〔33〕

何かこう、急に坂道を下り出したようなそんな感覚…と言えば良いのだろうか。
リイムは、先程の出来事を思い出しながら研究所内の通路をカツカツと歩く。
「ん、シーザーの所へ行くんじゃないの?」
通り道にある部屋の前で立ち止まるロー。
「あァ、ちょっとな」そこに居ろと、ローは部屋に入る。
「…」
ローは恐らくルフィの事を…利用でもしようとしているのだろうと、何となく感じていた。
でなければあんな親切に色々と喋るだろうか、とリイムは思った。
それにしてもゾロったらまた随分たくましくなっちゃって…、それにどうして先生に会ったのかしら…?
などと考えているとすぐにローは部屋から出てきた。
「…そういえばお前」
「何?」
再びカツカツと歩き出す二人。
「あの船に下僕がいたんだな」
「はァ?」
「黒足屋だ」
先程のサンジの発言をどうやら真に受けているようで、リイムは大きくため息をついた。
「…あのね、サンジのあれは病気!女性にはこれでもかという程デレッデレで、さっきのも挨拶みたいなものなよ」
「…海賊船で下僕っつったら、と色々想像したが違ったのか」
「ちょ…何を色々と想像したのよ」
ニヤリと笑いながらローは、手に持った心臓をお手玉の様に投げる。
「黒足屋、…マゾっぽいもんな」
「いやいやいやいやいや」
ローが何を思ったのか容易に想像がついたリイムは、思いっきり否定する。
「それにお前、面食いだろう」
「それに関しては…別に否定しないわよ」
「しろよ」
「…はぁ、とにかく違うから、その間違った情報を修正しておいてちょうだい」
サンジったら、ややこしい発言を投下してってくれたものだわ、とリイムはぼやく。
「…そうか、ペンギン達に面白い土産話が出来たと思ったんだが」
「…」
リイムは、そう言ったローの表情に違和感を覚える。
土産話という事は、ペンギン達と合流した時の話のはずなのに…どうしてそんな哀しい顔をしているのか。
「…ロー」
「何だ」
「…何でもないわ」
「…お前が何でもないのに俺を呼ぶかよ」
「…」
そうこうしているうちに二人はシーザーの部屋の前に着いていた。
「後で聞くからな」
「…」
ローはリイムに呟くとロックを解除して部屋へと入った。

「てめェ何て事してくれた!ロー!」
「文句があんのはコッチだ、シーザー」
「…」
やいやいと騒ぎ立てるシーザーに、リイムは眉をひそめる。
「追い返すだけの手筈だろう!!」
「…てめェがあいつらをしっかり監視してねェからだろうが…」
カツカツと部屋の中へと進み、二人はソファに座ると、ローは手にしていた心臓をシーザーに投げる。
「…シュロロロロ、海軍G−5中将、スモーカーの心臓!!」シーザーは心臓を受け取ると、少し大人しくなる。
「気の利いた土産だ、既に海軍側に兵は送ってあるが…シュロロロロ、これじゃもう勝負は目に見えてる」そうシーザーとモネは笑う。
「麦わら屋の方はどうした?」
「まァガキ共は放っといてもここへ帰ってきたくなるんだが…モネが注意しろと言うんでな!」
モネはうふふと笑いながらリイムをチラリと見る。視線に気付きはしたものの、またか、とリイムはやり過ごす。
「やりすぎかとは思ったがあの二人組みを行かせた…雪山の殺し屋、イエティクールブラザーズ!」
「…」「…」
ルフィ達の事だ、そんな聞いたこともない殺し屋など、なんて事ないだろうとリイムは思う。
シーザーも手を打った事だしと、ローに一度部屋に戻らない?と提案する。
「…お前らのせいで余計な戦闘をするハメになったんだ、少し休んでくるが」
「…あァ、殺しの許可は出ている事だし、あいつらに任せれば問題ないだろう、スモーカーの心臓も手に入れたしな!」
シュロロロロと笑うシーザーを横目に、二人は部屋を後にした。

−−−

「で、何を思いついたの?」部屋に戻りコーヒーを淹れながらリイムはローに問いかける。
「…さっき後で聞くからな、と言ったよな?」
「…もう、まだその事気にしてるの?何でもないって言ってるじゃない」
通路での会話を引っ張り出すローに、リイムもため息をついてコーヒーをローにも渡すとソファに座る。
「…麦わら屋を、同盟に誘う」
「ブッ…」
思いがけないその言葉に思わず噴出すリイム。
「まぁ、私でもどうにか上手い事動かそうとは考えるけれど…フフっ、同盟ね…」
「…何がそんなにおかしい」
「いいえ、ローが決めたならそれでいいんじゃないかしら」
絶対にルフィに振り回されるに決まってるわ、と思うものの、そんなローを見るのも面白いかもしれない…
「…随分素直だな」
「だって面白…あ」
「…てめェ」
「大丈夫、私はやるべき事はちゃんとやるわ」
「まァ、あいつらが飲めば、の話だが」
「ほぼほぼ飲むでしょうね」
「その自信はどこからくるんだ」
「だって、ルフィだもの」
じゃじゃ馬さならきっと四皇クラスよ?とリイムは笑った。

「…一息ついたら、ルフィたちの状況でも把握しにまたシーザーの所行かないとね」
「シーザーの事だ、あの殺し屋が駄目でも全力で潰しにかかるだろうからな」
今後の話もそこそこに、単純に先程の騒動で疲れた二人は、ソファにぐったりと寄りかかったまま話していた。
「お前があの女海兵を放置したお陰で…俺は随分疲れた」
「そんな事ないでしょう?」
あの人一人増えた位で、とリイムは笑う。
「あれが…そんなに幼馴染に似てるのか?」
「…んー、確かにくいなが生きてたらあんな感じなのかもしれないけど…って、私、その話したかしら?」
ローったらよく分かったわねー、とクッキーを頬張りながら呟く。
「…!!あ!…成程、そういう事ね」
「…何だ急に」
突然一人で何かに気付いて納得したようなリイムに、ローはクッキーに手を伸ばしながら視線を向ける。
「…何かアレだと思ったら、髪型がナデシコさんみたいだったんわ、あの大佐さん」
「…?」
「えーと…ナデシコさんの話、してなかったかしら」
「………?」
誰だそれはといった顔でリイムを見るロー。
話した気でいたわ、とリイムはカップの中のコーヒーを一気に飲むと「…親戚中をたらい回しにされてた裏切り者の娘の私を引き取ってくれた人、らしいわ」と話し出す。
「…らしい?」
「私、ナデシコさんの家に来る前の事、覚えてないのよね」
だからたらい回しにされてたのは風の噂で聞いただけなの、とリイムは言う。
「…ま、覚えていたくない事でも、あったんでしょうね…でも、私はナデシコさんに会って救われたんだと思う。
じゃなかったら、どうなってたか分からないし、何してたかも…分からないわ」
「…」
「…私はこんなだけれど、それなりに人間らしく成長する事が出来た。そして、大切な幼馴染も出来た。太陽みたいな人だったのに…
ある日、突然だったわ。私みたいな厄介者を女手一つで育てるのは…苦労したんだと、思うわ…」
生きていて、欲しかった…とリイムは小さく呟く。
「…海に出たのは、その後か」
「あら、覚えてたのね。そうそう、ナデシコさんが死んでしまって、帰る家も、なくなったから…
遅かれ早かれ出るつもりだったけどね」
と、リイムはコーヒーをおかわりしようとソファを立つ。
「なんか変な話しちゃったわね、ローは?飲む?」
「…ああ」
「でも…今はちゃんと、あるわよ」
帰る場所なら、と、リイムはローに向かってニコっと微笑む。
「…そうかよ」
「フフっ」
「…いつか、お前には…」
「ん、何か言った?」
「…いや」
「もう、人の事言えないわよ」
そう顔をムッとさせながらコーヒーを淹れるリイムにローは、いつか俺もあの人の話が出来たら…と、心の中で一人ごちた。

−−−

「あァ、聞いたか…?早速だ、死んじまったぞモネ!」
「そう…うふふふふ、それは期待外れ…」
あの後、再びシーザーの元を訪れると…部下からの報告で、ゾロとナミとブルックが死んだという情報が入る。
「…」
そう簡単には死ぬはずがないと思うけれどと、リイムも事の行方を見守る。
「ローとリイムと同じ最悪の世代で、政府が黒ひげに劣らず危険視してる一味よ
完全復活、なんて仰々しく記事なっていたから、もっと骨のある奴らかと…ね?ロー」
パラパラとノートをめくるモネが突然ローへ話を振る。
「よく知ってるんじゃない?2年前のシャボンディ、そしてマリンフォードであなたは2度麦わらに関わってる」
「なに?」
「…」シーザーもモネの言葉に顔色を変える。リイムは、この様子じゃ自分の事も知っているだろうと、モネの次の言葉を待つ。
「それにリイム、一時期麦わらの船に乗っていたわね…」
「…」
「お前らが呼び込んだって事はねェよな…」カチャっとシーザーは懐から銃を取り出す。
「玄関で鉢合わせるまで、あいつらが研究所に捕らえられてたなんて知らなかったと言っただろう
知ってたら俺が警告してやった…部屋に閉じ込めたくらいで安心するなと…」
「あなた達の甘さで私達は海軍を追い払えなかったのよ」
「…ここがバレる事は俺らにとっても都合の悪いことなんだぞ」
「…」
「もっと上手い事やるわよ、私が彼らを呼び込むならね」
ローとリイムはシーザーに無表情のまま淡々と話す。
「まァリイムの言う通りだな…仲間を呼び込むならもっとうまくやるよな…
わざわざ政府に媚びて、王下七武海にまでなりこの島に来たお前らが話の拗れる様なマネするハズもねェ…悪かったな」
そう言うとシーザーは手にしていた銃をそっとしまった。
「さっき…ガキ共が放っといても帰ってくると言ったが…」ローが少し前のシーザーの発言を思い出したのか、本人に聞いているのだが。
それよりもリイムは、モネがずっとこちらを見ている事に居心地の悪さを覚える。
とはいえ、今に始まった事ではないのだが…
「モネ、言いたい事があるなら言ったほうがすっきりするわよ」
「…うふふ、別に何もないわよ」ニヤリと笑うモネにリイムはハァ、とため息をつく。
「それならじろじろ見るの止めてもらえないかしら」
「だってリイム、可愛いんだもの」何を言ってんだこの女、と思いながらお世辞にはお世辞で返す。
「…モネこそ、ハーピーになって随分と色っぽくなったんじゃない?」
「え…!!」
急にモジモジと顔を赤くするモネに…何本気で照れてるんだこいつは、とリイムは再びため息をついた。




Seesaw Game

「…何よ」
「女って何考えてるかわかんねェな」
「そんなものよ…行きましょ、ロー」
「…戦闘は?」
「必要なら呼べ…誰の首でも獲ってやるよ」

「…頭の回る奴らは扱いづらい…」
「うふふ、そうね」

prev/back/next

しおりを挟む