〔53〕

「……綺麗な花」
ルフィ達の後を追いドレスローザの港町、アカシアを歩くリイムは目に入るものをただぼそりぼそりと声に出す。
「本当に本で読んだ通りなのね…それにしても、美味しそうな匂い…ルフィ達が喜ぶわね、サンジも鼻血出してないかしら」
目に入る情熱的な踊り子、通り過ぎていく人形達に思いを口にしても返すものは誰もいない。
それでも、この孤独にも似た何かが自身を支配していく様な感覚に、リイムはそうせずにはいられなかった。
「でも、何かがおかしいわ……」始めて訪れた場所だが、何とも言えない違和感を感じ、
どうしてこんなにも平穏なのだろうかと周囲を見渡しながらルフィ達の気配を探る。
「……」
「わァー!!男が刺されたぞー!」
近くでそんな声と悲鳴が聞こえ、意識を向ければどうやら近くに彼らがいる事に気付いたリイムは、そのままカツカツと歩いて行く。
「やっと見つけたわ…」
「そのお声はァァァ!!リイムすゎァん!!」
「……」
目をハートにして勢い良く近寄って来た相変わらずのサンジに、リイムは一瞬言葉を失うも、フッと小さく笑う。
「リイム、遅ェぞ!早くメシ食おうぜ〜〜〜!」
「そうね、腹が減ってはなんとやら、だわ」
待ちきれないとばかりに行こう!と両手をあげるルフィに、リイムはニコッと笑いながら返事をし後に続こうと思っていれば、聞きなれた声に呼び止められる。
「おい、リイム」
「なに?」
「あ、いや……何でもねェよ」
「え…何よ、気になるじゃない」
ふいっと目を逸らしてしまった幼馴染に、リイムは一体何よ、とゾロの腰の布をぐいぐいと引っ張る。
「やめろ、分かったから」
「……」
「何かあったか?」
「……いいえ」
「じゃぁ今の間はなんだよ」
「……」
「…トラ男か?」
ジッと見透かされた様な目で見つめられたリイムは、ふぅっと息を吐きパッと布を放すとゾロに背を向け歩き出す。
「…ゾロは何でもお見通しなのね」
「まァ、無理に聞かねェが…」
「うん、ありがとう……」
そのリイムの言葉に、つまりは聞くなという事かとゾロは頭をかきながら、その後ろ姿を追って歩いた。

「拙者この様な場所で油を売っておる場合ではない!!」
「まァまァ落ち着け…」
一軒の店を見つけてそこへ入ろうとしたルフィ達に、その前に変装をしていないわ、と言うリイムの一言で錦えもんが葉を服に変化させ改めて店へと入ったのだが
錦えもんは腹ごしらえなどしている心境ではないらしく、そわそわと落ち着かない。
「……少しは落ち着かないと、変装しているとはいえ怪しまれるわよ?」
「そうだぞー、キン!」
ブクブクとストローでお冷を飲むルフィに、サンジはお前はもう少し落ち着けよとタバコに火を点ける。
リイムもこのドレスローザに馴染むよう少しばかり露出の高いワンピースをさらりと一枚、
結うには少し短い後ろ髪も久々に上げて装飾の施されたヘアバンドて固定している。
「ま、私もこれには落ち着かないのだけれど」
「いやいや!リイムさん!俺は本当に今感動しているんだ…なんて美しい、まるで女神の様だ!」
「…死神だけどね」リイムはサンジの言葉を適当に聞き流しながら小さく呟き、周囲の状況に意識を向ける。
「時間はないが…闇雲に走るより情報を掴むべきだ、だろう?リイム」
「ええ」
「それにしてもリイムさん、妙だと…思いませんか?」
フランキーとリイムの会話にサンジはそうリイムの方を見ると話を続ける。
「仮にもこの国の国王が王位を放棄したばかりだというのに…俺ァてっきりパニックにでもなってるかと」
「そこが腑に落ちないのよね」
リイムも一体このまるでいつも通り、といった様子はどういう事なのだろうか…そう思いつつもひとつ、気になる気配を察知する。
「知らねェんじゃねェか?」
「んなバカな」
お冷の氷をガリガリと食べながら呟くゾロに、フランキーも冷静につ込めば、横でルフィがおい、と近くの客に話しかけようとしていた。
「やめろ!!」
すぐさまガン!とルフィの頭にサンジの蹴りが直撃し、サンジはルフィに詰め寄る。
「今朝の一面だぞ!てめェの顔が載ったの!少しは考えてだな…!」
「そうだったなー!」
「笑い事じゃねェぞ!」
そうこうしているうちに料理がテーブルへと届き、ルフィの意識は完全に目の前の食事へと移る。
「ドレスエビのパエリア!ローズエビのパスタ!妖精のパンプキン入りガスパチョ!!」
「どれもんもほ〜〜〜!」
料理を運んできたオモチャの説明にルフィは早速皿に盛ると食べ始めたのだが、サンジがふと気になった事を質問する。
「妖精のパンプキン、ってなんだ?」
「え〜〜〜、この国では〜妖精の伝説が今でも信じられているとかいないとか…つまり妖精が出るとか出ないとか!!」
「妖精が出る?」そんな説明にリイムもパスタを取りながら耳を傾ける。
「ええ〜〜〜不思議でしょ、何百年も前からです…どうぞ旅の人!!お気をつけになるとかならないとか……」
妖精…そのようなものが存在するのだろうか、とリイムは真面目に考える。
一口に“妖精”といっても地方によってその解釈は様々で、小さな可愛らしいものから巨大なもの、はたまた神に近いような厳かなものまで存在している。
「もしかして、オモチャが妖精だったり?」この国にオモチャの人形が広まったのはいつからか分からないが、
数百年前からだとしたらそんな可能性のもあるのかしら?とリイムはオモチャに問う。
「いえいえ〜〜、私達と妖精は全く別物ですよ!この国に語り継がれているのは、目に見えない存在だったりそうでなかったり!」
「どっちなのよ」
オモチャはシャンシャンとシンバルを鳴らしながら去って行き、リイムは再びフォークを皿へと運ぶ。
「騒がしいのはルーレットか?」
「チンピラ共が盲目のおっさん、から金をむしり取ってる」
そんなフランキーとゾロの会話をただもぐもぐと食べながら聞いていたリイム。
先程から感じていたその人物は、目が見えないという理由からチンピラから賭け金をどんどんと回収されていた。
「ま、関係ない事に首を突っこんでいる暇は今は…」ないわよ、とリイムが言おうとした時には既にルフィは席を立っており、その姿は渦中の人物達の所であった。
「……リイムさんが言ってるそばからアイツはまた…」
「…そうよね、ルフィはそういう人よね」
諦めてルフィの様子を見ていれば、どうやらタネを明かされたチンピラがルフィに対して襲い掛かろうとした、その時だった。
リイムは急激に周囲の気圧が変わった事を察知すると思わずイスから立ち上がり、ゾロ達も目の前で起こる出来事に驚き目を見開く。
急激に床にあいた穴にチンピラ達は落下していき、周囲も食事どころではなくなりただただその大きく広がる穴を前に言葉を失くす。
「能力者…か?」
「何の能力だ、コリャ」
「……」
リイム達も店から去ろうとしているその人物を静かに見つめる。
「おっさん強ェなァ!!何者なんだ!?」誰しもが思っていた事をルフィがその人物に問る。
「へへ…そいつァどうやら言わねェ方がァ…互いの為、かと存じやす」
「?」
そうして立ち去って行った男に、ぼそっとサンジはタバコを手に口を開く。
「互いの為ェ?どえれェ悪名でも飛び出すのか…?」
「どんな立場であれ…只者じゃあねェな…」
「……」
リイムはそんな話をする彼らを横目に、少しずつざわめきだす店内に意識を向ける。
「バッグがないっ!」
「はっ!俺は時計が!」
「財布が!」
「俺も上着をやられた!!真昼間から!」
「今の粉塵にまぎれて!」
サンジは何事だ、とその光景を見渡し、おっさんがスリでもしたのか?と呟けばすぐ近くでも声が聞こえ、リイムはその声の方へと視線を向ける。
「!?一本足りねェ!」
「どうしたのでござるか?」
「刀がねェんだよ!」
どうやら、ゾロの刀“秋水”が周りの人々と同じ様になくなっていた様で錦えもんもワノ国の宝が!と声を上げる。
「みんなやられたみたいだな…妖精が持ってったんだよ」
「なんだよそりゃ!妖精ってのは盗っ人の名前か!?」
ゾロは思わずどういう事だ!と叫ぶも、「妖精は妖精、笑って諦めるんだねェ」と語るオモチャに、人々はやれやれと笑っている。
「遥か昔から目に見えない妖精はドレスローザの守り神。彼らのやる事にゃ目をつぶらなきゃならない」
「冗談じゃねェ!」
「そうでござる!あれはワノ国の国宝!!」
「あァ!?俺の刀だよ!」
「おぬしのではござらん!!」
言い合いを続ける二人をリイムは全く何がどうなってそうなっているのかとため息をつきながら眺めていれば、小さな小さな気配に気付く。
「!!」ゾロもすぐにその気配に気付き、すぐに窓から出て行くソレを見つけ駆け出して行く。
「ちょっとゾロ!」
「欲張ったな…妖精!逃がさねェぞ!」
「おいゾロ!どこ行くんだ!」
確かに刀を盗まれたとなれば剣士としては死活問題だけど、と冷静に考えている間に、リイムの視界からゾロは消えて行く。
「待て待て!!てめェを一人で彷徨わせてる時間はねェんだよ!!」そう吐き捨てて猛ダッシュするサンジに、リイムはゾロもいい仲間を持ったものね…と小さく微笑む。
「面白そうだ!ししし!」
「待てルフィ!」
ルフィもさらに後を追おうとしたのだがフランキーによって止められ、その脇からは錦えもんが走り去って行った。
「……あらあら」
「おい放せよフランキー!おれ達も行こう!」
「俺に名案が浮かんでんだよ!」
「名案、って?」
ルフィを引きとめながら話すフランキーに、リイムは何を思いついたのかしら?と首を傾げる。
「…よくわかったぜ、こういうキャストだと俺がしっかりしなきゃいけねェんだってな」
「そうかもしれないわね」
「リイムに任せっきりってのも、同盟を組んだこちらとしても悪ィからな!万事このアニキに任せとけ!」
「それは頼りになるわ」

そうしてリイムはフランキーの案で、ルフィと三人で先程のチンピラを一人捕まえる。
「だ…だから言っただろ!確かに侍達を追い回した任務は覚えているが…どこにどう捕まってるかなんて知らねェし!その“スマイル”ってのも意味が…」
「スマイルのスの字もか!?」
「スの字もだし!工場のコの字も!何なんだお前ら…!!」
こんな末端の手下が大事な工場の手がかりを知っている可能性としては…限りなく低いのではと思っていたが
それでも何かしらのヒントが得られる可能性もある。何しろこちらの作戦は“白紙”なのだ…チンピラを問い詰めるフランキーを見つめながらリイムはそう思う。
「まいったなー仲間でもしらねェなんて」
「じゃあもっと偉いヤツの居場所を言え!コイツ下っ端も下っ端なのかもしれねェ」
「今日はみんな忙しくてわかんねェよ!!俺もコロシアムに呼び出されてんだ…」
「コロシアム?」
「見ろ!今日は国中の奴らがコロシアムに向かってる…そうだ!上官達に会いたきゃ“コリーダコロシアム”だ!今日は特大イベントでよ!ファミリーの幹部達が集まってるハズだ!」
わざわざ呼び出されているのであれば、今日元々開かれる予定であったのか、あるいは今日という日にその特大イベントをぶつけてきたのだろうか…と、リイムは下っ端の話を聞き続ける。
「若様が…ものすげェ賞品を用意しちまってよ!!いやァアレはビビッったぜ!誰でも欲しい!!」
「まさか…ミンゴが言ってたおいしいお肉か!?」
確か電伝虫での会話で、ドフラミンゴはルフィが飛びつく程の何かを今持っている、そう言っていた事をリイムは思い出す。
「最強種自然系の悪魔の実!メラメラの実だ!」
「!!!」
「えっ…」
「本物か!?それ!」
「若様が下らねェウソなんかつくか!!」
「エースの…メラメラの実!!!??」




マリオネットダンス

「(あの男…!!それじゃまるで…
メラメラの実はルフィをおびき寄せる為のエサ、
コロシアムは閉じ込める為の檻じゃないの……!!)」

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