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「実は僕、何かと捨てられた動物に縁があるんですよね」
「はあ……」
「このペットショップにも、捨てられた子達が多くてね。勿論血統書つきも居るけれど、僕は捨てられた動物達を可愛がってくれる人達に会わせてあげたいんです。彼らを引き取ってくれる人たちからはお金は貰ってませんしね」
「なるほど。……えーと、それで?」
「この子達は特に引き取り手がいらっしゃらなくてね。ええ、貴方が来てくれて良かった」
「いや、引き取りませんからね!」

 何で面倒を見ると言う話から引き取るとか引き取らないとかの話になっているのだろうか。というか肉食獣四匹なんて家で飼うことなんて出来ません。
 そもそもライオンや狼、トラや狐を一体どこで拾ってきたと言うんだ、この人は。

「普通に道に捨てられていましたけどね」
「そんな馬鹿なことがあるはずないですよ! ……ていうか、あの、それよりも聞きたいことがあるんですけど!」
「何ですか?」
「何でこの人達、人の姿になれるんですか?」

 そう言って夏希は困ったように自分の周りを見回した。
 そこにはソファーに座っている夏希の膝に頭を乗せて寝転がり、撫でろと強請る玲緒に、夏希の肩に頭を乗せて眠っている神威。床で彼女の足に寄り掛かっている大河に、一人だけ動物の姿で彼女に抱かれ、撫でられている樟葉。
 動物なのだから動物のように擦り寄ってくることは悪くはないのだが、如何せん全員の顔が整っていて心臓に悪すぎる。いや、だからと言って動物の姿のままで来られたら、力が強すぎて辛いが。
 今まで特に動物に好かれるということはないのだが、どうにも彼らからは懐かれているらしく、バイト三ヶ月を過ぎても順調だった。世話と言っても一緒に過ごしているだけで良いし、一緒に居る間は大抵撫でているだけだし。
 夏希の言葉に須川が可笑しそうに笑いながら言った。

「何を言っているんです? 全ての動物はこうして人の姿を取れますよ。人の前では取らないだけで、見てないところではこうして生活しているんです」
「……いやいや」
「貴方は動物と過ごしたことはないんでしょう? でしたら、知らないはずです。いつも動物の姿で居るからって、人の姿を取れないと思い込んではいけませんよ」
「まあ、そうなんですけど……」
「見知らぬ人の前では動物は人の姿になりませんからねー。知らなくても無理はないですけど」

 だからってこうやって知りたい事実であったかと言うとそうでもない。出来れば知らないままで居たかった。
 衝撃的な事実に玲緒を撫でていた手が止まっていたらしく、夏希の手を掴んでぐりぐりと頭に押し付けた。ああ、可愛い。大の男でなかったらもっと可愛いのに、と思いながら撫でるのを再開する。
 どうやら彼らは夏希に撫でられるのが大層好きらしく、暇さえあればこうして撫でろと強請ってくる。いや、全員ふわっふわだから良いんだけど。

「何ていうか……皆格好良くてやりづらいというか……」

 はあ、と溜息を吐くと、今まで一人(一匹?)だけ動物の姿で居た樟葉が青年の姿に戻り、不安そうな顔で夏希にギュッと抱きついた。因みに前は全て埋まっているので後ろからギュッと。

「夏希、僕達のこと、嫌?」
「……いや、別に嫌じゃないけど……」
「嫌じゃないなら別に良いだろ」
「まあ……って、近い近い」

 うるうると瞳を潤ませながらギュウッと凄い力で抱きついてくる樟葉の頭をよしよしと撫で、夏希の首筋に顔を埋めてくる玲緒を引き剥がす。玲緒のこの行為はどうやら彼なりの好意を示しているらしいが、正直近すぎて落ち着かない。
 と、反対側でも温もりを感じた。

「んー……」
「神威も近いっ」
「だってアンタの匂い、好きだから」
「だからって……ひっ、ちょ……た、大河っ」
「やっぱ美味そう。……なあ、喰っちゃ駄目?」
「駄目っ」

 夏希の匂いを気に入っている神威に、癖なのか何なのか知らないがやたらと耳を噛んでくる大河をあしらっていると、ニコニコと笑いながら「いやあ、懐かれてますねえ」なんて言っていた須川が近づいてきた。
 顔には相変わらず笑顔を浮かべているが、この三ヶ月見てきた笑顔とはどこか違う気がする。
 どこか違和感を覚える笑顔を浮かべながら、今まで一度も助けてくれなかった須川が近づいてきたのは何故だろうと思いながら見上げると。

「貴方は本当に動物に好かれる方ですね」
「はあ……」
「でも覚えておいてくださいね。好かれるのは動物にだけではないということを」
「は?」

 何を言っているんだ、この人という視線を須川に向けると、彼はにっこりと満面の笑みを浮かべながら近づいてきて。
 直後、頬に柔らかな感触を感じた。

「……え?」
「これからも彼らの世話、お願いします。まあ彼らによりも、僕に会いに来てくれたら嬉しいんですけどね」
「……」

 彼らの世話の為に雇ったバイトに何を言っているんだとか、いきなり何をするんだとか、言いたいことはいっぱいあったが思考が全くまとまらない。
 あまりに突然のことに混乱して固まっていると、須川はやけに上機嫌の笑顔を浮かべたまま店の方に行ってしまった。
 顔が赤くなっているのが分かる。正直言って須川も此処に居る彼らに負けず劣らず格好良いのだ。そんな彼に告白紛いのことをされて、顔が赤くならないわけがない。
 その後、何故か不機嫌になった彼らにぎゅうぎゅうに抱きつかれたが、それよりも。
 面接の時に須川が言った、肉食獣に好かれるというのはあながち間違いでもなかったらしい。
 どうやら彼も肉食系だったようだ。
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