〔75〕

「幹部達に捕まったらさすがに足止めを食らう!いいな麦わら!!僕とフランジパニで壁を斬って道を作る!!」
「俺が敵をブッ飛ばす!!」
「それで一気に3段目へ登る!!」
キャベンディッシュの愛馬、ファルルの上でリイムは彼の話す作戦に耳を傾けていた。確かにまともに相手をしながらでは時間がかかって仕方がない……とにかく今は鍵を受け取りローの自由を得る事が第一だと、そう思いながらきゅっと唇を結んだ。
「……って!!!!!!一人多いぞ!誰だキミは!!」
突如張り上げられたキャベンディッシュの声と、作戦を話している時よりも急に縮まった距離にリイムの時は一瞬止まる。目の前に大きく映るキャベンディッシュの顔は改めてみるとやはり端整なもので、女達が騒ぎ立てるのも頷けた。すぐにその目の前の人物とパチりと視線が合ったような気がしながらもリイムはすぐに後ろへと顔を向けた。
「あっ!!兵隊!よかった探してたんだよ!!」
「いつ乗ったーーー!!!」
「ルフィランドの作った道を辿ってきた」
「辿りすぎだァ!!!」

一人多いとキャベンディッシュが騒いだのは、人間の姿となった兵隊が無理矢理ファルルの背に乗っていたからだった。レベッカを探しているのだろうとリイムは思いながらすぐ後ろに横たわったままのローをチラリと見下ろせば、ローはずっとリイムを見ていたのか簡単にその視線は絡んだ。
「……」
「何よ」
「何とも」
小声でローに問い掛けるも、険しい表情でそう返されリイムは思わずムスッとへの字を浮かべる。何ともないのにそんな顔はないだろうと思いつつ、やいやいと会話する兵隊達へと向き直す事にした。
「レベッカがこの敵陣にいるのか!?なぜ止めなかった!?」
「人の話を聞いてるのか!!?」
「4段目の“ひまわり畑”で待ち合わせてんだ!」
「あの子も“受刑者”リストに入ってるんだぞ!!?」
「大丈夫!!俺の仲間も一緒だから!それよりおっさん難で真っ先に飛び出したんだ!?」
「聞け!!愛馬ファルルが美しく走れるのは本来二人まで!!」
この騒がしい会話には入る気にもなれないのか口を閉ざしたままのリイムを見上げながら、ローは牛の方が背中が広かったとしみじみ思う。とりあえずリイムが面食いである事はさておき、キャベンディッシュとはそうとう密着しているのでは、と思った所で一体俺は何を考えているんだと誰にも気付かれない程度のため息をつく。
それでも今、こうしてリイムの事を考える余裕のようなものがあるという事で自身がまだ冷静さを保てていると認識出来たローは再び兵隊達の会話を静かに耳を向けた。
「状況がどう転ぼうと……私がやりたい事は一つだ……!!ファミリーの最高幹部になんとしてもこの手で討ち取りたい男がいる……!!」
気迫の篭ったその言葉にローも、そしてリイムもピクリと反応した。まだ兵隊が人形であった時にリイム感じていたもの。それはやはり間違いではなかった。
「おっさん死ぬ気じゃねェだろうな!!」
「バカいえ人間の体で負けやしない!!」
ルフィがまるでリイムの気持ちをそのまま代弁したかのように兵隊に問い掛ける。しかしすぐさま力強く返したその言葉にリイムは少しホッとしながらもう一度ローを視界へと入れた。
「……」
ローは兵隊を見ていた。“この手で討ち取りたい”と語る兵隊と同じ思いを持っているはずのロー。ドフラミンゴに一矢報いたいと告げた時の表情をリイムは思い出す。
コラさん、という存在についてを考え出すとキリがなく、リイムは手負いのこの状態で一体何が出来るだろうかと静かに目を閉じる。その時、ふとコロシアムの前でレベッカと話した時の風景がふわりと頭を過ぎった。
『……お互い、大切なものの為に…全力を尽くしましょう』
『私には私にしか……あなたにはあなたにしか出来ない事があるはず!だから…』
……私にしか出来ない事。今はまだその答えは見つからないけれど絶対にあるはず。視線を戻したローと目が合ったリイムは、その言葉を胸に小さくローに微笑みかけた。

「そっか、ならいいや」
「よくない下りろ!!」
「何だよお前が下りろ」
「!!?意味がわからない!!最悪だ!本当に君達は“最悪の世代”だ!!」
「危ねェってお前!!前見ろ前前!!!……!?えェ!!?」
ルフィの驚いたような声にリイムもハッと顔を上げてファルルの行く先へと視線を向ける。するとそこには目を疑うような光景が広がっており思わず声を漏らした。
「え……?」
「先をゆけェ!!!“麦わら”ァーーー!!!!」
「こいつらァ俺達が止めておく!!」
「!!?」
そこには先ほどまで我先にドフラミンゴを討ち取らんと争っていた者達が皆、ドンキホーテファミリーに立ち向かっていた。この状況に幹部達も驚いており場の勢いは完全に猛者共達にあった。
「何だ!?どうしちまったんだァ!?お前ら!」
「ガマハハ!!我こそは軍師ダガマ!!これは“戦”だァ!!闇雲に暴れても誰一人頂上に行き着けぬ!!」
「お前を先に行かせるのが筋だ!!」
「しっかり送り届けろキャベンディッシュ!!」
「おいおい僕は乗合馬車じゃないぞ!」
「勝たねばならん!この“戦”ァ!!!」
驚く程の一体感を持ってルフィを頂上へ行かせるべく奮闘するダガマやハイルディン、サイ、エリザベロー二世達。しかしその団結に幹部達が黙っている筈もなくデリンジャーがすぐさまダガマへと向かい飛び出した。
その素早くも重いデリンジャーの頭突きを受けたダガマはドスッっと音を立て地面に沈み、思わずルフィも顔色を変え声を上げた。しかし倒れこんだダガマは血を吐きながらもデリンジャーの体をしっかりと掴んだのだった。
「ん!?何よちょっと放せ!!こいつ!!」
「ガマハハ……頂上を、目指せェ〜〜〜〜〜〜!!!」
辺りに大きく響くダガマの声。何としても、ルフィを頂上へ。そのダガマの決意を感じ取ったリイム、そしてルフィ達は周囲へと迫っていたドフラミンゴの部下達をしっかりと見据え構えを取った。
「“美剣”……!!」
「“ゴムゴムの”ォ……!!」
「……“雷鳴”」
リイムもしっかりと凍雨を握り、進む先を阻む者達をその視界に捉えるとすっと息を吸い込んだ。どうしてか上手く能力が発動しない事は一度忘れよう、一剣士としての実力を発揮するにはまたとない機会だと、リイムは自身に言い聞かせる。
……そうして刀を抜く頃にはもう、傷の痛みも気にはならなかった。目の前に迫る敵へ、ルフィとキャベンディッシュとほぼ同時にリイムもその一撃を繰り出した。
「“斬・星屑王子”!!!」
「“JET銃乱打”〜〜〜〜!!」
「“飄風”っ!!」

3人の攻撃を避ける事も出来ずに散ってゆくドフラミンゴの部下達。その直後、リイムは後ろへと引かれるような感覚を覚えるもこの状況、しかも馬の上である事も考えればただの揺れだろうとバランスを取る為に左手をファルルの背に置いた。
「くそォ!!バラバラだった猛者共が!!手ェ組み始めやがったァ!!!」
一気に騒がしさを増した王宮の2段目。そして今度はしっかりと、重心を取っている左手を引く力を感じ取ったリイム。
それが可動域ギリギリでどうにか触れているローの手であると、そして十中八九無理をするなと言いたいのだろうと結論付けたリイムは振り返る事なく、その手をわざと力強くつねった。




真っ直ぐ

「……ってェ!!」
「あ!?トラ男どうした!?」
「何でもねェ、それよりちゃんと周り見てろ!!(クッソこのじゃじゃ馬女が……後で覚えてやがれ)」
「ねぇロー、何か言った?」
「……無駄な所で見聞色使ってんじゃねェよ」
「後でちゃんと聞くからね、船長」

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