な存在ではないものの気配を。
 近くに居る。颯紀は教室の閉まっている扉に向かって歩き出す。

「颯紀?」

 後ろで誰かが彼の名前を呼んだ。その声に返事もせずに、彼は教室の扉に手をかけ――。
 バキッという音と共に扉は破壊され、無くなる。しまった、開けるつもりが力加減を間違えた。そう思う前に、彼は目の前の光景に思考を奪われていた。

「……っ」
「お前は……」

 そこに立っていたのは少女だった。どこかで見たことのある少女。彼女は扉がいきなり壊れたことに驚いているらしく、扉に手を伸ばそうとした格好で止まっている。
 けれど驚いていたのは颯紀たちも同様だった。何故なら彼女は此処に居るはずの無い存在だったのだから。

「……女?」
「それも人間よ。どうしてこの時間に此処に……」

 咲雪の焦ったような声が聞こえる。
 彼らは何も、対策なしに本来の姿に戻っているわけではない。御影によりこの学校に張り巡らされた結界で、対象者以外をこの学校に入れないようにしていた。
 人がもし入ろうとすれば、目的を忘れ立ち去るように、そういった術と共に張り巡らされた結界は、誰かが侵入してくれば分かる。最初から中に居なければ、の話だが。
 妖が無理に侵入すれば御影が気づくし、陰陽師であっても同様。一度張られた結界に招かれていない者は、無理矢理破って入るしか方法が無いのだから。
 勿論結界を張る際にちゃんと人が残っていないか確認したのだ。そうして張った結界は、破られた気配は無い。
 それなのにどうして結界の中に人が居るのだろうか。

「どういうことなの、御影」
「俺に聞かれても知らない。結界は破られてない」
「なら俺たちが見落としてたってこと?」
「ただの人間を? 陰陽師って可能性も有り得るんじゃないの?」
「……そんな風には見えねえけどな」
「……」

 自分を置いて話を進める彼らに戸惑っているのは夏希も同じである。扉が破壊されたかと思えば、目の前に立っていたのは同じクラスの如月颯紀で、しかも彼は夏希が見えていた可笑しな格好をしているのだから。
 教室の中に居た九重燎、氷河咲雪、白崎御影、黒羽那岐も同様。だけどもう一人、時任羽間の姿が見えない。
 どこか、別の場所に居るのだろうか。そう思いながら視線を巡らせたところで、彼女は『ソレ』を見つけてしまった。
 『ソレ』は女だった。上半身だけは。下半身はまるで蛇のように長い。蛇かどうかも分からなかったけれど。
 天井に張り付いている『ソレ』はぬるり、と濡れた全身を蠢かせていた。髪が長いだけあって、さながらホラー映画のワンシーンのようだ。とても怖い。
 颯紀たちの格好をコスプレだと仮定するのならば、アレは何なのだろう。重力に逆らっている。明らかにコスプレとか、そんな域ではない。

「も……本当に何なの?」

 ポツリ、と思わず声に出して呟くほど彼女は混乱していた。夜に気づいたら学校内に居て、コスプレ紛いの格好をした同級生が居て、天井には重力に逆らって動く女。どう見たって普通じゃない。
 しかも颯紀たちは気づいていない。雫を滴らせながら動く女に気づかないって、目は見えているのだろうか。それとも見えていての敢えての無視だろうか。
 夢であってほしい、と夏希が願っている中、『ソレ』は下半身を大きく唸らせて電灯を割り、真下にいた颯紀に向かって激突する。

「……え!?」
「……う、ぐっ!?」
「颯紀!」

 何の準備もしていなかった颯紀は、当然のことのように吹っ飛ばされた。電灯が割られたことにより、電気は消え、破片が降り注ぐ。
 颯紀の目の前にいた燎は突如消えた颯紀に驚き、吹っ飛ばされたことに気づいて辺りを見回すが、何も『居ない』。暗くなったことは障害ではない。元より目の作りが人間とは違うのだから。
 何も居ないことに焦っていると、右側に凄まじい衝撃を感じ、燎の視界は一変していた。

「……っ」

 状況整理が追いついていない燎は、机や椅子を薙ぎ倒しながら身体を強かに打ちつける。受身すら取れなかった。

「……は……っ、え?」
「ちょっと、しっかりしなよ!」
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