04

 部屋の中は暗かった。締め切ったカーテンから、僅かに夕暮れの光が洩れる程度で、殆ど見えない。けれど彼のベッドが置いてある場所は、見えなくても覚えている。
 漣が眠っているであろうベッドに近づいて、塊に触れる。

「漣君、起きて。おばさんが呼んでるの。ねえ、漣く……っ!?」

 腕を掴まれ、ベッドに引きずり込まれ、押し倒される。今日でもう何回目だろうか。何か慣れてきた。慣れてきたが、相変わらずの貞操の危機だ。

「れん、くん……」
「そんなに無防備に男の部屋に入ってきて、襲われたいの? それとも誘ってる?」
「待って、漣君……んっ!」
「ん……ああ、もう、孕ませたい」

 首筋に顔を埋めながら言った一言は、とんでもないものだった。抱きたいならともかく、孕ませたいって。抱かれたら終わりだという意味だ。高校生にもなっていないのにそれは不味い。

「れ、漣君っ」
「孕ませちゃえば、アンタ、逃げないでしょ?」
「私、まだ高校生! 漣君に至ってはまだ中学生だからね!」
「関係ないよ。結婚するわけじゃない。出来る年になるまで、アンタを繋ぎとめておく手段ってだけだし」
「尚悪い!」

 中学生とは思えないような色気を醸し出しながら、漣は夏希の首筋に落とした唇を徐々に下に移動させていく。手も決して安心できる場所にあるわけではないので、夏希はどう回避しようか思考を張り巡らせていた。
 正直廊下でもリビングでもない、漣の自室であるこの状況が一番ヤバい。何とかして抜け出さないと。

「れ、漣君……おばさんが呼んでたんだよ?」
「後から行けば良いよ」
「よ、くないよ……怒られるよ」
「母さんは甘いから大丈夫」

 大丈夫じゃない。全然大丈夫ではない。

「っ、れんく……!」

 手がスカートの中に進入してきた。下着の上から軽く撫でられて、本気で焦る。このまま手が進んでしまえば、大変なことになる。

「な、ぎ……っんん!」
「姉ちゃんは呼ばせないよ? ね、そろそろ覚悟決めなよ」

 中学生に孕まされる覚悟なんて出来ません。口を手で塞がれたまま首を横に振るが、漣は全く気にしていないようで「あっそ」とだけ答えるともう一度同じ場所を指が掠めた。

「大丈夫、優しくするから」
「んーっ!」

 優しくすれば良いってもんじゃない。兄弟揃ってもう! と思いながらも、最後の砦の中に進入してこようとする漣の手に、戦慄したその時。

「れーん君」
「……姉ちゃん」

 これ以上ないほど優しい声で、漣の名前を呼ぶ渚が、彼の部屋の扉に寄りかかっていた。顔も笑顔を浮かべていたが、その笑顔もその声も、何故だか今は震えるほど恐ろしい。

「それ以上したら、使い物にならなくしちゃうよ?」
「……」

 悪ふざけでもどこを? なんて聞けないまま、漣は軽く青ざめた表情で夏希から離れた。解放された夏希はホッと息を吐く。

「夏希ちゃんも、気をつけなきゃ。分かった?」
「う、ん……ごめん」

 漣に近づいたのは自分からなので、自業自得である。もっと気をつけなきゃな、なんて思いながら三人でリビングに行くと、リビングに入った瞬間、渚が剥れながら言った。

「……やっぱり我慢できない」
「え?」
「夏希ちゃんが心配で我慢できない! 夏希ちゃん、私と一緒になろう!」
「渚!? ちょ、どうしたの!?」

 いきなりの発言に、兄弟四人も固まっていた。因みに美奈は丁度席を外していて居ない。思えば美奈にこういうシーンを見られたことはなかった。彼らの父親にならあるんだけど。その時の台詞は「孫は女の子が良い」だった。ちょっとその整った顔を殴りたくなったのは秘密です。

「大丈夫! ちゃんと夏希ちゃんを満足させてみせるから!」
「いやいや、私たち女の子だよ!?」
「女の子のことは、女の子が一番良く分かってるよ。だから、ね? 夏希ちゃん……」
「……っ」

 艶かしい眼差しでこちらを見つめてくる渚。近づいてくる顔に、するりと体を撫でる手に、ついに夏希の我慢の限界が来た。

「も……っ、いやあ!」

 幼馴染の美形五人兄弟に好かれた平凡少女の前途は、まだまだ多難であるらしかった。





End.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -