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 身体測定を終えた次の日、火曜日。今日から授業は通常のものとなり、しかも今日は火曜日なので七時間である。
 教科書が沢山詰まった鞄が重たくて仕方がない。自転車のペダルもとても重く、朝から疲れた。やっぱり分けて持ってくればよかったと後悔したが、もうだいぶ遅い。昨日ロッカーを割り当てられたので、教科書は全て置いて帰ろう。テストの時にだけ持ち帰って勉強すればいいだろう。
 そんなことを心を決めながら登校する。早速教科書をロッカーに詰め込んで席に着いた。
 初めての七時間の授業だったが、殆どは担当の先生と生徒たちの自己紹介で終わってしまった。本格的な授業開始は次回からのようだ。
 そうして火曜日もあっと言う間に終わり、水曜日。六時間で帰れる日がこんなに嬉しいとは思わなかった。中学では六時間こそが嫌で仕方がなかったのだけれど。
 今日は早く帰れる、と思いながらホームルームを受けていると、戸田が言った。

「今日は委員会があるからなー。委員会に入った奴、ちゃんと忘れずに出ろよ」
「……え」

 委員会。夏希が入ったのは図書委員なので、委員会の場所は当然ながら図書室だろう。だが場所が分からない。夏希が行ったことがあるのは保健室と視聴覚室だけなのだ。
 ホームルームが終わって一限目を終えた夏希は、身体測定の時に一緒に周った友人たちの元に向かう。

「図書室ってどこにあるのかな?」
「え、分かんない」
「一昨日行った場所以外分かんない」
「あれ? でも視聴覚室の向かい側が図書室じゃなかった?」
「本当?」

 夏希や他の二人が首を傾げる中、残りの二人は絶対そうだよと頷きあっている。記憶を探ってみても全く思い出せない。
 だが二人があまりにも大丈夫と自信満々に言うものだから。

「視聴覚室の向かい側か……絶対?」
「うん! 間違いないよ!」
「私も覚えているし、多分大丈夫だよ」
「……じゃあ二人のこと信じるから」
「そうして」

 視聴覚室の行き方も不安があるが、まあ何とかなるだろう。
 授業も終え、放課後。夏希たちのグループで委員会に入っているのは夏希と弥生の二人だけなので、残りの三人は早々に帰ってしまった。全く、羨ましい限りである。

「弥生はどこ?」
「私は二階。先輩の中行きたくないなあ」
「あー、どんまい」

 桜華高校は一年生が一階、二年生が二階、三年生が三階という風に教室が割り当てられていた。弥生は二年生の教室に集合のようだ。放課後になったばかりの今はまだ二年生が多く残っているので、学年カラーが違う弥生は目立つ。だから嫌なのだろう。
 一人じゃなければ良いのだろうが、弥生と同じ委員会になった女子は、別のクラスの友人と早々に行ってしまったらしい。
 夏希は女子一人、男子一人の委員会のため、元から一緒に行く友人なんていないのだけれど。

「まあ仕方ないよ。委員会で誰か友達作らないとね……私も出来れば良いんだけど」
「そうだね……うん、頑張る」
「じゃあ、私こっちだから」
「うん、夏希も頑張って」

 視聴覚室は教室のある棟とは別の棟にあるので、弥生とは早々に別れ、一人で廊下を歩く。視聴覚室は確か三階だったはずなので、その向かい側にあるのならば図書室も三階だろう。
 階段を登っていくと、人が増えてきた。図書室の利用率は分からないが、こんなに賑わっているとは思わないのできっと彼らも委員会のメンバーだろう。ということは、と足を速めると図書室を見つけた。向かい側には視聴覚室。どうやらあの二人の記憶力は正しかったらしい。信じてよかった。
 図書室では人がごった返していた。どうしたら良いのか戸惑っていると、先輩らしい女子が話しかけてきた。

「貴方、図書委員?」
「あ、はい」
「じゃあこれ持って、空いてる席に座って」
「ありがとうございます」

 手渡されたのは一枚のプリント。適当に空いてる席に座って貰ったプリントに目を通す。その紙には、図書委員の仕事について書かれていた。
 図書委員の仕事はカウンターの当番と、図書室の清掃だ。カウンターの当番は二人一組で行うようだが、人数の関係から月に一回もないようだ。ただ夏休みは午前と午後を分けて当番を配置するので二、三回は担当することになりそうだが。
 これから行うことはその組み合わせを決めることらしい。どうやって決めるのかと思えば、くじ引きだそうだ。折角示し合わせて一緒の委員会になった人達もいるだろうに。けれど適当に好きな人と組んで、なんて言われたら組む相手が居なくて困ってしまうので、これはこれで良かったのかもしれない。ただ相手が男子か女子か。それが問題である。
 くじを引く順番は一年生の一組からだ。夏希は五組なので、早々に順番が周ってくる。
 番号は『十二』だった。一体誰が相手なのだろうと思っていると。

「十二ってお前?」
「え、あ、はい」

 話しかけてきたのは二学年上の男子だった。手に持っているくじに書かれている番号は夏希と同じ『十二』。どうやらこの人が夏希の組み合わせの相手らしいが、どこかで会ったことがある気がする。

「俺は東城湊。よろしく」
「あ、蒼碼夏希です。こちらこそよろしくお願いします」

 自己紹介を聞いて思い出した。もしかして一昨日、弥生たちが騒いでいた先輩ではないだろうか。確か名前が『トウジョウ』だった気がするのだが――いや、でもどうだろう。ちゃんと顔を見ていなかったので分からない。
 だが湊の顔は夏希からみても整っているように思える。そういえば隣の席の怜緒といい彼といい、何だがやたらイケメンに縁がある気がする。弥生が知ったらまた煩そうだ。

「図書当番とか面倒くさ……」
「あー、ですよね。さっさと帰りたいです。図書館とかテスト期間以外あんま利用する人いなさそうじゃないですか?」
「分かる」
「……先輩は何で図書委員に?」
「ジャンケンで負けたんだよ」
「私と同じですね」
「じゃなきゃなんないつうの、こんな委員会」
「ですね」

 全員がくじが引き終わって自分の組む相手を探している間、早々に見つけた二人は小さな声で会話する。結構ポンポンと会話は弾み、委員会が終わる頃にはそこそこ仲良くなっていた。

「俺たち、いつだっけ?」
「五月ですよ。ゴールデンウィーク明け」
「忘れそう」
「私もです」
「俺にちゃんと教えてよ?」
「え、いや無理です。覚えててくださいよ」
「一ヶ月後のこととか普通忘れるでしょ」
「それは私もですから!」

 ていうかこちらは高校生活になれるのにいっぱいいっぱいなんだが。絶対忘れてる自身ある。携帯のカレンダーにでも書き込んでおこうか。

「ま、いいや。じゃあそん時はよろしく、蒼碼」
「はい」

 湊は委員会が終わると早々に帰っていく。夏希も帰ろうと荷物を持って立ち上がった。弥生はもう終わっているだろうか。
 下駄箱があるのは教室がある棟なので向かっている最中に弥生に会った。委員会は終わる時間がバラバラだと聞いていたから一緒に帰るのは無理だと思っていたが、運が良かったようだ。

「あ、夏希ー!」
「弥生も丁度終わったところ?」
「うん。時間重なって良かったね」

 下駄箱に向かい、ローファーに履き替える。自転車置き場は玄関を出てすぐの場所にある。自身の自転車が置かれている場所に向かい、鍵をさした。
 そのまま跨って走り出す。やっと今日が終わった。
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