〔35〕

−研究所跡、麦わらの一味避難所。ローによって事件は起きていた。
「…」
「え、やだ、今度はリイム!?」
「うっひょー!やっぱそれ面白ェな!!」
「えー!?ナミがリイムでリイムがサンジか!?」
ゲラゲラと腹を抱えて笑うルフィに、同じく寝そべりながら笑うチョッパー。
「ちょっとロー」
「てめぇが悪ィ」
「何よ、私はすべき事はちゃんとするって言ったでしょ」
「…」
大人気ないわよ、とリイムはサンジの姿でローに呟く。
「へぇ、やっぱり違うわね」
そう呟いたリイムの姿のナミに、リイムは何が?と視線を向ける。
「何ていうか、空気っていうか大気の感じ方が」
「ナミだって似たようなものじゃないの?」
「そうねー、私も肌で感じるけど…リイムの体だと、また違うわね」
何の話だ?とローは二人を見る。
「そういうものかしら、そういえばナミ、あなたどこまで出来るようになったのよ」
「フフフ…この2年で私は進化したわ!ウェザリアで気象科学を学んだのよ」
「へぇ…ウェザリアって?」
リイムの姿のナミはしゃがみ込み、サンジの姿のリイムも、床にアレコレと書き出すナミに近づく。
「あら…お天気悪魔の実の私でもこんなに出来るかしら」
「そうよ、ずっと聞きたかったのに…どうして教えてくれなかったよ、悪魔の実だって」
「あれは…あの頃はまだ、ね」
「不思議で仕方なかったのよ、私の予想しない所で雪が降ったり突風が吹いたり」
「フフっ…そんなこともあったわね」
そう言いながらしゃがみ込み、サンジのコートのポケットをゴソゴソとあさる。
「ラッキーだわ、1本あったわ」
サンジの体ならば遠慮なく吸えるわね、と一度立ち上がりフランキーに火を点けてと頼む。
「俺のスーパーなファイアで火をつけようってかー?お安い御用だがやけどには気をつけろよ!フレッシュ・ファイア!!」いつもより小規模に火を吐くフランキー。
「フフ、スーパーね」
「おう、分かってんじゃねェか!俺様はスーパーだ!!」
「って訳で」
「私より使い勝手が良さそうだわ」
フゥッと煙を吐き出すと、何か私にも応用出来ないかしら?とナミの顔を覗き込む。
「逆に言えば、私にはあんなに大規模には操れないわよ」
「そうねぇ…」
「あいつら何の話してんだー?」
ルフィが鼻をほじりながらウソップに問う。
「ああ、あいつら二人ともお天気娘だろう、色々あるんだろ」
「へぇ〜、そうか」
一方ローは、人を面白がるリイムに腹を立てて、ナミサンジとリイムを入れ替えた訳なのだが…
中身が女同士とは分かっていても、あんなに至近距離で話している姿を見ると、何とも言えない気分になる。見た目はリイムと黒足屋なのだ。

「…シャンブルズ」
「!?」
「…!?ゲホゲホッ!」
「もう、まだ吸い終わってないわよ」
ローが呟けば、リイムは自分の体に戻り、ナミは再びサンジの体へと戻り、リイムによって咥えていたタバコで咽る。
「うるせェ、話を戻すぞ」
「…随分自分勝手ね」
「またサンジくんの体なんて…リイムのほうがまだよかったわ…」
そうぼやく二人を横目に、ローは再びルフィに向かって話し出す。
「麦わら屋…とにかくお前の仲間の要求は、同盟に全く関係が…」すると鼻をほじったままのルフィの後ろから、ウソップが話し出す。
「あァ…お前、言っとくがルフィの思う同盟って多分少しズレてるぞ」
「友達みてェのだろ?」
「フフっ、やっぱり」
「主導権を握ろうと考えてんならそれも甘い」
「そうなんだってよ」
「…そうでしょうね」
「思い込んだ上に曲がらねェコイツのタチの悪さはこんなもんじゃねェ!自分勝手さではすでに四皇クラスと言える」
「大変だそりゃー」
「っ…ふふっ」
駄目だわ、笑わずにはいられないわとリイムはクスクスと笑う。
「ロー、私言ったわよね、彼と同じ事」
じゃじゃ馬さなら四皇クラスよ、とリイムが言った事をローも思い出し、ため息をつく。
「…ああ、いやわかった…時間もねェ…!じゃあ侍の方はお前らで何とかしろ!
ガキ共に投与された薬の事は調べておく」
「フフっ」
「船医はどいつだ一緒に来い、シーザーの目を盗む必要がある」
それを聞いたウソップは、うちの船医ならこいつだ、とチョッパーを抱き上げ、スタスタとローの方へと歩いて行く。
その行動を目で追っていたリイムは思わず声を失った。
「…っ!!!!!!」
「わりいな、おれ今動けねェからよろしく頼む!!」どーーーーん!とローの頭にチョッパーを括りつけるウソップ。
「…………………!!!!!」その突然の行動に声にならずに静かに震えるロー。
どっ!!と笑う麦わらの一味。腹を抱えてしゃがみ込み、未だに声にならない笑いで涙を流すリイム。
「ロ…ロビ、ン…流石に…こ、これは…っ」しゃがみ込んだままロビンのコートの裾を引っ張るリイムに、ロビンも笑った。
「…っロー、ローぉ」
「………リイム、笑ってねェで下ろせ」
「はいはい…っ、って駄目、笑いでっ、手が震えて…」
「………」
えー!下ろしちゃうのかよーと言うルフィに、ローはいつもよりしわを寄せた眉間を押さえながらため息をついた。

「さっきの二人組の刺客でわかる通り、シーザー屋はお前達と白猟屋のG−5を消し去り…」
ローは結局、鬼哭にチョッパーを括りつけ、まるで…ストラップの様にぶら下げていた。
「…」
「ガキ共を奪い返すつもりだ。それが達成されるまで奴の攻撃は止まない」
一旦落ち着いた麦わら一味も、真面目にローの話を聞く。
「シーザーは4年間の大事件で犯罪者に成り下がった元政府の科学者、立ち入り禁止のこの島に誰かが居るという事実がもれれば…
あいつはこの絶好の隠れ家を失う事になる。だからお前らを全力で殺しに来る」
「…!!」ゴクッ…!っとウソップが息を飲む。
「懸賞金3億ベリー、殺戮平気を所持する“ガスガスの実”ロギア系の能力者」
「3億…!?」
ナミもその額を聞き動揺する。
「覇気を纏えない者は決して近づくな、ただの科学者じゃない」
「こっちで覇気使えんのは俺とゾロとサンジ…あとリイムとお前か」
「まァ充分だ、俺達は一足先に研究所へ戻る」
「で、そのマスターを俺達とお前達で誘拐すりゃいいんだな?」
「そういう事だ」
「…」誘拐か、とリイムは考える。成程、マスターを使ってジョーカーを揺する訳か…と。
随分とまた大胆というか何というか。そこからさらに四皇を…
「誘拐して誰から身代金取んの?」
身代金…ナミらしいわねとリイムは笑う。
「目的は金じゃない、混乱、だ」
「!?」
「成功してもいねェのにその先の話を今する意味はない、とにかくシーザー・クラウン捕獲に集中しろ、決して簡単じゃない」
ローの後ろで鬼哭にぶら下がりながらうんうんと頷くチョッパーにも笑みがこぼれる。
でも…もう本当に動き出したのね、とリイムはないはずの心臓が高鳴るような感覚を覚える。
「俺の計画はその時にゆっくり全員に話す、ただし」
ガタガタと震えるウソップとは対象的に、面白そうに話を聞くルフィ。
彼を見ていると、もしかしなくてもこの計画は上手くいくのではと、そんな気分にさえなる。
「シーザーの誘拐に成功した時点で事態はおのずと大きく動き出す…そうなるともう、引き返せねェ!!」「…」
「考え直せるのは今だけだが?」
「大丈夫だ、お前らと組むよ!」
「…なら俺もお前達の希望をのむとする、残りの仲間もしっかり説得しとけ」
「ああ、わかった!」
「戻るぞ、リイム」
「ええ」
リイムはチョッパーを吊るしたローの後に続いて、吹雪く外へと歩き出した。

ブゥンとROOMを展開し、移動を繰り返すローに、チョッパーの目は輝いていた。
「お前の能力便利だなーワープか!?今の!!」
「フフっ」
「黙って袋に入ってろ、もう研究所裏口だ…
メイン研究室にはおそらくシーザーともう一人女がいる…俺は二人を何とか部屋から連れ出す、お前はその間に薬の事を調べろ」
「じゃあ私は一回部屋に戻ろうかしら…」
「…あァ」
「え?リイムは行かないのか?」
「そうね、何があるか分からないから」
チョッパーに向かいリイムは微笑む。
「でも、お前もリイムもそんなに簡単にマスターに会えるなら、強ェんだし…マスターを捕まえたらいいじゃねェか、そしたら薬もゆっくり調べられるし…」
「こっちの問題でな、それができねェからお前らの力が必要なんだ」
「?」
そんな会話をする間も、リイムはあらあらと遠くを見つめる。
「とにかくお前らは速やかにシーザーだけ攫ってくれりゃいい、後は俺らがやる」
「フフっ」「!?」
また笑い出したリイムに何事かとローは振り返る。
「…あのバカ、誰が全軍相手にしろと言った!!?」
「仕方ないわね、ルフィだもの」
G−5相手に派手に暴れ出したルフィ達に、ローは何度目か分からないため息をついた。
「まぁ、どうにかなるわよ、行きましょ」
「…あァ」
」…ロー、私は空気を読んで動くわ、チョッパーも健闘を」
「ああ!子ども達の為だ!」
「…行くぞ」
そうして3人は研究所の中へと入って行った。

「…(モネ一人…チャンスだ)」
ローが扉を開けると、部屋にはモネが座っているだけだった。
「…マスターならいないわよ?」
「そうか、どこへ?」
そっと鬼哭についているチョッパー入りの袋をソファに置く。
「さァ…趣味の悪い人だから表の戦闘の見物でもしてるんじゃない?」
視線を合わせないまま書き物をしているモネにローは続ける。
「この島で見たいものは色々と見て回った…俺達はボチボチここを出るつもりだ」
「…そう、淋しくなるわね」
「ちょっとお前の能力を借りてェんだが…一緒にいいか?」
そうローが言えばモネはメガネをずらしてようやく振り向く。
「…あらデート?…リイムはいいのかしら?嬉しい」
部屋に一緒にリイムが居ない事を確認するとモネはニヤリと笑う。
「……」
「ふふ…本当にリイム以外には愛想のない人ね」
「…」
「なに?」
「行けばわかる」
「いいわ…退屈してたから」
モネはローの後に続いて部屋を出て行った。

「…」
一人部屋に戻ったリイムは、ひとまずコーヒーを淹れながらも、研究所内で不穏な動きがないか、神経を研ぎ澄ませていた。
…ついに歯車は動き出したのだ。相手も複数いる為、ローとあえて別行動を取り、何かあればすぐ動けるようにとリイムは思った。
ローもその意図を汲み取ってくれたようで、特にそう言った会話をする事もなくあの場で別れた。
カチカチと時計の音が嫌に響く部屋で、リイムはふと嫌な予感を感じる。
その予感は気配となり、徐々に部屋へと近づいてくる。
「…」
ゴクリと息を飲み、凍雨をぐっと握り締める。
コンコンと部屋の扉がノックされる。
「…誰かしら」
「…お前が、ローをたぶらかした女か」
ドォン!!と扉が破壊されると同時に聞こえた声に聞き覚えはない。
「…何の、事かしら」
ローを知っている、シーザーサイドと言うよりは…ジョーカー側の人間だろうかとリイムは思考を巡らせる。
「…灰雪の死神、か。ジョーカーが気にしていてな、随分気の強い女だと」
やっぱり…と、ぽとりと冷や汗が流れ落ちる。一体この男は誰なのか、何故このタイミングでここに…立ち上がったリイムにその男は続ける。
「これが、何か分かるか?」
「…それは」
その男の手には、心臓があった。あの日、シーザーに渡すために差し出した心臓。
「これは、ローの心臓だ」
「え…」
何を言っているの?とリイムは混乱した。
何故なら、シーザーに渡したスモーカーの心臓をここに持ち出す意味もないので、
この男が持っているとしたら、私の心臓の可能性しかないハズで…そう思ったのだが。
「シーザーから受け取ったのなら、それは私の心臓よ…
」嫌な汗は止まる事がなく、リイムは今すべき最善の行動を導き出せずにいた。
「…ローはよっぽどお前が大事らしいな」
「…!?」
次の瞬間、心臓と男の発言に気を取られていたリイムは、突然の覇気を纏った攻撃を避ける事が出来なかった。




trick

「…っ…い、一体…どう…い……」
「そうだな、本人から直接聞くといい…」

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