04

 ――ピンポーン。

「ん?」

 その時、インターホンが鳴った。誰か出るだろうかと思ったが、いつまで経っても誰も応答しない。父親は何処かに出かけたのは見たが、まだ母親がいるかと思ったのだが。
 仕方なく立ち上がって、受話器を手に取る。

「はい」
『俺』
「……あー、俺俺詐欺はお断りします」
『誰がインターホンで俺俺詐欺なんてすんだよ。良いから開けろって』
「開いてるよ」

 やってきたのは棗だった。そういえば彼の家に挨拶に行くと言ったっきりまだ言っていない。いや、眠ってしまった夏希が悪いのだけれど。辰巳にああ言った以上、ちゃんと行かなければ。

「よう」
「どうしたの?」
「お袋が、夕飯のおかず作りすぎたから、お裾分けだと」
「え、本当? やった、おばさんの味付け好きなんだよね」

 棗からお裾分けを受け取った夏希は顔を綻ばせた。今までに何回も分けてもらったことがあるし、彼の家でご馳走にもなっているが、彼女の味付けは好きだ。勿論、母親の料理が嫌いなわけではない。ただたまに食べるものは美味しく感じるとか、そんな感覚である。
 というかもう夕飯の準備とは早くはないだろうか。夏希は先程遅い昼食を取ったばかりだし、そうでなくとも母が夕飯の準備をするのはもっとずっと後だ。

「夕飯の準備、早いんだね」
「俺の入学式だからご馳走作るんだって張り切ってたぜ。失敗しないと良いんだけどな」
「へえ」
「別にいつも通りで構わねえんだけど」

 そう言いつつも、棗の顔はどことなく嬉しそうに見える。そういえば母も車の中で、今日はケーキを買ってくれるとか言っていたっけ。だから居なかったのか。

「じゃあな」
「あ、ちょっと待ってて!」

 受け取ったおかずを冷蔵庫にしまいに行く。その前に帰りそうだった棗を呼び止めた。
 急いで置きに行って、玄関に戻る。靴を履いて誰もいない家の鍵を閉めたら、棗に向き直った。

「何だよ」
「私も行っていい? 美智留姉に一年間よろしくお願いしますーって挨拶しに行こうと思って」
「挨拶? ああ、そういや兄貴がそんなこと言ってたような……つっても今更じゃね?」
「まあ、一応ね。三年生だし、あんまり会わないとも思うんだけどさ」
「ふうん? つうかお前、何組だった?」
「五組。棗は九組でしょ? 座るとこ見えたよ。……あ、そういえば棗って何で桜華にしたの?」
「は?」

 眠る前に疑問に思っていたことをこれ幸いと訪ねてみた。棗はキョトンとして夏希を見ている。

「頭良いんだから、桜華よりも上の学校狙えたんじゃない?」
「……あー、別に理由なんかねえよ。家から近いからってだけだ。兄貴も姉貴も同じ理由だしな」
「そうなの?」

 天宮三兄弟は総じて頭が良かった。加えて運動もできる上、容姿も整っているし、性格も話しやすいので大層モテる。棗が告白されているところは何度か見たことあるし、幼馴染という理由で牽制されたことも、逆に手紙やバレンタインデーのチョコを渡すのを頼まれたこともある。というかそういうのって自分で渡したほうが良いと思うのだけれど。
 辰巳とは歳が離れているので分からないが、美智留も聞いてるとモテるようだし、兄である彼も同じだろう。天は二物を与えずというが、彼らには全く当てはまらなかった。

「他に理由があるかよ」
「えー、つまんない」
「つまんないってお前なあ。逆に何なら良かったわけ?」
「んー、好きな人が居たから、とか?」

 友人にもそういった理由で高校を選んだ子は居たし、まあありだと思う。その気になれば何処の高校からでも好きな大学にはいけると思うし。ただまあ、苦労するだけで。
 恋をしたことがない夏希もやはり女の子、恋愛関連の話は好きだ。特に棗はモテるし、そんな彼の好きな人は、幼馴染ということを差し引いても気になる。

「ね、当たり?」
「……んなわけねえだろ、ばーか」
「なあんだ。ていうかそもそも棗って今フリーだっけ?」
「それも分かんねえのにそんなこと言ってたのかよ……今は誰とも付き合ってねえよ」
「宮篠さんとは?」
「とっくに別れた」
「へえ。じゃあ今、好きな人は?」
「……何でお前に言わなくちゃなんねえんだよ」
「その反応は居るの? え、誰?
「居るとは言ってねえだろ。ほら、着いたぜ」」
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