03

 荷物を置きながら流がしてきたことは、夏希をソファーに押し倒すことだった。たった今、自分の口で無理強いは逆効果だと言ったのに。
 渚は兄弟二人を叱るのに忙しいし、涼と滉は渚に叱られている為夏希と流の状況に気付いていない。先程までとはいかないが、この体勢も十分ヤバいような気がするのだが。

「分かっていてもどうにもならないことってあるよな」
「開き直んないでよ、ばかっ! ……って、あっ」
「丁度いい大きさ。こんくらいが一番だよな、やっぱり。大きすぎると萎えるし、小さくても欲情しないわ。あ、勿論アンタのだったら何でもいいんだけど」
「良いから、手! 手、離して……んんっ、ちょ、や……っ」

 開き直ったように笑いながら、夏希の胸を触る流。何だってここの家の兄弟はこうもセクハラばかりするんだろうか。もう少しマシな口説き方があるだろうに。
 前言撤回だ。先程までといかなくない。今も相当にヤバい。だからこの家にはあまり来たくなかったのに、と後悔する。一人ずつ会うならまだ良いのだが。
 ていうか、触り方が、ちょっと変わってきた。体がピクリと反応する。

「りゅ、う、く……っ」
「……やべ、その声、クる」
「あ、ぅ……」
「夏希……」
「流兄!」
「ってえ……っ」

 一瞬の内に流の姿が無くなったかと思うと、彼は顔を歪めながらソファーの下を転がっていた。ソファーの隣には渚が立っていて、こちらの異変に気付いた渚が助けてくれたんだろう。

「全く、流兄も油断ならないんだから!」
「渚……」
「夏希ちゃん、私が守ってあげるから安心してね」
「……ありがとう」

 渚の言葉は涙が出てくるほど嬉しいが、だったら今すぐ家に帰してほしいと思った。隣なのに何だか凄く遠い。自分の家なのに。
 とりあえず渚の家に居るうちは渚に引っ付いていれば良い。そうすれば妹に甘い兄達は、嬉しそうに夏希に抱きつく妹から夏希を引き離すなんて出来るはずもなく、諦める他ないのだ。
 今日は帰るまで渚から離れないようにしよう。そう心に決意する夏希。それからは、彼らの母親が帰ってくるまで、ゲームなどで時間を潰していた。セクハラさえしてこなければ、良い幼馴染なのだ、彼らは。

「夏希ちゃん、そこで奥義!」
「え、奥義ってどうやって出すの? ……あ、何か技、決まった?」
「マジかよ、隠し奥義って、ちょ……!」
「あ、死んだ」
「兄貴達、だっさ」

 渚、夏希の二人組みと涼、滉、流の三人組でローテーションで二人組みを作って対戦していたのだが、勝敗は夏希達が全勝だった。夏希は序盤役に立たない代わりにここぞというところで出すのが凄く難しい一撃必殺の技を繰り出してくる。本人曰く適当らしいが、あまりにも頻発するので疑わしいところだ。

「あー、結構自信あったんだけどな」
「正直最後のは滉兄貴の所為で死んだと思うんだけど」
「あ? 人の所為にすんなよ、瞬殺された流ちゃん?」
「……アンタが足を引っ張った所為だろ」
「言い訳とか格好悪いな、お前」
「どっちもどっちだろ、別に。両方弱かったし」
「涼兄、それ、火に油を注ぐだけだって」

 わいわい、がやがや。渚たちが四人で話しているうちに、夏希は彼らの母親である美奈さんの元へ向かった。とても五児の母親には見えないプロポーションを誇る彼女は、未だにナンパされるらしい。さすがだ。

「あ、夏希ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと喉渇いちゃって」
「じゃあこれをどうぞ」

 そう言って手渡されたのはジュースだった。今から持っていこうと、人数分注いでいたらしい。飲み終わったコップを洗おうと服を捲くると、美奈に止められる。

「良いわ、私が洗っておくから」
「え、でも……」
「その代わり頼みがあるんだけど、漣を起こしてきてくれない? あの子、多分部屋で寝てると思うのよね、電気消えてたし」
「……」

 何気ない頼みなのだろう。たまたま近くに来たから頼んだ。それだけ。しかし夏希は顔を引きつらせる。
 篠原漣。篠原家五人兄弟の最後の一人で、唯一の中学生だ。ていうか全員年子って、正直頑張りすぎだと思う。五つくらい年が離れていればこんなことにはならなかったかもしれないのに。
 中学三年生の彼は、バスケ部に所属している。中学生にしては身長は高く、もうすぐで百八十だったか、もういってるのかは知らない。受験生だけあって今は勉強に勤しんでいるようだが、本来は勉強は好きではないと言っていた。面倒だから嫌いなんだと。
 そうして彼も、夏希に迫ってくるうちの一人。兄弟は好みも似るのだろうか。双子ならまだ分からなくもないけど、普通の兄弟まで。一人っ子の夏希には分からなかった。
 とりあえず夏希の悩みの種の最後の一人を起こすことを、夏希は複雑に思いながらも了承する。美奈には色々と世話になっているから、なるべく頼みごとは引き受けるようにしていた。
 別に彼らのことは嫌いではないのだ。夏希にとっては大切な幼馴染。ただ、幼馴染のままで居てくれたのなら、これ以上ないほどの親愛の情を向けていたというのに。セクハラをしてくるから嫌なんだ。セクハラさえなかったら、まだ。
 そう思いながら、恐る恐る漣の部屋をノックする。返事はない。そっと開いてみる。鍵はかかっていない。
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