03

 天宮辰巳。現在二十歳の、棗の兄だ。大学生の彼は今だ春休みの最中だったらしい。棗と、彼の二つ上で桜華高校三年の姉、天宮美智留はまだ帰っていないようだ。まあうちのクラス凄く早かったし無理もない。
 母親と父親は辰巳に軽く挨拶をして、先に家の中に入っていく。夏希は辰巳の方を向き、礼を言った。

「ありがとう、辰巳兄」
「いや。棗には会った?」
「遠目で見かけたけど、話はしてないよ。そうだ、後で挨拶しに行くね。美智留姉に一年間よろしくお願いしますって」
「そっか。待ってるよ」

 微笑みながら頭を撫でられて、嬉しさよりも気恥ずかしさを感じた。もう高校生なのだ。そろそろ子供扱いも恥ずかしくなってくる。
 そんな夏希に気付いたのか、辰巳がごめんと笑って手を離した。

「つい癖で撫でちゃうな。嫌だった?」
「いや、というか……恥ずかしいかな」
「気をつけるよ。これから高校生だもんな。バイトとかするの? ああ、でも部活の方が優先か?」
「うーん、どっちもやってみたいかなあ。部活はまだ見てないから何があるのかよく分からないけど、オススメのバイトとかあったら教えてね」

 それから少し話して、辰巳とは別れた。彼と話している間も棗たちは一向に帰ってこなくて、夏希のクラスがどれほど早かったのかがよく分かる。というか逆に不安になってくるほどだ。
 家に入ると当然だが両親は既にスーツから軽装に着替えており、夏希も着替えようと二階の自室に向かう。着慣れない制服を脱ぎ、適当に出した私服に着替えた。脱いだ制服はハンガーにかけてから、ベッドに思い切りダイブする。

「んー、疲れた……」

 車の中で言った言葉と同じ言葉を吐き出し、目を閉じた。
 今日は本当に疲れた。休みが続いていてずっと怠けていたから、久しぶりに学校に行くとやはり疲れる。けれど明日は休みだから良いとしよう。思う存分ゴロゴロすると心に決めた。
 そのままベッドで転がっていると、車の音が聞こえた。隣の家からだ。どうやら棗たちが帰ってきたらしい。
 ベッドから起き上がって窓から外を見てみると、ちょうど棗が車から降りてくるところだった。美智留もいる。彼らが家に入っていくのを見ながら、ポツリと呟いた。

「また三年間一緒かあ……」

 保育園の時から彼とはずっと一緒だ。よくこれだけ一緒になり続けるものだな、と感心した。小学校、中学校はともかくとして、高校も一緒なのはそうはない。
 そこまで考えてふと思った。そういえば棗は頭が良いし、もっと上の高校にも行けただろうに、どうして桜華高校にしたのだろうか。
 美智留が一緒で、辰巳も行っていたからか。それとも他に理由があるのか。

「……ま、良いか」

 いくら考えても夏希にその理由が分かるわけもない。あとで本人に聞いてみよう。そう思いながら再びベッドに寝転がる。

「あー、挨拶……」

 二人が帰ってきたし、挨拶に行こうと思うのだが寝転がってしまった以上面倒くさい。いや、いくつもりはある。だが立ち上がる気力がない。
 ちょっと休んでからいこう。彼らも帰ってきたばかりで着替えやら何やら忙しいだろうし、もう少し時間が経ってからのほうがいいはず。 
 誰に言うわけでもない言い訳を考えながらベッドで寝転がってボンヤリと天井を眺めていたが、だんだんと眠くなってきた。ベッドって眠くなくても横になっているだけで眠くなってくるから、恐ろしいものだと思う。
 何が怖いって、離れようとは思わないほどの魅力を兼ね備えていることだ。これ以上魅力的な存在に出会ったことは今までにない。どんな男も、ベッドの包容力には負けるわ。

「なーんて、ね……」

 馬鹿なことを考えながら眠らないように努力したものの、残念ながら数分後には彼女の寝息が響いていたのだった。



* * *



 その後、母親に叩き起こされた夏希は、遅い昼食を食べながら訪ねた。

「そういえば瑞希と龍希、遅くない? もう始業式は終わってるんじゃないの?」
「あの二人は部活だからまだ帰ってこないよ」
「あー、部活ね……」

 夏希には二人の弟がいる。瑞希と龍希という彼らは、夏希とは年子の中学三年生と二年生だ。それぞれバスケ部とテニス部に入っている。中学校では二つともそこそこに強く、顧問も力を入れていたので始業式にも部活があるのだろう。
 そういえばあの二人は春休みも殆ど家に居なかった。運動部って大変だな、と他人事のように思う。
 夏希も中学時代はテニス部に入っていたが、男子より女子のほうが緩かったので、ここまで部活部活という感じではなかったのだ。休日練習とかあまりしなかった気がする。最も、今は顧問が変わったようで、どうなったかは知らないけれど。
 そういえば高後の部活はどうしようか。中学の時は運動部で頑張ったが、正直もういいかなとも思う。辰巳に言ったようにバイトだってしたいのだ。お小遣いもっと欲しい。だから毎日ある部活はちょっと躊躇う。
 だが桜華高校には弓道部があるらしい。中学の時にはない部活に、心惹かれるのも事実だ。いやだって弓道って格好良くないだろうか、袴とか。

「まあ、部活見学の時間あるみたいだし、その時にじっくり考えればいいかな……」

 今日戸田から貰ったプリントには一週間分の予定が書いており、その中に部活動を見て回る時間があったのだ。午後の授業を二時間使い、二日間で見て回るらしい。弓道部にせよ別の部活にするにせよ、実際に見てから決めても遅くはない。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -