08

 その間に戸田は帰りのホームルームを始めた。

「明日から通常授業になるから、教科書とか忘れないように気を付けること。良いなー」

 質問はあるかー? という戸田の言葉に、一人の男子が手を上げる。戸田が発言を許すと、男子は戸田に問い掛けた。

「先生、時間割はまだないんですか?」
「時間割はもうちょっと時間が掛かるらしい。入学式の時に配った紙に一週間分の時間割が書いてあっただろ? 今はそれ見て行動してな」
「はーい」

 そうこうしている間に、戸田から白い紙を受け取った女子は、黒板に書かれている内容を全て書き写し終えたらしい。戸田に白い紙を手渡した。

「よし、内容も書き写してもらったことだし、これ以上ここに残ってても意味ねえから、もう終わりにしちまうか」

 チャイムも鳴るしな、という戸田の言葉どおり、タイミング良くチャイムが鳴り響く。
 じゃあ終わりな、と戸田は入学式の時のように早々に教室から出て行ってしまった。今日も早いなと思いながら、夏希は帰る準備をして弥生の元に行った。

「じゃあ弥生、帰ろうか」
「うん」

 夏希と弥生は自転車で高校に通っている。夏希と弥生の家はそんなに近くないので、行きは一緒に行かない。途中で会えたら運が良いね、という程度のものだ。ただ帰りは方向が一緒なので一緒に帰ることにしているが。

「お腹空いたー」
「お弁当食べてないからねー」
「お金があったら何処かに寄って行きたいんだけど、今はピンチだから止めとく」
「そうだね」

 夏希も今はお金がないので、弥生の言葉に同意しておいた。家に着いたら適当に何か作って食べよう。
 お金があれば、彼女達の家の方向にはファミレスやファーストフード店が多かったから、色々な場所に寄ることが出来るのだが、残念だ。
 夏希の家は高校から三十分くらいの距離にある。弥生も同じくらいらしいのだが、彼女とは途中で別れてしまうので、詳しいことは知らない。

「じゃあねー、また明日」
「ばいばい」

 弥生と別れ、夏希は自転車をこぐ。
 今は春で、そんなに気温が高くないから良いのだが、これで夏や冬になったらキツいだろう。風が吹いたり、雨が振ったりしても同じだ。けれどバス通学はバスがあまり本数がないので、待っているのが嫌なのだ。バス停から自宅までは結局自転車だし。
 お腹も空いてきたし、早く帰ろうと自転車を力強くこぎ始めた。
 弥生と別れて十五分くらい後、やっと夏希の家が見えてくる。庭に自転車を停め、鞄から鍵を取り出して、家の中に入った。

「あー……疲れた……」

 夏希は鞄を適当に置き、お昼ご飯を用意する。本当は寝転がりたかったが、制服を着替えなければならないため、自室に向かっていく。
 制服はこれが面倒だと思う。私服を考えなくて済むのは楽なのだが。

「んー、ご飯食べよう」

 一階に下りて、お昼を食べる。簡単なものだったが、空腹にはとても美味しく感じた。
 そういえば瑞希が今日は部活がないと言っていたような気がするが、帰ってくるのは何時頃なのだろうか。
 お昼を食べ終わり、何をするわけでもなくボンヤリしていたら、外から何やら話し声が聞こえてきた。瑞希が帰って来たのかなと思ったのだが、それならどうして話し声が聞こえてくるのだろうか。

「――ただいま。姉貴、椿輝来てるから」
「お邪魔しまーす」
「……椿輝君?」

 瑞希の言葉と共に聞こえてきた声に、夏希は弟とは違う声の主の名前を呟き、立ち上がる。
 玄関に顔を出して見ると、瑞希とは別に一人の少年が立っていた。そこそこ整っている顔立ちをした彼、麻生椿輝とは、瑞希と同じ部活に入っている、彼の同級生だった。
 一年生の頃から同じクラスなので、椿輝はよく夏希の家に遊びに来る。それから夏希と椿輝は知り合いになった。

「どうも、夏希先輩」

 椿輝は夏希に向かって、軽く会釈する。良く見てみると椿輝は私服だった。どうやら一度椿輝の家に寄って、着替えてきたらしい。
 ああ、だから結構遅い時間に帰ってきたのか。別に制服のままでも良いような気がするが。

「ああ、こんにちは、椿輝君……って瑞希、私聞いてないよ?」
「今日決めたからな」
「今日決めたからって……もう」
「仕方ねえじゃん。今日を逃すとしばらく部活が休みになんねえんだし」

 なあ、椿輝? と瑞希は椿輝に同意を求め、椿輝は苦笑しながら夏希に言った。

「えー、と……すんません、先輩」
「あ、別に椿輝君は何も悪くないよ。瑞希が悪いんだし」
「はいはい、悪かったよ」

 投げやりな態度の瑞希に、夏希は不満そうな顔をする。
 だが客人である椿輝の前でこれ以上何を言うわけにもいかないから、溜息を吐いて椿輝をリビングに通した。
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