01

 高校生になったので、アルバイトをしようと思い立った。今までは両親から小遣いを貰っていたのだが、その額は三千円程度。色々欲しいものが増えてきた今、一ヶ月に三千円では少し厳しい。
 貰えるだけでも良いかもしれないが、三千円で一ヶ月って。ゲームは買えないし、漫画だってそんなに買えない。欲しいのはそれだけではないし。
 勿論、友人と遊びに行くとなればもう少し貰えるけれども、もっと使える額を増やしたい。それなのでアルバイトをしようと思った。自分で稼いだお金ならば、何に使おうとも文句は言われないだろう。
 とはいえ、楽で自給の良いバイトなんて早々見つかるはずもない。出来れば自分の家の近くでバイトしたいと思うことも、安易に見つからないことに拍車をかけていた。

「何か良いバイトないかなあ……」

 呟きながら自転車で帰っている途中、ふと通ったコンビニの隅でチラシが張ってあるのを見つけた。こういった場所に張ってあるのって、何となく眼は通すけど真面目に見ていないことが多い。よく寄るコンビニだったが、初めて見つけるチラシだった。

「急募、アルバイト募集中……自給、千円って。年齢は高校生以上で女性限定……場所も自転車で通える場所だし、良いかも」

 そのチラシには高校生以上なら誰でも可。自給は千円で、コンビニの深夜バイトでさえ四桁に満たないところがある中、夕方に、高校生でも千円貰えるなんて相当良いバイトだろう。
 しかもシフトは要相談で、時間も自由。いつ行っても大丈夫らしい。ただ、一週間に一回は絶対に来ること、とは書いてある。逆に言えば一週間に一回行ったら、他の日は来なくても良いということだ。
 しかしこういうバイトには怪しいものが多い。内容は動物の面倒を見ること、と書いてあるが、連絡するのは少し躊躇われた。
 けれどこれ以上良い条件のバイトは見つかりそうにもないし、とりあえず、ということで連絡する。

『――もしもし』
「あ、すみません……あの、蒼麻夏希って言います。その、急募のチラシを見たんですけど……」
『ああ、アルバイト希望の方ですか』

 電話に出たのは男だった。穏やかで優しそうな声で、まだ若いように思える声音だったが、実際はどうだか分からない。

『まずは面接を受けてもらえますか? お時間のある時はいつでしょう?』
「あ、あの、いつでも大丈夫です」
『それなら早い方が助かります。いえね、もう何人もの方が面接に訪れてくださっているんですが、中々気に入ってはくれなくて』
「はあ……」
『とりあえず明日でも大丈夫ですか?』
「あ、はい」
『それなら明日。お時間はいつでも結構ですよ。場所はそのチラシに書いてある場所でお願いします。履歴書などはいらないので』

 男性はそう言うと、微かに笑ったような声音で『それではお会いできることを楽しみにしています』とだけ告げて電話を切った。
 やっぱりもう何人もの人が面接を受けているのか、と少し焦る。明日は授業が終わったら早めに行かなくては。そう心に決めて場所をメモし、家に帰る。
 しかし電話口で行っていた気に入ってくれない、とは誰のことだろうか。男性のことではなさそうだ。動物の世話、と言っていたから、その動物のことだろうか。
 何の動物、とは書いてはいなかったが、内心犬とか猫だろうと勝手に決めてしまっていた。犬や猫は好きだし、飼ったことはないがどうにかなるだろうと。
 安易で決めてしまったのが、いけなかったのか。

「……」
「ふうん」
「どうですか、玲緒。気に入りました?」

 現在、夏希の目の前には金髪に褐色の目をしたワイルドで野生的で、動物で例えるならライオンだろうと言われそうなイケメンが、マジマジとこちらを観察していた。顎に手をかけられ、上を向かされ、ジッと見られる。その近さといったら。イケメンに耐性のない夏希には心臓に悪すぎた。
 その様子をニコニコと笑いながら見守る男性は、昨日電話に出た男性らしい。名前は須川恭と言っただろうか。
 今日、夏希は学校が終わると同時に即座にバイト先に向かった。学校からそう遠くはないその場所には、十分位で着いただろうか。中に入ると須川が対応してくれたのだが、少し待たされたので、バイト先を観察してみた。
 至って普通のペットショップだった。初めて来たのだが、結構大きい。客も割と入っているし、先程からこちらを見てくる犬や猫には心惹かれる。可愛い。
 人懐っこいのか、夏希に向かってじゃれ付いてくる犬や猫たちをガラス越しに可愛がっていると、須川が微笑みながらやってきた。

「お待たせしましたね。さあ、どうぞ」
「あ、はい」

 彼に案内されて、奥の部屋に案内される。その途中で須川に待たされた理由を話されたが、何でも夏希の前に面接を来た人の対応をしていたそうだ。その人に決まれば夏希に帰ってもらうつもりだったけど、決まらなかったのでこうして彼女まで順番が回ってきた。
 それを聞いてホッとしたが、心配にもなった。こうも何人も落とされているのに、自分が受かることは出来るのだろうか、と。

「そういえば、お世話をするのはどんな動物なんですか?」
「ネコ科やイヌ科なんですけどね。警戒心が強くて、中々心を開いてくれないんですよね。僕には結構懐いてくれているんですけど、いつでもお世話できるほど暇でもないもので。一週間に一日でもいいので、世話をしてくれる方が必要なんですけど」

 誰も気に入ってくれないんですよね、と溜息を吐きながら言った須川に、夏希はやっぱり犬とか猫だったのか、と安心した。兎とかでも可愛いが、変な動物を当てられても困るのだ。
 しかし夏希は気付いてはいない。須川は犬や猫と言ったのではなく、イヌ科やネコ科と言ったことに。

「こちらです」
「此処に?」

 その部屋は特に奥のほうにあった。須川は微笑むだけで開けようとはしなかったので、夏希は恐る恐る開けることにする。
 中は広かった。しかもやけに豪華だ。大きなソファーにベッド、テレビもあるし冷蔵庫やその他諸々。生活するには困らなさそうだが、動物の世話に冷蔵庫やテレビは必要なのだろうか。
 そんなことを考えながらも世話をする動物はどこに居るのだろうと辺りを見回すと。

「きゃっ」

 いきなり横から伸びてきた手に顎を掴まれ、手が伸びてきた方向に向かされる。そこには何ともワイルドなイケメンが居て、今に至るのだ。

「で、どうです?」
「まあ、悪くねえな」
「初めてですね、貴方がそういうの」

 夏希を置いて話を進めるのはいいが、いい加減手を離して欲しい。それと須川が言っていた世話をしてくれと言う動物が全く此処に居ないではないか。
 どういうことなのかと彼らに聞こうと口を開こうとしたら。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -