〔38〕

−新世界各地では、仲買人に向けたパンクハザードの映像がモニターに映し出されていた。
「“王下七武海”トラファルガー・ロー!!その右腕、“灰雪の死神”フランジパニ・リイム!
最近完全復活を報じられた海賊“麦わらのルフィ”、その仲間“悪魔の子”ニコロビン…海軍の野犬“白猟のスモーカー”」
「なぜこれ程の面子がシーザーに捕まってんだ…?」
どの人物達も一様にそう思っていた頃、あの男は。
「おい、キッド、こいつら」モニターを指して、男の名を呼ぶのは、キッド海賊団戦闘員、キラー。
「やっと動き出したな麦わら!見るだけムダだ…お前も仲買いする様な性分じゃねェだろ、キラー」
「…まァな」
そう言いながらソファから立ち上がり歩き出した男、ユースタス・“キャプテン”キッド。
「だが、まさかあいつらが一緒にいるとはな」
「トラファルガーの野郎!血迷って政府の狗に成り下がったかと思えば…案の定リイムと何か企んでやがったか…!」
「何か始める気か…」
そう話しながら、二人はカツカツと廊下を進んでいく。
「遅れを取るわけにはいかねェ…俺たちも急ぐぞ!!」
「…キッド頼むぞ、穏便にな」
「わかってる、黙ってろ…それにしても」
「なんだ、キッド」
「俺はリイムの今の髪型のほうが好みなんだが」
「………違いない」
こうして二人は、海賊同盟を組むべく、スクラッチメン・アプーと、バジル・ホーキンスの待つ部屋へと向かったのだった。

−−−

「っくしゅん!」
「あら大丈夫?」
「外に出たからかしらね…」
急にむずむずしてくしゃみが出たリイムだが、機嫌云々の話は後にするとして、ようやく動こうとするローに、ふう、と息をつく。
「反撃するって!?」
「あァ、ちんたらしてても仕方ねェ、さっさと片付けよう…
この中で誰か物を燃やせる奴は?いなきゃ別にいいが」
それならば!と目を輝かせるようにルフィが言う。
「火ならフランキーだ!ビームも出るぞ!」
そういえばそうね、とリイムとロビンは顔を見合わせる。
「そうだお前、ビームでこの鎖焼いてくれよ!!」
「ラディカルビームは両腕でしっかりキメねェと、でねェ!今出せるのは…」
そう言いながらフランキーはおもむろに腰を浮かせる。
「尻からクー・ド・ブー、くらいだ!!」ぶぅぅぅという音が檻の中に広がり、リイムは思わず顔をしかめる。
「…」「何でもいい、向かって右下の軍艦を燃やせるか?」
「あァ?あれか…」
軍艦を見るとフランキーは飛び跳ねて立ち上がる。
「それはお安い御用だ兄ちゃん、俺に任せろぉ、フランキー〜〜〜ィ、ファイヤーボール!!」
ボォン!!と火の玉が軍艦へ向けて飛んでいく。
「…クードブゥとやらしか出せないんじゃなかった?」
「チッチッチ、ビームはそうだが火なら余裕だ」
「…そう」
船は発火すると、一気に燃え広がり、近くの海軍も慌てふためく。煙はもくもくと檻を包んでいった。
「ッ、」
「ゲホゲホ!!」
スモーカー以外の人物は、煙で思わずむせる。
「おいこらトラファルガー!!煙がこっちに来たじゃねェか!!」
「お前がやったんだろう」
「おめェがやらせたんだよ!!!」
「ゲホ!!ウェッホ!!あははは、何やってんだよ!」
ルフィが笑いながら言うと、ローはさて、とボソリと呟いた。
「ああ、………そういう事だったのね」
リイムがハァ、とため息をついた次の瞬間、ローは起き上がると自身に巻かれていた鎖をガシャンと外した。
「え!?」
「!!?」
一人状況を理解したリイム以外は、海楼石の鎖を簡単に外したように見えるローに驚いている。
「これで映像電伝虫には映らねェ」
「えーーー!!?」
「すぐにはバレずに済みそうだ…」
「何だお前…どうやって海楼石の鎖取ったんだ!!?」
驚きを隠せないルフィに、ローは説明する。
「なに、初めから俺のはただの鎖だ、能力で簡単に解ける」
「えぇ!?」
「俺達が何ヶ月ここにいたと思ってんだ」
ローがROOM、と呟くと、手元にはブゥンと鬼哭が現れる。
「いざって時にすり替えられる様に…普通の鎖を研究所内にいくつも用意しておいた」
ローはリイムの前に立つと、鬼哭を鞘からスッと抜く。ガシャン、という音を立てて、リイムの鎖は床へと落ちた。
「何かの間違いで俺が捕まった時、海楼石だけは避けられるようにな…」
そのままルフィ達3人の鎖も斬っていく。
「うおーーー!!自由だーーー!」
「叫ぶなバカ!!」
ローにそう言われるものの、やったやった自由だー!と叫びながら檻の中をぴょんぴょんと飛び回るルフィ。
「…本当に、落ち着きがないわね」
「フフッツ、いつも通りよ」
鎖が取れた開放感を感じ、胃の辺りをさする。大丈夫そうね、とリイムはローの方を見る。
「さァ、お前らをどうしようか…少し知りすぎたな」
「「!」」
そう言いながらローは手をクイっと動かす。
「お前らの運命は俺の心一つ…」
「どうするかはもう決めてあんだろ、さっさと…やりやが…あァ!!?」
「え」
あれ、といった表情で顔を見合わせるスモーカーとたしぎ。
「スモーカーさん!!」
「あ?」
「元に戻ったんですよ!!」
そう喜んだのも束の間、たしぎは自分の今の姿をまじまじと確認する。
「…!!!きゃー!!!」ブラジャーもなくシャツは開いており、挙げ句大股を広げて座っているのだ。
「心中お察しするわ…」
リイムはそんなたしぎを見つめる。
「何を女みてェな声出しやがって小娘が…」
「は…早く鎖を解いて下さい!何でも言う通りにしますから…!!」
「…」
「フザけんなたしぎィ!!海賊に媚びてまで命が惜しいか!!?」スモーカーの言う事はごもっともだ、とリイムは思うが。
「今は!!土下座をしてでも命を乞うべきです!!私達がここで死んだら部下も全員見殺しにし!!
ヴェルゴ中じょ…ヴェルゴもこのまま軍にのさばらせる事になり、子ども達だって!!」
食ってかかるようなたしぎの物言いに、スモーカーは返す言葉が出てこない。
「女の方がいくらか利口だな…おい白猟屋、お前を助ける義理はねェが…お前らが生きて帰る事でヴェルゴた立場をなくせば俺にも利がある。
ただし、俺の話、ジョーカーの話については全て忘れろ…これは頼み、じゃねェ、条件、だ!!お前の命と引きかえのな…!!」
ぐっと顔をしかめたスモーカーだったが、少しの沈黙の後、カチャン、と鎖の落ちる音がした。

「何も見えねェな…どうなってんだ、外」
「…」
リイムは檻の外を眺める。赤と白の目立つコートを着た人物が外に出て行ったのを見ていたからだ。
「ひゃっほーー」外から聞こえた聞き覚えのあるその声に、ローもハッと檻の外に視線を向ける。
「おい!!何であいつ檻の外に!?リイム、何で止めねェんだ」
「網破って出た…網は海楼石じゃねェし…」
同じく出て行く姿を見ていたフランキーもそうつぶやく。
「ウチの船長は、ちょっとでも目を離したらああだから、ねぇリイム」
「そういう事よ」
「勝手なマネを!!リイムも!分かってるなら止めろ!」
「分かってるから、止めなかったのよ」
「………!!!」
外でぐるぐると回ってはしゃぐルフィに、ローは眉間のシワが深くなる。
「あのバカ!!」
「おーいトラ男ー!どうやって中に入るんだ!?」
「……」「…」
そんなルフィの様子に、フルフルと拳を握って震えているローにフランキーが話しかける。
「おい兄ちゃん、俺はそれより、サニー号をなんとかしてェんだが」
「…好きにしろ!!」
そう言われたフランキーは、じゃあ行ってくるぜ!と屁をこきながら空を飛んで行った。
「お〜〜い!早くしろトラ男ーーー!」
「ロー、行きましょ」檻の下で手を振るルフィ。
そんな彼をなんとも言えない顔で見つめて、ここ最近で一番のため息を吐いたロー。
ニコニコと手を振るルフィに、リイムは諦めてさっさと出ろとローを後ろから小突いた。

「ROOM」
ブゥン、とロー達は研究所内へと侵入する。
「これで、シャッターを開けりゃァ外の奴らも避難出来る」
「…!!お前ら!どうしてここに!?」
レバーの近くにいた数人の部下達がすぐに侵入したロー達に気付く。
「…って」
リイムは刀を抜こうと構えようとしたのだが、腰にはいつも差している愛刀がなく、ハァとため息をつく。
あの時、ヴェルゴにやられた時に部屋にでも落としてきたのだろう。能力で雲の剣でも作れないかしら…などと考える。
それを見ていたローは、再びROOMを展開する。ブゥン、と音がしたのでハッとローを見ると、その手元には見覚えのある刀が現れた。
「…ほらよ」
「…」
パッとローから刀を受け取るものの、気付けば既にルフィ達が部下を伸していた。
「まだ機嫌悪ィのか」
「だから、悪くないってば」
どう見ても機嫌の悪いリイムを見ながら、ローはレバーを動かす。
ギィィとレバーが上がり、ゴゴゴゴゴと音を立てながらシャッターが開いていく。
「うおー!シャッターが開いたぞ!」
「何でか知らねェがやったー!」
「ガスで死なずに済む!!」
外からガヤガヤと、突入だー!と聞こえ、多数のG−5達が中へと流れ込んで来る。
「誰がレバーを触った?」
「侵入者だ!あそこ!」
騒ぎを聞きつけたシーザーの部下達がレバーの付近まで集まる。
「…えーーーー!!!?」
「まさか!海軍G−5中将、スモーカー!!」
「王下七武海、トラファルガー・ロー!!」
「死神!フランジパニ・リイム!」
「海賊、麦わらのルフィ!!!」
「あいつら!マスターに捕まったはずじゃ!?」部下達は驚いたように叫び、「ウフフ」とロビンが笑う。
「よかった…これでみんな中に!!」
たしぎも部下達の無事にホッと胸を撫で下ろす。
「ししし!!楽しくなってきた!!」
「何が悲しくててめェらと…!!」
ルフィとスモーカーも各々そう呟く。
「さて…心臓どうするか…」
「…」
「あァ、そうだった、お前の心臓は返す」
スッとローの胸から取り出された心臓に、リイムはごくりと唾を飲み込む。
そしてすぐに、リイムの胸へと戻ったのだが、素直に喜べない状況に、何も言えないまま立ち尽くす。
「…」「だから、機嫌を直せ」
「…違うわよ!私が怒ってるのは、心臓があるかないかとか、そんな事じゃない!!」
思わず声を荒らげてしまったのだが、周りにロビンやスモーカー達もいた事を思い出しグッと口を閉ざす。
そうじゃない、時には、残酷になる事も必要なのに…私の命なんかの為に、自分の命を放り出して欲しくなんかないのに。
もっと、もっと私を…頼って欲しいのに、と、リイムは叫んでしまいたかった。
「…」
「何だーリイム、トラ男に怒ってんのかー?」
「…違うわよ」
プイっとルフィとローから視線を逸らしたリイムだったが、ふと、外の騒がしい気配に気付く。
もしかしなくても、彼らだろう…しかし、戻したレバーによってシャッターは刻一刻と閉まっていく。
でも恐らく間に合わない、そう思うと同時に、ある考えがリイムの頭に浮かんだ。
「…斬っちゃいそうね」
「…んー?何がだ?」
ルフィが鼻をほじりながらリイムに問う。
「……?」
「何を斬るの?リイム」何を言っているんだとリイムを見つめるローに、ロビン、
そしてにわかに騒ぎ出したシャッター付近の海兵達。
ドドドドドと振動が響き、シャッターが閉まった次の瞬間だった。
「「うりゃあああああああ〜〜〜〜〜!!!」」ズバァンン!!!!という音と共にシャッターが斬れ、
バァン!!と見覚えのある茶ひげと数名が、研究所内へ突入してきたのである。
「シ、シャッターぶった斬りやがった〜〜〜!!」
「ガスが入って来るじゃねェかーーー!!」
慌てたG−5達が、アホー!と叫びながらキレイに三角形に切れたシャッターを元に戻しだす。
「やっぱり」と小さく呟いたリイムに、一同は先程の言葉の意味を理解した。
「ゾロ達だ!!」
「随分派手な登場ね」
「やっほー!みんな来たな!!揃った!!!」
大丈夫な予感はしてはいたのだが、無事に船長の元に帰って来たゾロを見て、リイムはホッと胸を撫で下ろした。




COUNTER HAZARD!!

「怒ってんじゃねェかよ…」
「またその話?………もう、いいじゃない」
「その割には泣きそうな面じゃねェか、何とかしろ…後で聞いてやる」
「…ッ、うるさい!何が聞いてやる、よ!ローのバカ!阿呆!おたんこなす!!」
「あははは、やっぱリイム怒ってんだなー!」
「そうね、ウフフ」

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