05

 そんな雑談をしていたら、あっと言う間に隣家に着いた。そもそも夏希と棗の家の距離は歩いて一分もないので、当然なのだが。
 棗に促され、お邪魔しますと一声かけてから上がらせてもらう。リビングには美智留がソファに座ってジュースを飲んでいた。辰巳の姿はない。

「あら、夏希? どうしたの?」
「晴れて美智留姉と同じ高校になったから、挨拶しときたくて! 一年間よろしくお願いします」
「ああ、そういうこと。こっちこそよろしくね。困ったことがあれば力になるわよ。勉強とか」
「うん、ありがとう……嬉しいけど美智留姉、受験生だから邪魔しないように頑張るよ」
「邪魔なんて思わないのに。ま、兄さんも棗もいるし、そっちに頼っても良いかもね」
「確かに。ねえ、棗、もしもの時は……って、いない」

 勉強教えてくれる? と問いかけようとしたが、振り向いても棗の姿はもうない。多分自室に行ってしまったんだろう。いや、本気で棗を頼ろうと思っていたわけではないから良いけれど。
 ともかく挨拶もしたし、目的を終えた夏希は早々に帰ろうとしたのだが。

「はい、オレンジジュースでいい?」
「え、良かったのに……ありがとう」

 美智留がジュースを用意してくれたので、もうちょっと居させてもらうことにした。ソファに座って、ジュースを飲みながら美智留と雑談する。

「美智留姉は棗の好きな人って知ってる?」
「棗の?」
「うん、さっきそういう話になって。あの反応からするに、好きな人居ると思うんだよねー。案外桜華を受けたのだってそういう理由だったりして。ね、どうかな?」
「棗の好きな人ねえ……知ってるわよ」
「本当? 誰?」
「流石にそれを言うのは可哀想かしら」
「えー……じゃあ一つだけ。私も知ってる人?」

 夏希のその問いに、美智留はそれはそれは綺麗な笑顔で答えた。

「ええ、夏希も知ってる人よ」



* * *



 土日もあっと今に終わり、月曜日がやってきた。今日は身体測定の日である。
 夏希たちは体育館に集まっていた。どうやら中学校のように保健室ではなく、体育館で身長や体重、座高の測定をしてしまうらしい。
 結局あの後、美智留には棗の好きな人を教えてはもらえなかった。それは仕方がない。夏希だって、自分の知らないところで好きな人をバラされるのは嫌なものだ。問題はそこではなく、彼女の言っていた夏希も知っている人物なのだが。
 ――棗の知り合いで私も知っている人って誰だろう?
 いくら考えても分からない。そんなに共通の知り合いは居ないと思うのだが。そもそも向こうの交友関係知らないし。

「夏希、どこから行く?」

 弥生に話しかけられて、夏希は思考を打ち切った。思いつかないのだから考えるだけ無駄だ。機会があれば知る時も来るだろう。それまでは彼の恋を陰ながら応援しておこう。最も、棗なら失恋とかしなさそうだけど。

「そうだなあ……」

 夏希は渡された白い紙に視線を落とす。
 身体測定は学年に関係なく一斉に行うようで、体育館には一年だけではなく二年や三年の姿もある。美智留の姿も見かけた。この人数を測定するのだから、そりゃ保健室は狭ずぎて無理だろう。
 桜華高校は学年ごとに色分けされており、体育館シューズや体操着にはその学年の色が入っているので、誰がどの学年なのかがすぐに見分けがついた。因みに上履きにも同じように色が入っている。
 男士は先に聴覚や視覚検査をやるようで、この場所には居ない。つまり体育館に居るのは女子のみで、友達を作るには絶好の機会でもあった。実際に夏希と弥生は既に数人と仲良くなっていた。

「近い場所……体重からで良くない?」

 仲良くなった女子の一人が、まだそこまで並んでいない体重計が置いてある場所を指差した。瞬間、なんとも言えない空気が漂う。うん、分かるよ。出来るだけ体重って後の方にしたいよね。
 だがこういうのはさっさと測定してしまったほうがダメージが少ないと思う。

「私は良いよ。空いてるしね」
「えー」
「どうせ量らなきゃならないんだし、早いうちに行っちゃおうよ」
「それは分かってるけどさあ……」
「無駄な抵抗は止めて、さっさと行く」
「うう……」
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