〔32〕

ローは、背後から飛び出し女海兵、たしぎの元へと動いたリイムを、珍しい事もあるものだと静かに見ていた。
この2年の間に、一緒に戦いはするものの、そこまで好戦的ではなく、後ろでただ見ているだけの事も多かった。
ただし、向かってくる者には容赦はしない…そういう戦い方だと、ローはリイムの事を見ていた。
「あなたとは…一度お手合わせ願いたかったのよ、大佐さん」
「…!!まさか!あなたまでロロノアと同じような事を言うつもりですか…!!」
たしぎは、ゾロに幼馴染のパクリだと言われた事を根に持っていた。
「あ、もしかしてゾロにくいなそっくりだとか言われたの?」
「その方があなた達の幼馴染なのか何なのかは存知ませんが!パクリ呼ばわりされるのは心外です!」
「ええ、そうよね、ごめんなさいね、私が代わりに謝るわ」
「…」
会話をしながらも、お互いにギリギリと刀を交えたまま、相手の出方を伺っている。
「…そういう事か」ローは珍しくリイムが動いた理由を把握した。
「でも…ちょっとだけ残念ね」
「…!」
「心意気はあるけれど…期待しすぎたみたい…」
そう言うとリイムはふわりと刀を振り抜く。周囲の雪が舞い上がり、たしぎは後方に吹き飛ばされる。
「大佐ちゃーん!!」
「あの女ァ!!」
「クッ…なんて静かで重い斬撃なの…!!」
たしぎは唇をぐっと噛み締める。
「同じ女として…私はあの人を超えなければならないの…!?」
遠い、けれども海軍として、向かって行かなくてどうする、とたしぎは立ち上がる。
「…ロー、私眠いわ」「…」
リイムはそう言いながら、先程まで座っていた場所に歩いていく。
「クッ、あなたたちがその気ならっ!!!」
後ろから殺気立った気配と声を感じるも、リイムは振り返る事もなく歩いていく。
「おいたしぎ!やめろ!」
スモーカーがこのバカが!と止めるも、たしぎは止まる事無くローとリイム目掛けて走ってくる。
「…チッ、中途半端に煽りやがって!」
自分から仕掛けておきながら吹っ飛ばして放置するリイムに、ローは舌打ちをして鬼哭を手に構える。
ザンッ!!と刀を振り抜けば、たしぎの体と刀は真っ二つに斬れた。
「大佐ちゃん!!」
「大佐ちゃんが真っ二つにィ〜〜〜!!」
「生きてるよなァ?」
「たしぎちゃ〜ん!!」
どさっと倒れこむ上半身。
「ハァ…なんて屈辱!斬られて息をしているなんて!」
その様子をリイムも座ったまま眺めている。
「斬るならば殺せ!トラファルガー!!」
「…フフっ」
くいなだったらそう、言うのではないだろうか…そんな一言に、リイムも笑うのだが。
「心ばかりはいっぱしの剣豪か?…よく覚えておけ女海兵」
「!!!」
「弱ェ奴は死に方も選べねェ」
「…」
「おのれ!!」
それでもなお、ローに斬りかかろうとするたしぎに、リイムもまぁ気持ちは分からなくもないわ、と呟く。
「そんな刀じゃ届かねェ…気に入ったんならもっと刻んでやるよ」
ローは鬼哭を振り上げる。
「てめェ俺達の大佐ちゃんを侮辱してんじゃねェよ!!」
海兵達はそう叫んでローに向けて発砲する。
「…」ローがクイッ!と操作すれば、雪と銃弾が入れ替わり、海兵達に弾が当たる。
「無敵かよあんにゃろォ〜!」
「伏せろ!また全部ブッた斬る気だ!大佐ちゃん逃げろォ〜!!」
「ロー」再び刀を構え、振り下ろすローをリイムは呼ぶ。
ギィン!!と音を立ててぶつかったのは鬼哭と、スモーカーの十手。
「…よく見てんなァ、リイム!!」視線をローに合わせたままそう叫ぶスモーカー。
「目の前に集中したほうがいいと思うわよ?」
「そうさせてもらおうか!!」
半身を煙にさせたスモーカーはローの後ろへと回り込む。そのまま首を掴むと地面へと叩きつけた。
「うおォー!!スモやん!!」
海兵達は外野からやいやいと騒ぐ。
「…」
ローに向けてスモーカーが十手を振り下ろす。しかしここは…ローのROOMの中だ。
バキィィィ!!と音を立てて木片が粉々になる。
「いやなエネルギーを感じる…海楼石だな、その十手の先!!」
スモーカーの背後を取ったローがそのまま刀を振り抜く。
スモーカーは十手で受けきるものの、周囲はザクッと斬れ、先ほど斬った軍艦のオブジェがさらに分断され落ちていく。
「…随分めちゃくちゃね」
「遠慮なく逃げよう!」
「俺達ァ邪魔だァ!!」
「ほっといていいのよね」
「…あァ」
念の為にローに問えば、予想通りの答えが返ってきたのでリイムはそのままその景色を眺めている事にした。
「大佐ちゃんここ離れるぞ!!」
海兵達が二つに分かれたたしぎを回収し、円の外へと走り出す。
けたたましい音を立てて、ローの円内をヒラヒラと舞う軍艦。
「…!!!」
「軍艦が木の葉みてェに…!!」
「大佐ちゃん、体どうだ?うまくくっついたか!?」
「えれェ事になった…連絡もできねェ船もねェ…」
「七武海は味方なんじゃねェのかよあいつら!!」
たしぎは、そんな状況を眺めながらスモーカーの言っていた言葉を思い出す。
「海賊は…海賊…」

「俺は元々お前ら七武海を信用しちゃいねェ!」
「…正論かもな」
二人の攻防は続き、リイムも少々暇をもてあまし出す。
「眠気覚まさないと…」
おもむろに、ばさっと真っ白な雪の上に倒れ込む。
「…」
あいつは一体何してんだ、と横目でリイムを見るロー。
「余所見とは余裕だな!」「…」
「ここがお前らに必要か?…裏に誰かいるな?」
「!」
「この島で何を企んでいる!!!」
ボウン!ガガガガン!ガギギギン!と聞こえてくるがリイムは構わず雪に埋もれたまま空を見上げる。
見聞色を発動しているので、何が起きているかは何となく想像がつく。
「じゃあお前から答えろ!お前らは何を企んでいる!!ハァ…」
さすがにあれだけ派手に暴れれば疲れてもくるわよね、とリイムは思う。
「場所を変えなきゃ…見えねェ景色もあるんだスモーカー、…メス」
それでも…決着はついたようね、とリイムはむくりと置き上がった。

ドンッ!!と、スモーカーの胸から心臓が飛び出す。
「…」
それを見たリイムは、ふと自分の心臓もない事を思い出す。
あれから数日は、本当に落ち着かない、心許ない日々を過ごしたのだが、
今となっては…そのを忘れる程、落ち着いているというか、安心しているというか。
…単純に慣れたのかしらね、とリイムは思う。
「何一つ…お前に教える義理はねェ…」
スモーカーはその場に倒れ込み、ローはリイムの方へと歩き出す。
「…あら」
「…?」
リイムが急に立ち上がったので、ローは何事だとリイムを見る。
「あっち」
「……」
「ホラこれ軍艦じゃねぇか!!」
「じゃあ海軍が来てんのか!?」
「えー!?さっきまでここには何も…」
ざわざわと走ってくるのは茶ひげなのだが、声の主は多数いるようで、リイムはフフっと笑う。
「あそこ誰かいるぞ!!」
「…麦わら屋」
「あれ〜〜〜〜!?お前は〜〜〜っ!!!」
茶ひげの肩の上から手を振るのは、どこをどう見てもルフィだった。
「おーい!!お前じゃんかー!!俺だよ俺〜〜〜!!あん時ゃありがとなー!!!」
俺だよ俺、ってオレオレ詐欺かしらとリイムは笑いながら声の方へと歩き出す。
「…あいつはシャボンディで…」リイムん所の…船長か、と、茶ひげの背中に乗ったゾロは思う。
「トラファルガー・ローよ…彼は今…」ロビンもすぐに誰か分かったようだ。
「そうそう、トラフォル…トラ男!!そうだった、
あいつよー、白ひげの戦争から俺を逃がして、傷を治してくれたんだ!!!」
「傷を?」
「そうさ、ジンベエと同じ様に、あいつも命の恩人なんだ!!!」
「…」
茶ひげから降りたルフィはローの近くまで歩いて来る。
「こんなトコで会えるとは思わなかったよかった!!あん時ゃ本当にありがとう!!…あれ、喋るくまは・・・?」
「…」
「そうだ!リイム!リイムはいるか!?」
「…」
ローはくいっと後ろを指差す。ローとルフィの元へと小走りでやってきたリイムは思わず小さく微笑む。
「ルフィ!久しぶりじゃない!」
「うおお!リイム!!俺リイムに謝らなきゃいけねェと思ってたんだ!!」
「…?」
「あん時、ぶん投げちまってごめん!!お前も怪我してたのに!それと…本当にあん時ゃありがとな!」
「…フフっ、私も投げたもの、お互い様よ」
そうルフィとリイムはクスクスと笑う。
「…あら、リイムも一緒にいたのね」
「…」
「…あ!ゾロ達じゃない!」
茶ひげの背中の存在を思い出し、さらにそちらへとリイムは歩いていく。

「…よく生きてたもんだな麦わら屋、だがあの時の事を恩に感じる必要はねェ…あれは俺の気まぐれだ」
「…おい、リイム、助けてくれ!」
「ゾロ!!久しぶりじゃない!!」
「何だお前、随分切ったんだな」
茶ひげの訴えを無視してリイムはゾロに話しかける。
「…俺もお前も海賊だ、忘れるな」
「…ししし!そうだな、ワンピース目指せば敵だけど…2年前の事は色んな奴に恩がある。
ジンベエの次にお前とリイムに会えるなんてラッキーだ!!本当ありがとな!」
ローはルフィと話す間も、リイムの言動に目を向ける。
「ちょっとゾロ、何その左目」
「お前と一緒だ、切っただけだ」
「全然違うわよ!!」
「つーか、なんだよあの懸賞金の額」
「フフっ…当たり前よ、海賊団の副船長なんだから!」
「副船長になったのか、お前」
「ん」
「…リイム、元気そうじゃない」
「ロビンこそ、随分髪伸びたのね」
そうニコリとやり取りをすると、今度は横からブルックが顔を出す。
「リイムさ〜〜ん!是非!パンツを!!」
「うるせぇ黙ってろ!俺ァ3億6000万のパンツなんて恐ろしくて見れねェよ…」
ウソップがブルックを殴りその場は一旦収まる。
「…リイム、何なんだこいつら、知り合いなのか?助けてくれよ…」
「流れに身をまかせるのも、時には重要よ」
リイムは茶ひげにだけ聞こえるようにボソリと呟くと、またゾロに視線を戻す。
「あ、また刀が変わってる」
「つーか!リイム!お前鷹の目に教わってたのかよ!ズリィぞ!」
「あれは色々と仕方がなかったのよーって…誰に聞いたの?先生本人?」
「そーだ」
「あら、何がどうなってそうなったか聞きたいところだけど…そろそろ船長の所に戻らないとご機嫌斜めだわ」
先程から感じる鋭い視線と…それに、海軍がざわざわと動き出した気配を捉えたリイムは、ヒラヒラと手を振ってローとルフィの方へと戻る。
「…」
「え!リイム、トラ男ん所の副船長になったのか!!」
「フフっ、そうよ」
「えー!俺の所に来てもらおうと思ってたのにィ」
「…諦めろ、麦わら屋」
「って!!わっ…海軍!?」
スモーカーさーん!!という声が周囲に響く。
「…おい、あそこに倒れてるのって…」
「スモーカー!!」
「おいマズイぞルフィ!海軍だ!!」
ゾロの呼ぶ声にルフィもああ、と返事をしている間に、倒れ込んでいるスモーカーの元にたしぎが駆け寄る。
「スモーカーさん!!」
「やっぱケムリン達じゃねェか!懐かしいな〜!!」
ルフィがそう叫ぶものの、心臓を盗られたスモーカーを目の前にしたたしぎは、まだルフィ達に気付いていないようだ。
「よくも…よくも!!!」
「おいおい…よせ、そういうドロ臭ェのは…嫌いなんだ…シャンブルズ」
再びROOMを展開したローは、ズズッ!!とスモーカーとたしぎの精神を入れ替えた。
どさっと倒れこむ二人に海兵達もどよめく。
「たしぎちゃァ〜ん!」
「畜生二度までも!」
「スモさんも倒れてんぞォ!!」
「………!?何したあいつ、今」
ゾロもその様子を茶ひげの上から目撃する。
「凝りねェ女だ…!そう深刻になるな」
「あの二人が入れ替わるなんて想像しただけで面白いわ…」
リイムはニコっとローを見るが、どうも目線が冷たい。
「…ハァ」「…」
「ルフィ!急げここはヤベェ!」
「うん!!そうだおいトラ男!ちょっと聞きてェんだけど!!」
ルフィ達はバタバタと走り出す。
「研究所の裏へ回れ…お前らの探し物ならそこにある。また後で会うだろう」
「…」
「互いに取り返すべき、ものがある」
「随分おしゃべりね」
「…」

「よしルフィ!海軍から離れるぞ!」
「大丈夫かなーケムリン達!トラ男達に敗けたのかな!」
「トラ男か…」
「…ねぇあなた達、彼はトラファルガーよ」
「トラフォ…トラファン…トラ男だ!」
トラファルガーと言えないルフィとゾロに、ロビンは小さく笑った。




合縁奇縁

「…何怒ってるのよ」
「別に怒ってねェ」
「じゃあ何よ、その態度」
「何もクソもねェよ」
「それにしても本当に居たわね、ルフィ達」
「…」
「何考えてるの?…あ、思いついたの?のほうが正しいかしら」
「そこまで分かってんなら…黙ってついて来い」
「…もう」

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