〔76〕

3段目へと向かうルフィとロー、リイム、キュロス、キャベンディッシュ。辺りは土煙が上がり銃声が轟く。そして3段目へ向かわせようとする者達にルフィは気を取られていた。
ボキィ!!!と嫌な音がして長足・ブルーギリーが地面に叩きつけられたのがルフィの目に止まった。
「“足長”がやられた!!」
「おい余所見するな“麦わら”!!」
「……それにしても、さっきからキリがないわ」
キャベンディッシュの作る道を突き進むファルルの上。リイムは作られた道の先に早々と現れる敵達へと斬撃を飛ばしていた。しかし次々と現れる敵達、さらには未だ賞金を狙う者達と一瞬でも気が抜けない状況であった。
「あぁ……それに僕が思うに」
リイムはこのキャベンディッシュの言葉の先がなんとなくわかった。ドフラミンゴはただこの状況を面白がっているだけだ。ローを、そして自身を仕留める機会などいくらでもあった。万一それに何か理由があるのだとしても、あっさりと野放しにしゲームと称しこの状況を楽しんでいる。
彼にあるのはこのゲームの勝者はもはやドフラミンゴただ一人。そう決まっているという絶対的、自信、なのだとリイムはきつく唇を噛み締めた。
「この“鳥カゴ”ってゲームは全てウソだ!キミら“受刑者”全員討ち取ろうが誰も助かりはしない!!
少なくとも“武器の密売”と“オモチャ”の秘密がバレた時点で、今この国にいる者達の“皆殺し”は確定してると思う」
「!?」
ルフィとキュロスはそのキャベンディッシュの言葉に、近付いてくる敵達を蹴散らしながら真剣に耳を傾けていた。
「ドフラミンゴは絶対に情報は漏らさない……!!!ドレスローザは今世界から隔離された絶海の孤島…奇跡を信じゲームの終了を待っていては全員殺される!!!」
少しだけ触れたままのローの左手と、リイムの左手にはぐっと力が入る。ファルルの上で揺れる中でもわかる程のお互いのそれに、二人はただそのまま何かをする事も、何を口にする事もなかった。

「前へ進みドフラミンゴの首を取る事以外、この島から生きて出る方法はない!!」
「……」
一瞬だけローへと視線を向けたリイムの瞳に映ったのは、ただ何かを考えているであろうなんとも言えない表情で、今のリイムにはそれが何であるのかは、わからなかった。
どれ程ドフラミンゴを討ち取るという事を強く思っているのだろうか、その先にさらに何かあるのだろうか。最後、を思い描いているのだろうか。
ローの今の想いは私のゾロとくいなとの誓いにも似たモノなのかもしれないし、この鳥カゴの行く末を思っているのかもしれない。
過去に鳥カゴにまつわる何かあったのだろう。その昔を思い出し、コラさんという彼にとっての絶対的な人物を思い出しているのかも……次々に思い浮かぶ、ただの“かもしれない”がリイムの頭をじわりじわりと埋め尽くしていった。
「何が起きても全てその一枚上をゆくドフラミンゴにたった一つの落ち度があるとすれば、今回のコロシアムに各国より一癖も二癖もある強力な戦士たちを集めてしまった事だ……僕らは負けやしない!!何より、僕がドフラミンゴを討ち取るからだ!!!」
そう力強く声を上げたキャベンディッシュに今までただ静かに進む先の敵を倒していたリイムの顔色は一瞬、変わった。それを見たのはぐいっと背後から帽子を引っ張られた振り向いたキャベンディッシュだけだった。
その表情にほんの僅かな時間だったがキャベンディッシュの時が止まったがすぐにリイムがルフィが後ろで何かを言おうとする前に口を開いた。
「違う!!!違うわ!!ドフラミンゴを討ち取るのはっ……あなたじゃない!!」
「君が討ち取るというのか!!?フランジパニ!!」
「そうじゃない!そういう事じゃないっ!!」
「そうだ!!ミンゴは俺がぶっ飛ばすっつってんだろ!!」
「俺だと言ったハズだ!!“麦わら屋”!」
「気持ちはありがたいが私がやる!!」
リイム以外が自身がドフラミンゴを討ち取ると言って聞かないファルルの上で、リイムは左手を震わせながら握り締めた。
ドフラミンゴを討ち取るのはローであって欲しい。ローなんだ。リイムはただただそう思っていた。ローが私に伝えたいのだという事、仕切り直し、それが何かはまだわからない。
でも、ふと過ってしまったのだ。それが明らかになった時……そしてローが、ロー自身がドフラミンゴを討ち取り目的を果たした彼は、彼一体はどこへ……
「どこに……行くのよ」
「兵隊ィーーー!!!お前さっき幹部の奴討つって言ってただろ!!」
そう小さく呟いたリイムの声はルフィのキュロスへの言葉でかき消された。結果として同じ事かもしれないが、もうこの一国を、そして世界を巻き込んでしまった争いに終止符を打つのであれば、ルフィに、いて欲しい。
最後まで見届けて欲しいと、そう言われた私以外にも、ルフィには……この全てが終わるまで、最後までローのそばにいて欲しい。どうしてかなんて今説明できるものではない……だけど。リイムはそう思う自分がいる事に気がついたのだ。

「それは個人的な戦い!!リク王の国を取り戻すのは私の当然の役目だ!!10年前の悲劇にケリをつけねばならない!!」
「時間を言うなら俺は13年前からだ!!」
「じゃあ俺は30年!!!」
「ウソつけ!キミがボクより年上なわけあるか!!!」
バチバチと火花を散らす4人。その間にも3段目へ向かう斬られた斜面を進む中でリイムはぎゅうぎゅう詰めの状態と騒がしさに、自身の気持ちがほんの少しでもまとまったせいか、思い出したかのように苛立ちを感じた。
「キミら降りろ、フランジパニは最悪そのまま乗っていてもいいが」
「お前が降りろ!!!つーかなんでリイムだけいいんだずりィぞ!」
「っ……いいかげん落ち着きなさいよアンタ達!!全員斬り飛ばすわよ!!!」
「……その話は後だ!!」
「後とは何よ!!」
「着くぞ!3段目だ!!!」
3段目が見え、ルフィがさらに上、4段目を指差した時……ローは一人眉をしかめキャベンディッシュに文句を言うリイムの背中を見つめた。
気のせいでなければリイムの感情の起伏が今まで感じた事のない程に激しいような……ローはそう感じていた。そしてあの時に見たあのリイムの姿が、ローの脳裏にはこびり付いて離れないままだった。
「よォーし!!このまま4段目まで突っ走れ!!馬〜〜〜〜!!!」
そう声を上げたルフィだったが、リイムはその先の何かに気付いたのだろう急に口を閉ざした。そしてすぐ、全速力で走り続けていたファルルの足並みがゼェゼェという息と共にゆっくりと、止まった。
「ん?」
ルフィがチラリとファルルの頭の横から顔を出せば、カタカタ、カタカタと不気味な音を立て、兵隊の姿をした何体もの巨大なオモチャが3段目を埋め尽くしていた。




余韻嫋嫋

「……これはまた、随分と斬り甲斐がありそう」
「おいリイム」
「大丈夫よ、ローってばそんなに心配性だったかしら」
「ハッ、誰かさんのせいでな」
「でも元々心配性なのは知ってる」
「何の事かサッパリわからねェな」

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