07

「はあー、憂鬱」
「まだ一度も体験してないんだけどね。……ていうか、次弥生じゃない?」
「えっ、あ、本当だ。気付かなかった……」

 進むの早いなあ、なんて言っている間に弥生の名前が呼ばれ、彼女は視聴覚室の中に入っていく。
 残された夏希達は他愛もない話を邪魔にならない程度にし、自分の番が呼ばれるのを待った。
 聴覚検査はあっという間に終わった。元々音を聞いて、その音が聞こえている間、目の前にあるボタンを押し続けていれば良いだけなので、そんなに時間がかかるものではない。
 教室に戻ると既に男子は戻ってきていた。時計を見てみると、もうすぐで授業時間が終わりそうだったので、自分の席に着くことにしたことにした。
 夏希の席の左隣は、藤澤怜緒という男子だ。マジマジと見たことはないが、彼もそれなりに整った顔立ちをしているように思える。弥生が羨ましがっていた。
 落し物を拾う時に手と手が触れ合っちゃったりしちゃって! とか何とか言っていたような気がするが、そんな少女漫画のような出来事は早々起きないと思う。大体手が触れ合うまでに、どちらかが引くって。多分。
 もう少しでチャイムが鳴りそうだという時に、戸田は現れた。どうやら白い紙を回収しに来たらしい。

「次は委員会と係を決めるからなー。ある程度何をしたいか、決めておけよ」

 戸田がそう言った次の瞬間にチャイムは鳴り響き、真っ白な紙を全て回収した彼は職員室にでも向かうのか、教室から出て行った。
 それは良いのだが、何をしたいか決めておけよって、だったら何があるのか教えていってほしいものである。高校の委員会と係なんて分からないのだけど。

「夏希ー、何にする?」
「何にするって言われても、何があるのか分からないんだけど」
「私も分かんないけど。でも面倒そうなのはやらないよね?」
「勿論」
「じゃあ次の時間、楽そうなの一緒にやろ?」
「ん、分かった」

 と言っても何が楽なのかも分からないけれど。
 休み時間も終わり、戸田が数分遅れて教室にやってきた。そして怠そうに委員会や係の名前、入れる人数を黒板に書いていく。この人いつも面倒そうだな。何で教師をやっているのだろう。

「一応全員やることにはなってるからなー」

 サボろうたってそうはいかねえぞ、という戸田の言葉に何人か肩を落としていた。どうやらこんなに人数居るんだから、全員は必要ないだろうと考えていたらしい。
 本当に全員必要なかったら夏希は恐らく入ろうとは思わなかったが、枠があるなら仕方ない。とりあえず楽そうなのを探そう。

「んじゃ、適当にやりたいところに名前書けー。規定人数より多かった場合はジャンケンな」

 戸田の言葉で、皆は席を立ちはじめる。一人が立てば他の者も立つから、黒板の前は人が多くて名前が書けなさそうだ。
 待ってる間に夏希は弥生と何をやるのか話し合った。名前の響きだけで決めたその委員会はまだ誰も書いておらず、このままいけば何事もなく決まるだろう。
 良かった、と思いながらその委員会の下に名前を書く。これで残っているのは図書委員だ。図書委員は忙しいらしく、人気が全くない。本に興味が無いのも理由の一つだろう。本を読まない者にとって、図書当番とか退屈だろうし。
 女子も決まっていなかったが男子も決まっていないので、これは初ジャンケンになるんじゃないかなと自分の席に戻ろうとしたら、残っていた女子の一人が夏希が書いた委員会に名前を書いてしまった。
 そこには女子は二人までしか入れない。規定人数を超えた場合は、ジャンケンだ。
 しなくても済むだろうと思っていたので、思わず肩を落としたが仕方がない。夏希と弥生、そして最後に名前を書いた女子は三人で集まった。

「じゃーんけん」

 弥生の掛け声で一斉に手を出す夏希達。出した手はグー、グー、チョキ。一発であっさりと終わってしまった。

「嘘……」

 負けたのは夏希だった。三人いるし、もうちょっと長引くと思っていただけあって唖然とする。こういう時に限ってどうして弱いのだ、自分は。
 その光景を見ていた戸田がニヤニヤと笑いながら言った。腹が立つ笑顔だ。

「残念だな、蒼碼。まあ仕方ないってことで諦めろ」
「戸田先生……図書委員ってそんなに面倒なんですか?」
「そうだな……面倒か面倒じゃないかって聞かれたら、面倒だな。俺はやりたくない」
「ええー…」
「集まりがやたら多いって聞くしな。よく放課後集まってるぜー」

 その言葉に夏希は溜息を吐く。彼女は放課後は学校に残らずにさっさと家に帰りたい派なのだ。家が好きです。いや、どこかに行こうと誘われたら時間と金が許す限りは付き合うけども。
 それなのに集まりの多い図書委員になってしまうなんて。

「なるべく楽な委員会が良かったのに……」
「運が悪かったんだよ」
「悪かったって先生……もう」

 溜息を吐きながら自分の席に戻る。弥生の席の傍を通り過ぎる時に、弥生が「一緒にやれなくて残念だったねー」と笑った。自分じゃなくて良かったと顔に書いてあるように見えるのだが、気のせいだろうか。
 席に座って黒板を見てみると、図書委員のところが男女両方とも埋まっている。どうやら夏希が先生と話している間に、男子の図書委員も決まったらしい。

「よし、これで全部決まったな」

 戸田は一番前に座っていた女子に白い紙を渡し、黒板に書いていることを書き写すように頼んでいる。
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