〔73〕

「あの牛!!“コロシアムの死神”だ!!」
「それにあれは……!!」
新地“王宮”1段目。ウーシーの活躍により猛スピードで1段目に辿り着いたルフィ達。さらに迫り来る部下達もルフィとウーシーによって勢いよく弾き飛ばされていた。
「おい、冗談じゃねェぞ!」
「……!“死神”に“死神”が乗ってやがる!あの不気味な刀、間違いねェ!」
「と、とにかく!!止めろォ!!!」
ウーシーの周りにはドフラミンゴの部下達が続々と集まってくるも、刀を構えて座ったままのリイム。すぐ後ろにいるジェットとアブドーラもルフィに加勢しており、リイムは次々に敵が散らされていくその様を周囲を気にしながらも見ていた。
「ウ〜シ〜ナメんなァ〜〜〜!!!」
「に〜っひっひ!!そうだ!!死神と死神だぞお前ら!頭が高ェ!!」
「……あら」
背後で調子良く叫んでいる二人を余所にリイムはキラキラと一際目立つ存在を見つける。気付けば辺りはどこもかしこも騒がしくやり合っており、後から追ってきた者達がもう追いついてきていた。

「ん?あっ!あいつ!!」
「“麦わら”ァ!!先を行かせてもらうぞ!!」
「キャベツ!くっそーーー近道したつもりだったのに!」
「あれだけ躍起になってればどんな手段を使ってでもドフラミンゴを討とうと私達の行く先々に現れるでしょうね」
「そうだよな……やべェ、先越される!!」
「……っ!ルフィ、左!」
……無駄とも思えてしまうが、むしろこのような状況であそこまで輝かしいオーラを放つ事の出来る人物というのはキャベンディッシュ以外にこの世界にいるのだろうか。
リイムはそんな事を思いながらもルフィと話しをていれば、チラリと遠くで銃を構える部下を視界に捉えた。直後、ウーシーの足元で銃弾が大きな音を上げる。
リイムは反射的に刀を抜こうとするも、すぐに元の状態に持ち直した。近くに来ていたコロシアムの出場者達が見えたからだった。
「やめろ!ウーシーを狙うなァー!!……ん?」
「麦わらのルフィに手出してんじゃねェよ!!タコ共!!」
「えっ!?誰だ?」
「おい冷てェ事言うな!おめェと同じ“Cブロック”の出場者ケリー・ファンクだ!!」
ウーシーを狙っていた部下達を蹴散らしたケリー・ファンクと名乗る男。他の者共と同じようにウソップに命を救われ、ルフィに協力するのだと胸を張って申し出た。
「ついて来い!!上へ行く“抜け道”を見つけたんだ、王宮前の“ひまわり畑”へ直行できる!」
「ええっ!?本当か!?」
ドレスローザを駆け抜ける死神・ウーシーはそのままケリーの後を追い加速する。そのウーシーの上で横たわったままのローは、このまま王宮へ向かうという状況に眉をひそめると、少し前から一度も視線を合わせずに前を見つめたままのリイムへと声をかけた。
「リイム」
「?」
「……いや」
無言のままようやく視線を落としたリイムの表情を見たローは、思わず肝心の内容を話すのをためらってしまう。顔色が悪いのは傷のせいなのか……それとも。それでもいつものように首を傾げるリイムに、黙ったままでは機嫌を損ねるであろうと素直に話す事にした。
「何?」
「……鍵を探しに行ってくれねェか、お前のコンディションが良くねェのはわかってる。だが……状況が状況だ、王宮にこのままつっ込むのだけは」
恐らくリイムはこの頼みを断る事はない。そうだと分かっていても、やはり行かせたくないような思いも込み上げて思わず視線を逸らしたロー。
リイムも鍵については道中どうにかなってしまうような、それでもこのままなのもいかがなものだろうか、と頭の片隅で考えていた所だった。再び視線を戻したローに向かって笑みを浮かべながらも小さく息を吐き出した。
「……もう、鍵を探すくらい何ともないわ」
心配性ね、と付け足して呆れたように返事をしたリイムを見たローは、このままひまわり畑へ直行するぞと意気込むルフィにすぐに声をかけた。
「よーし!キャベツ達をごぼう抜きだ!!」
「おい“麦わら屋”」
「ん?」
「俺の錠はどこで外れる?アテがねェならリイムが探しに行く」
「リイムが?」
ルフィはふいっとローの側で刀を抱え座っているリイムへと視線を移す。ニッコリと笑みを浮かべて小さく首を傾げたリイムを見た後、再び話を始めたローを見た。
「海楼石の手枷がついたままじゃドフラミンゴに殺されに行くようなもんだ」
「そっか、でもまー何とかなる!リイムも一人で行くよりここでもう少し休んでろ!とにかく行こう!!」
「何の自信だ!!じゃあこのままさっきの台地へ戻れ!鍵を探す!勝負は“勝つ”か“死ぬ”かだぞ!!」
相変わらずマイペース、我が道を行くルフィの発言にローは声を荒らげる。リイムもそんなローの横で全くこれだからルフィは、と、フッと誰にも気付かれないように笑いながらウーシーの進む先を見つめた。

トンネルのような入口が近付き、ここが抜け道だと近くの敵を払い除けながらケリーが叫び、ルフィ達を乗せたウーシーは迷うことなくその入口へと突き進む。
「おう!ありがとう!!」
「……」
「上出来だ、ケリーファンク!!」
「しっかり入口を抑えとけー!!くるしうねェぞ!!」
ケリーにお礼を言いながら拳を突き上げるルフィと、ヤイヤイと後ろを向いたまま叫んでいるジェットとアブドーラ。そんな中リイムはふと感じた冷たい空気に僅かに眉をしかめた。
その瞬間、背後でガンッ!!と何かがぶつかったような大きな音と悲鳴が響き、リイムはとっさに振り向き状況を確認するとそこにはウーシーから落下しているジェットとアブドーラの姿があった。後ろを向いたままだった為か入口の枠に気付かずに思い切り頭をぶつけたようで頭部を押さえながらうずくまっていた。
「……え、嘘でしょ」
「…………」
「落ちた……何だったんだあいつら」
入口の前で倒れこんでいる二人を口を開けたまま呆然と眺めるルフィ。リイムとローもそれぞれ信じられないといった様子でしばらく入口の方を見ていた。
「よし!気を取り直して!気にせず進め!ウーシー!!ひまわり畑へ直行だ〜〜〜〜!!」
「モ゛〜〜〜!!!」
「あっ、ルフィちょっと」
切り替えも早く先へ進もうと気合を入れ直すルフィにリイムが声をかけた時だった。プルルルルと音を立てたのはローの電伝虫で、それに反応したルフィの声にリイムの言葉は遮られた。
「お前の電伝虫!!」
「!?」
「ロー、出れ……ないわよね」
「あァ」
丁度ローの取り出した電伝虫は左手、ルフィ側だった為、ローがチラリとルフィへ視線を向けるとルフィは音を鳴らし続けるそれをすぐに手に取った。
「もしもし俺はルフィ!!海賊王になる男だ!」
『ルフィね、私よ』
「ロビンーーーー!!!」
『こちらさっきあなた達がいた台地にいるわ、そっちは?』
ロビンの声にリイムは少しホッとするも、ウーシーの進む先に違和感のような、嫌な予感のようなものをひしひしと感じながらも会話を聞き続けた。
「今1段目の山だけど、ひまわり畑って所に向かってる」
『ひまわり畑は4段目よ!?ヴィオラがトラ男君の錠の鍵を見つけたの!!』
「!!」
「ニコ屋!!すぐによこせ!どうしたらいい……!!?」
『こんにちは、トンタッタ族のレオれす!!今からレベッカ様とニワトリ大人間、そしてロビランドをそちらに特急でお連れするれす』
……よかった、とにかくローの錠が外れるのならば一安心だと思いながらリイムは一瞬肩の力を抜いた。あの小人のトンタッタ族がどうやってひまわり畑までくるのだろうか、そんな事を考えていたリイムだったが、徐々に強まっていく不安のような違和感は確信へと変わっていき再び刀を握る手に力を入れた。
『あとで4段目のひまわり畑で落ち合いましょう!』
「え?お前らどうやってこっちに追いつくんだ?」
『説明は後れす!!とにかく“ひまわり畑”で!』

「ほら、何とかなった!!」
「偶然じゃねェか!!」
「ねェ、ルフィ!」
ガチャリと電伝虫の切れた音の直後、ルフィの言葉の後すぐにリイムとローは言葉を発した。ルフィに口を大きく開けつっ込むローに対してリイムの表情は少し険しいものだった。
「暗くて良く見えないけれど、さっきから空気が、」
「……そう思ってんなら何故もっと早く言わねェ!」
「タイミングってものがあるでしょ?さっき丁度電伝虫が」
「!!?あれ!?」
少しムスッとしたような表情のローに反論していれば、ルフィの声と同時にザブンという音がしてウーシーの速度が急に落ちたのを感じたリイム。勢いのあったウーシーは既に水の中へと入っていたのだった。
「……あら、通りで冷えると」
「行き止まりじゃねェか!!それに何だこの水!!リイムもあら、じゃねェ!」
「もう起こってしまった以上何を言ってもね、とにかく……戻りましょ?ルフィ」
「ここは傾いた井戸だ、抜け道なんざあるか」
「……!!!?」

暗がりの中で、ここが井戸であると説明する不気味に響く声。その声は誰もが予想していなかった者の、まさに今それぞれが討ち取る為に目指している者の声だった。




Gloom

「えっ!?ドフラミンゴ!!?」
「弱者共が力を合わせて……しかも死神も一緒となっちゃ、もう先は見えてるな」
「……」
「フッフッフ……錠の鍵は外れるようだな、ロー」
「……わざわざ何しに来たのよ、ドフラミンゴ!!」
「そう熱くなるな、傷が疼くか?リイム」

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