好きな人も質問してきた本人なんだから、教えられるはずもないのだ。
それなのに彼女は、今日に限って続けざまに聞かれたくないことを質問してきて。
しかも瑞希や龍希にもバレていたなんて。
「……つうか姉貴、俺ってそんなに分かりやすいか?」
「お、お腹痛い……捩れそう……って、何? アンタが分かりやすいか? まあ、分かりやすいか分かりやすくないかと言われれば、分かりやすいわよね」
「……」
「夏希と話している時はアンタ、嬉しそうな顔してるもの。私達の中で分かってないの、多分夏希だけじゃない? 自分に向けられる好意って分かりにくいものね」
「……マジかよ……」
本当に可笑しいわー、とやっと落ち着いてきたらしい美智留。
棗はというと、自分が分かりやすいということに気付いてなかったらしく、酷く落ち込んでいた。
夏希と話している時、嬉しそうな顔をしているなんて、全然自覚していなかった。恥ずかしい。恥ずかしくて仕方ない。顔に熱が集まってきた。
「も、本当……有り得ねえ」
「あら、大丈夫よ。今までも気付いてなかったんだから」
「そういう問題じゃねえし……」
溜息を吐きながら髪を掻き揚げる棗。その様子はとても様になっていて、中学の時の女子や高校の女子が見れば顔を赤くしているだろう。
「大体、さっさと告白しちゃえば良いのに」
「……今更そう簡単に出来るかよ……アイツは俺のこと、絶対異性として見てないし」
「そうねえ……」
他人事のように言う美智留を、睨むように見つめて呟く棗。
幼馴染という関係は、何よりも近しい存在だとは思う。しかしいざ後少しの距離を埋めようと思ったら、中々踏み出せない間柄でもあった。
近すぎて寧ろ踏み出せないし、相手が自分のことを異性として見ていないことは分かっているし、告白して断られた時、この関係が壊れてしまうのが怖い。
壊れるくらいなら口に出さない方が良いのではないかと思うが、やはりそれ以上望んでしまう自分が居る。
その気持ちを誤魔化す為に中学時代は色々とやんちゃしたが。言い訳しておくが、あの頃は若かったのだ、うん。
「やっぱり、アレね。中学の時の女遊びがいけないと思うのよね」
「……まあ、それに関しては反省してるというか。幾らなんでも羽目外しすぎたな、とは思ってる」
もう少し押さえておくべきだったと言うか、自重すべきだったと言うか。来る者拒まず去る者追わず、な態度は止めておけば良かった。
彼女に彼氏が出来たと聞いた時はどれだけ後悔したか。
今は別れたから良いが――否、先程今もまだ友人として交流があると聞いた時は、苛立ったが。
とりあえず、高校では女の子と付き合うつもりはない。
「まあ、過ぎちゃったものは仕方ないし。これから頑張りなさい」
「頑張れって言われてもな……」
「諦めるつもりなんてないんでしょ?」
「そりゃあ、まあ……」
諦められるか、と言われたら否だ。再び彼女に恋人が出来た、なんて言葉は聞きたくない。
聞きたくはないが――。
「とりあえず最初は、何とかして俺のことを男として意識させるところから始めねえとだよな……」
「そうね。それが一番大変な作業よねえ」
とはいえ、今まで何とも思っていなかった相手を意識させるにはどうしたら良いのか。下手に迫って嫌われでもしたら意味ないし、方法がまるで思いつかない。
「……はあ」
棗は溜息を吐く。
幼馴染という関係で生まれついたことには不満はないが、それ以上を望む今となっては、その関係が酷くもどかしかった。