02

「最近、ここら辺で悪魔が出没すると聞いたのだけれど」
「そういう噂があるみたいですね。昨日も無残な死体が見つかったとか」
「ああ、酷い状態だった。おそらくは生贄、だろう」
「生贄……」
「そう。悪魔を呼び出した者が、自身の願いを叶えるために悪魔に捧げる供物のことね。生贄は今のところ六体。六人もの魂を捧げるなんて、一体どんな願いをしたのかしら?」

 彼らによると、願いが重くなればなるほど、生贄の数は増えるらしい。例えばお金持ちになりたい、程度の願いであれば召喚者の魂を少しもらえば事足りる。だが死者を生き返らせたい、など自然の理に反する願いはそうもいかない。
 よく自分はどうなっても良いから死者を生き返らせてくれ、という言葉を聞くが、死者蘇生は召喚者だけの魂では足りない。それもそのはず。人間がどうやったって出来ないことをするのに、一つの魂だけで失った魂を取り戻せるはずもないのだ。
 故に代償は高い。召喚者の魂、加えて他の魂も必要になる。そう、エクソシストの二人は言った。

「死者蘇生は間違いないのだろうけど。それも相当数が多いみたいね。ということは家族を失った者だったりするのかしら?」
「まあ、今は想像に過ぎない。早々に悪魔を呼び出した者を見つけなければいけないね」
「……それで、あの」
「ん?」
「どうして私に声を?」
「ああ、いや、東洋人は珍しいからね。つい声をかけてしまったんだよ。言葉も上手い。もう何年もこの国に住んでいるのかい?」
「五年ほどですけど」
「なるほど」

 確かに白人の中で東洋人の夏希は目立つだろう。とはいえ零ではないし、珍しいというものでもないはずだ。昔と違って、外国には簡単に行き来できるようになったこの時代、他の国に移り住む者も多くいるのだから。
 彼らが声をかけてきた理由はそれだけではないような気がして、少し警戒する。そもそも夏希の国ではエクソシストの存在は普通ではない。多分国内には居ないと思う。テレビの中だけの存在だったのだ。目の前の二人が本当にエクソシストかどうかも怪しい。それを言ったら悪魔の話もそうなのだけれど。

「ああ、警戒しないでほしい。とはいっても無理かな? そうだね。僕たちが君に声をかけたのは何もそれだけが理由じゃない。君から悪魔の気配を感じるんだ」
「……私?」

 こてん、と首を傾げる。悪魔の気配なんて、そんな馬鹿な。だって夏希は悪魔を召喚などしてなければ、契約を交わしたわけでもない。悪魔の気配なんて、するはずがないのに。

「貴方を悪魔だと疑っているわけではないの。そうね……生贄、という点が妥当かしら。貴方、悪魔の生贄に選ばれてしまったのよ。何か印を付けられたんじゃないかしら?」
「……記憶はないですけど」

 生贄。生贄だって? そんなはずはない。夏希が生贄に選ばれる理由など、何処にもないはずだ。

「……」
「心配しないで。私たちが悪魔から貴方を守ってあげるから」

 考え込んでしまった夏希を、怯えていると判断したのか、少女は優しく微笑みながらそう言った。悪魔がどの程度のモノかも知らずに自信満々にそう言ってのける彼女は、エクソシストとしての力が強いのか。
 それとも強いのは少女の方ではなく、青年の方かもしれない。彼もまた、笑みを浮かべていた。

「おいで。君は殺させたりしない。大丈夫だ」
「……はあ」

 差し出された手を取ったのは、逃げられないと悟ったからだ。ここで断っても、無駄のような気がして、夏希は彼らと共に行くことを選んだ。丁度良いか、とそう思いながら。



* * *



 連れてこられた教会だった。教会など利用したことはないなあ、と思いながら中に入る。ふと、少し違和感を感じた。

「結界が張ってあるんだよ。だから並大抵の悪魔なら中に入ることは出来ない。それどころか触れただけで浄化されるのさ」
「ということは中に入ってこられる悪魔というのは……」
「相当力の強い悪魔ね。六人もの魂を食らっているのだから、力もかなり増しているはずよ」
「……」
「でも大丈夫よ。私たち、これでもランクAの悪魔なら何度も撃退してるの。だから心配しないで。……といっても、不安かしらね?」
「いえ、その……ランクAというのは?」
「悪魔はその能力でランク分けされているんだよ」

 悪魔は上位になればなるほど、強い力を操るのだという。最下位はE。最上位はS。正直、CからEまでの悪魔はエクソシストになれる人間ならば殆どの者が撃退できるそうだ。ただBからは難易度が跳ね上がり、ランクAの悪魔を退治できる者は彼ら二人を含めて少々。Sともなれば今だ退治できた者は居ないらしい。
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