06

 渋っている弥生を引きずって、夏希たちのグループは体重計の元に歩き出した。
 さて、ああいったものの夏希も矢張り自分の体重など出来れば見たくはない。春休み中どれだけゴロゴロしていたのか、自分が一番よく分かっているからだ。それにこの白い紙はこれからも持って歩かねばならない。つまり表記された体重を誰にも見られないようにしなければいけないのだ。
 次々と友人が量り終え、あっと言う間に夏希の番。

「どうぞー」
「……はい」

 そっと足をのせる。無駄な抵抗だろうが、朝食を抜いてくればよかった。そう思っても後の祭りである。
 そして――結果だけ言えば別に可もなく不可もなく、だった。多少は増えていたものの、許容範囲内だから良しとする。そんなことを言っているから駄目なのだろうが。

「身長が少しでも伸びていると良いなあ……」

 そうすれば体重が増えていても許せる。身長が伸びていれば体重が増えてしまっても仕方がない。そう思えるのだ。
 とはいえ、現実はそんなに甘いはずもなく。

「……伸びてるどころか、縮んでるってどういうこと……」

 中学の時に測定した身長よりも何ミリか単位ではあるが縮んでいて、本当にショックだった。座高は変わらずだったのに、身長は縮んでいるってどういうことなの。足が短くなったってか。
 はあ、と溜息を吐いていると、体育館の中に男子が入ってきた。どうやら他の場所でしていた検査が終わったらしい。
 殆どの女子は体育館での測定を終えたようで、移動ということになった。
 次の行き先は保健室。視覚検査はそこでやるらしい。聴覚検査は視聴覚室だと書いてあるので、後二回は移動しなければならないようだ。

「保健室って何処だっけ?」
「……分かんない」

 保健室に行ってくれと言われても、高校生活二日目の夏希達には保健室の場所が何処だか全く分からない。

「流れに乗れば、何とかなるでしょ。先輩もいるし」
「そうだね」

 他の組の人たちも一緒に移動することになるから、その流れに乗っておけば辿り着けると信じよう。
 その読みは当たり、ちゃんと保健室に行けた。一応場所を覚えておこう。利用しないとは限らないし。
 視覚検査も終わり、後は聴覚検査だけになった。これを終えれば、教室に帰っても良いらしい。白い紙は教室で集めるようだ。さっさと終わりにして帰りたい。
 そうして彼女達は保健室から視聴覚室に移動する。その途中で男子達と擦れ違ったのだが、学年カラーからしてどうやら先輩らしい。

「あーあ、つまんない」
「身体測定に面白みを求めても仕方ないだろ」
「そりゃそうだけど。……かったるいな。何か面白いことないかなあ」
「早く帰れるんだから、どこかに行けばいいんじゃない?」
「んー、じゃあどっか行こうよ」
「俺も? まあ、良いけど」

 そんな会話をしながら彼らは去っていったのだが、彼らの姿が見えなくなると同時に、弥生達が騒ぎ出す。どうやら今の先輩達の容姿が彼女たちの中ではツボだったらしい。
 夏希達は現在五人で行動しているのだが、その中で騒いでいないのは夏希ともう一人の女子だけ。弥生を含めた三人はテンションを上げて会話していた。

「ねえねえ、今の人たち格好良くなかった?」
「すっごい良かった!」
「だよね! 何て言う先輩なんだろ」
「体操着に“トウジョウ”と……“クロタキ”かな。って書いてあったよ」
「本当?」

 あの短い間でよく名前まで確認できたよなあ、と感心する。普通は読み取れないと思うんだけど。実際に夏希は名前など見ていなかった。

「トウジョウ先輩とクロタキ先輩か……是非お見知りおきになりたいね!」
「うんうん!」
「はいはい、もう視聴覚室が近いから静かに」

 夏希の他に騒いでいなかった子が、聴覚検査をやっている視聴覚室に近づいたことによって弥生達に注意を促した。素直な彼女たちは忠告を聞いて騒ぐのを止める。
 今は四組の女子が検査を受けているらしい。先生から、名前の順で並ぶように言われ、夏希達はその通りに並んだ。

「今日はこの後委員会や係を決めて、それで終わりだよね」

 先程の甲高い声ではなくて、落ち着いた声で弥生は言った。

「そうみたいだね」
「早く帰れるのは今日までかー。明日からいきなり七時間って、中々キツいよね」

 弥生の言葉に、他の女子も夏希も頷いた。
 桜華高校の時間割は、進学校と言うだけあって六時間と七時間からなっていた。火曜日と木曜日は七時間でその他は六時間なのだが、明日から通常授業で明日は火曜日。つまりは七時間の日だ。
 時間割を見たが、終わるのが相当に遅い。中学とは大違いである
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