〔54〕

「そういやエースってのはお前の…」
「俺、ほしい!メラメラの実!!…そうだ、お前食わねェか!?フランキー」
「いや、カナヅチになるのはゴメンだ」
ルフィとフランキーの会話を聞きながら、リイムはギリッと唇を噛み締める。
周到に用意されているソレに、まるでドフラミンゴの手の上で踊らされている様な錯覚に陥り、その拳に力を入れる。
「俺にはゴムゴムがあるからもう食えねェけど…エースの能力をどっかの誰かに持ってかれんのはいやだ!」
「…形見、ってとこか……ドフラミンゴの発言からみて罠という線は充分にあるが」
「…100%罠でしょうね」
フランキーの言葉にリイムは思わず口を開き、そんなリイムとその固く握られている小さな手をフランキーは見つめる。
「まぁそうだな、だが……これだけは言える、チャンスなら逃すな!!」
「……」
「後悔してもつまらねェ、コロシアムにはどの道用があるんだ!とにかく行こうぜ!」
そうルフィに笑いかけたフランキーに、リイムもスッと前に出る。あの時のルフィの気持ちを思えば、リイムもこの一世一代のチャンスを止める事など出来なかった。
「ルフィ、今の状況からして本当なら止めたいところだけど…私も同じ立場なら、あなたと同じ思いだと思うわ」
「そうか」
「だから、行くからには絶対に、メラメラの実を手に入れて」
「勿論だ!じゃあ…約束だ!」
「そうね、約束……」
そうニカっと笑いながら目の前に差し出されたルフィの拳に、リイムも同じ様に手を伸ばした。
「そうと決まれば行くぜ」
「ええ、早い方がいいわ……」
「それにだ、余計な心配は無用だぜリイム」
「……?」
何が?とリイムはおさげをなびかせながら走るフランキーをチラリと見る。
「色々考えてるようだが、この俺様がついてんだ」
「…フフっ、それはスーパーね」
「アウ!そうだろう」
リイムはそのまま走る二人の後ろを追い、早く工場へのヒントを得なければとコロシアムを目指した。

「見えてきたわ…あれね」
「あァ!!すんげェなァ!!」目の前に広がる巨大なコロシアムに、ルフィもでけーな!!と叫ぶ。
「すげェ歓声だな」
「単にメラメラの実に騒いでるのか、騒ぐほどの人物がいるのか…両方、かもしれないわね」
「だなァ、どの程度のお偉いさんが来てるんだか」そんな話をしていれば、目の前をオモチャの兵隊と海兵が通り過ぎる。
「待てー!!」
「また出た!指名手配のオモチャの兵隊!!」
「もはやコロシアムの主だな、毎度毎度…」
指名手配犯?とリイムはその片足のオモチャの兵隊を見ていれば、「当たらん!当たらん!」と声を上げて飛び上がるとコロシアムの柵へ足をかける。
「ノロマ共め!見ろ!!片足をコロシアムへつっこんだぞ!法律は知っているな!お前達!」そう叫ぶ兵隊に海兵はウッ、とたじろぐ。
「コロシアムには警察、及び海兵は立入禁止!コロシアム内に犯罪者を見てもその権限は発動しない!!」
「…へェ、コロシアムが特別な法で守られてるなんて珍しいわね」
「だな」やり取りを見つめていれば、納得の答えが兵隊の口から語られる。
「ここには、ドンキホーテファミリーの独断の法が存在するだけ!その引き金を引けば犯罪者はお前達である!!消えろー!!」
「成程ね、あの男の考えそうな事だわ…」
リイムはコロシアムを見つめながらそんな事を呟けば、スタン!と兵隊が近くへと降りた。
「やや!これはご老体、お荷物でもお持ちしましょうか!?」
兵隊はルフィを目にするや先程までの荒々しさは身を潜め、礼儀正しく話しかけてくる。
「あはは、面白ェ兵隊!」
「あはははは」
ルフィの言葉に急にオモチャらしく動き出すそれに、リイムは先程までのアレは何だったのだろうか、とじっと兵隊を見つめる。
「おや!お嬢さん!!いかがです!?何かリクエストはございます!?」
「……いえ、しいて言うならば…」
「おっさん、そこどいてくれ」
リイムの言葉の続きをフランキーがさらりと述べると、はっとしたような兵隊はすぐに顔を赤くする。
「あ…お邪魔か!これは失礼!!」
「めちゃめちゃ赤面してんじゃねェか…お前マジメだろ、本当は」
「そ…そんな事はない!人を笑顔にしてこそのオモチャ!マジメなオモチャなどありますか!!」
「あはは!ムキになった!」
リイムはハァ、とひとつため息をついて様子を見ていれば、急にアナウンスの声が近くに響く。
「一般出場受付締め切りますよ!!どうせいないんでしょう!?ヒヨって!アハハハ!!」
まるで挑発するかの様なそれに反応する者は既にエントリーを済ませているのだろう、辺りは何事もなく人々が行き交う。
「おいルフィ、お前は入口別みてェだぞ」
「そうか」
あっちだな、とルフィは受付へと向かって大きく声を上げる。
「おお、出る出る!俺が出るぞ!!」
「何だあんなじいさんでんのか?」
「大丈夫?今日の出場者知ってんの?」
辺りはざわざわとどよめき、兵隊も驚いてルフィを止めようとするものの、そのまま気にする事もなく歩いて行く。
「おいルフィ…おそらくはバトルショーだとは思うが、いいか、これだけは守れ!」
フランキーはルフィの耳元でそっと語りかけ、それをリイムはジッと見つめる。
「存分にやっていいが正体だけはバレるな!!」
「わかった!!」
「本当に分かってる?」
「おう!必ずメラメラの実を持って帰ってくるぞ、リイム!」
「……そう」
多分分かってないわね、そうリイムが思っていれば、早速名前の記入をルフィと書こうとしておりフランキーにど突かれる。
「アホかァ!」
これは不安すぎると思いながら、途中の通路までルフィを見送る二人。
「ここから先は、出場者以外は入れません!」
「ま、行って来い!」
「いってらっしゃい」
おう!と歩いて行くルフィの背中が見えなくなると、リイムとフランキーはまだ近くに立っていた兵隊に視線を落とす。
「……」
「やや!なんですか!?何か御用で?」
「こっちのセリフよ、いつまでついてくるのかしら?」
「いや…待て、リイム」
「?」
物は試しだ、とフランキーは兵隊へ近寄るとちょっと聞きてェんだが、と口を開く。
「お前…ドレスローザにいて長いのか?」
「私は生まれも育ちもここですよ!生粋のドレスローザっ子!!」
「ヘェ…なら今日、ここにドフラミンゴん所の偉ェモンが来てるか分かるか?」
「な!ドフラミンゴの!??」
「おい!大声を上げるな!」
兵隊の口を塞ごうと手を突っこむフランキーに、リイムはこの質問に果たして意味があるのかどうかと二人を見つめる。
「じゃあ、この島にある工場ってのも知らねェか?」
「こ、工場!!?」
「だから!大声を上げるんじゃねェ!!」
「フランキー、彼はオモチャよ…とりあえず観客席へ行きましょう、何か分かるかもしれないわ」
「まァそうだな…」
あわあわと声を上げるだけの兵隊に、リイムはフランキーにそう告げると静かに歩き始めた。

客席へ着き腰を下ろすも、結局くっついてきた兵隊にリイムは何なのだろうかと思いながらコロシアムを見渡す。
先程からモニターの一つに繰り返し映し出されている数人、セニョール・ピンク、デリンジャー、ラオ・G、マッハバイス、そしてディアマンテ。
これらがドフラミンゴの幹部なのか…と観客の会話等から把握し、繰り広げられているAグループの試合をリイムは見つめる。
だがこれ以上…この場に幹部の姿も見えないしは手がかりはなさそうだと席を立とうとしたその時、Aグループの勝者が決まったようで大歓声が起こる。
「…あれは」
「黒ひげ海賊団か…」
覆面を取った勝者は黒ひげ海賊団の一番船船長、ジーザス・バージェスだった。
「四皇の一番船船長なら…勝っても何の不思議もないわね」
「こんな大会ルフィがあっさり優勝かと踏んでたが……案外苦戦もあるか」
「面倒な事にならなければいいけれど」
「そうだな、正体がバレなきゃいいんだが……まァそろそろ仕事に戻るか、リイム」
改めて席を立つリイムにフランキーもそう声をかけ通路へ向かおうとするも、隣にいた兵隊がフランキーの腕を掴む。
「やや!?ちょっと待ちたまえ!私も行く!!」
「……?」
「だから!邪魔だっつってんだろ!!」
何故こんなにも私達に構おうとするのだろうか、この国のオモチャは皆そうなのだろうか…そう思いながらリイムは兵隊の方へと振り返る。
「……ごめんなさい、私達遊んでる場合じゃ、」
「工場の場所を知らねェ奴に用はねェ!!」
自身の言葉を遮ってまで声を上げたフランキーに、リイムはぎょっとして立ち止まる。
「ちょっと、フランキー!」
「ドフラミンゴのファミリーのなるべく偉ェ奴をぶっ飛ばして!!」
「声!」
「その場所を吐かせてだな……!!」
「ちょっとちょっと待て!!」
明らかに周囲の視線が鋭いものとなり、兵隊も慌ててフランキーを抑えてリイムとフランキーの前へ回り込む。
「場所を変えよう!ここでそんな過激発言はタブーだ!!」
「……?」
「何なんだ、おめェは…」
「とにかく、こっちだ!」
通路へと誘導する兵隊に、二人はひとまずついて行く事にした。人通りの少ない所まで来ると、ここならいいかと兵隊は立ち止まる。
「……あなた、ただのオモチャじゃではないの?」
「……そう聞かれてもオモチャだと答える以外ない」
「……」
質問の仕方を間違えたわ、とリイムはしゃがみ込むともう一度兵隊へと疑問を投げかける。
「工場について、何か知っているの?」
「私も、君達が工場を探している目的を聞きたい…!」
バカ正直に答えたところで、何か支障あれば口止めでもすればいい。オモチャに作戦を邪魔されるとも思えなかったが、念の為リイムは腰に差してある凍雨に手を添えて口を開く。
「……そうね、工場を壊しに」
「……なんと!!今日は本当に仕組まれたかの様な…運命とはこういう事か…」
「……」
「つまり、おめェも工場の崩壊を企んでんのか?」
「いかにも!!仲間と共に着々と準備を進めてきた!」
「…先入観っておそろしいわ」
「あ?急にどうした」
ただの兵隊だと思っていたのに、まさか知っているを通り越して崩壊を企んでいたなんて……リイムは驚きと自省の念で思わず小さく呟いた。
フランキーがこの兵隊に話しかけなければ、私は今の時点で工場へのヒントすら得る事も出来ていなかっただろう、と。
「いえ、何でも。話を続けましょう」
「そうだな、とにかくすぐに場所を教えろ!俺が即破壊してやる!」
「それはダメだ!我々はその工場で働く者達を救いたいのだ!!」
「働く者達…?」
「ああ、我らの作戦は、この国の崩壊へもつながる一大事業!!」
「…!?」
国の崩壊、つまりは…ドフラミンゴを?とリイムはじっと兵隊の目を見つめ続ける。
「君達にドフラミンゴに盾突く度胸と覚悟があるのなら…この悲劇の国、ドレスローザの“全て”を教えてやる!!!」
工場を破壊すれば終わる、そう思っていたリイムは複雑に交差する何かに思わず息を呑む。
ローの作戦は、工場を潰して怒れるカイドウとドフラミンゴをぶつける事。しかし目の前のオモチャの兵隊は恐らくドフラミンゴをも討つ覚悟…
そして、この兵隊の内に秘めた闘志や意志のようなものを、リイムはよく知っていた事に気付く。いつもすぐ側で感じていた、ドフラミンゴの話をする時の……
「そうね…もとより私、ドフラミンゴには用事があったのよ、聞くわ…その話」
「そうだな」
「…!そうか!ならすぐにここを出よう、偵察部隊も戻る頃だ!」
出口を指差しそう話す兵隊に、リイムもスッと立ち上がりワンピースの裾の土埃を手で払う。
「……リイム?」
「何かしら」
「いいのか?話がスーパーややこしくなりそうだが…」
「ええ、問題ないわ」
フランキーはその言葉にすぐに兵隊を担ぐとコロシアムの出口へと向かい、リイムもそのまま後を追った。




引力

「それで…どこへ向かえばいいのかしら?」
「花畑だ!」
「花畑って何だよオイ!」
「黙って進め!話はそれからだ!」

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