〔31〕

「…」何か胸がざわつく予感は、案外当たるもので。
今日は巡回もなく、先程シーザーの所へ顔を出してからは部屋に居るのだが…
「外の気配が騒がしいわ」
「あのガキらじゃねェのか?」
あのガキ、とはビスケットルームという場所にいる子供達の事で。
「あの子達が騒がしいのは比較的いつもの事よ」リイムはそれとは違うのよ、とぼやく。
「見聞色か?」
「単純に、勘っていうか予感っていうか」
「…まァ間違っちゃいねェかもな、客が来たようだな」
扉の外へ気配をやると、どうやらシーザーの部下がやってきたようで。
「…スモーカ中将率いるG−5がこの研究所へ向かっているそうで!マスターから、追い返せとの事です!」
「…チッ」
「随分とんでもないのが来たわね」
リイムも仕方なしに部屋を出るローの後に続く。
「…」「どうしてわざわざこんな島にきたのかしらね」
そう通路を歩けば、ブー!!とブザーの鳴る音が聞こえる。
「面倒な事にならなきゃいいんだが」
「ん、スモーカーって事は…フフっ」
「あァ?」
「いえ、こっちの話」
ゾロが言うにはくいなにそっくりな海兵がいて、それがスモーカーの部下だという話を聞いていたので
もしまだ部下なのであれば、一目見る事が出来るかもしれない。
あの時、マリンフォードにも居たはずだが、それどころではなかったので未だ会った事はなかったのだ。

ブーーー!!と執拗になるブザーに、ローがそっと扉を開ける。
「俺らの別荘に…何の用だ、白猟屋…」
別荘、ね、まぁ上手い事言ったものだ、とリイムは思う。
この数ヶ月でのここでの暮らしは、確かに別荘で余暇でも楽しんでいるかの様に…いや、やっぱりそれはないわ、などと思っていると。
「「ぎゃああああ!!!」」
「トラファルガー・ロー!」
「七武海がなぜこんな所にィ〜!?」
「後ろにも誰かいるぞ…ありゃあフランジパニ・リイム!!」
「ぎゃー!!死の“8億セット”だ!!ヤバイぞ!」
イカれた無法集団だと言われているだけあって、身なりも海軍らしくなく、リイムとローを8億セットなどと言う単語で括る。
「帰ろうぜスモーカーさんっ!コイツらとは関わり合いになりたくねェ!」
「コイツは七武海になる為に海賊の心臓を100個本部に届けた狂気の男だ!気味が悪ィ!」
「…今となってはトラファルガー率いるハートの海賊団の副船長で優秀な右腕…!
けれどその懸賞金の通り、個でも十分な脅威となりうる…恐ろしい女性!」
そうスモーカーの隣でリイムを見つめる女性。リイムも、ああ、彼女がその女海兵ね、と一目見て理解した。
しかしスモーカーはそんな部下の言葉に動じる事もない。
「ここは政府関係者も全て“立入禁止”の島だ…ロー」
「じゃあ…お前らもだな」

ローとスモーカーが睨み合っていると、たしぎ大佐と呼ばれる女性はすっと電伝虫を取り出し、何かしらとリイムも聞き耳を立てる。
「…」「…」
雑音に混じって聞こえてきたのは、先日私達も出会った変な侍の声と…
ルフィの声だ。侍の緊急信号を受信してルフィが出たのだろう。
…この会話の様子だとおそらく、彼なら迷う事なくここへやって来るだろう…リイムは大きなため息をついた。
「島の名前、寒いという気候…声の主はこの島から信号を送った事で間違いないのでは?」とたしぎは言う。
「麦わらのルフィは知ってるな?」
2年前の天竜人の件に、マリンフォードでは赤犬に追われる麦わらをお前は逃がした…
それに、とスモーカーは続ける。
「リイム、お前は以前麦わらの船に乗ってたな、あいつらとは切っても切れない深い関わりがあるんじゃねェか?」
「…」
「そう言えばこの人、あのロロノアの…!」
たしぎはハッとしてリイムを見る。
「…用件は何だ、緊急信号の捏造はお前ら海軍の十八番だろう」ローは扉に寄りかかったままようやく口を開く。
「残念ながらこの通信は海軍で作った罠じゃない」
「どうだかな…俺も知らねェ話は終わりだ」
「つまらん問答はさせるな、研究所の中を見せろ」
「今は俺らの別荘だ…断る」
リイムはローの背後から二人の様子を見守りながら、どうしたものかと考える。
「お前らが捨てた島に海賊の俺らがいて何が悪い…ここに居るのは俺ら二人だけだ」
ふと、嫌な予感と多数の気配を感じたリイムは、そっと見聞色を発動させる。
「麦わらがもしここへ来たら首は狩っておいてやる…話が済んだら帰れ」ローはスモーカーに言い放ったのだが。
「ねぇ…ロー」
リイムはローにボソッと耳打ちする。
「…?」
「後ろ」
「…??」
わーわーギャーギャーとだんだん声の正体が近づいて来る。
「きゃああああ」
「恐かったよ〜〜〜氷った人たち!」
「え〜〜〜ん!」
「…はぁ」
「………??」リイムは声の主が誰か分かったので、盛大にため息をもらす。
「でも見て!ほら、扉よ!ここから出られる!」
「やった〜!」
その声を聞いた海軍もすぐさま反応する。
「やっぱり誰か中にいるじゃねェか!」
「見ろ、何だあの生物!!」
「ハチャ〜〜〜〜!!」
「外だ〜〜〜!!」
ばーーーん!!と扉から外へ飛び出たのは…
「外…いや〜〜寒〜〜〜い!!」
「!!麦わらの一味!」
さすがに海軍も麦わらの一味と認識したようで。
リイムは、この瞬間の口が半開きなローの顔を、心の中で…こっそりと笑った。

「ヘイヘイヘヘーイ♪フランキ〜〜〜♪ヘイヘイヘヘーイ♪タンクだぜ♪
そこのけそこのけスーパーのけ〜〜〜〜!!!邪魔するやーつは踏んでくぜ!!」
「…」リイムとローだけではなく、海軍ですら呆然とする中
奇妙な歌を歌いながら、子供達とサンジを乗せて動くフランキー(タンク)。
「だけどお花はよけてくぜ〜〜〜♪(ピアニシモ)
ちょっぴりやさしいフランキィ〜〜〜タンク〜〜〜♪(フォルテシモ)」
「ス〜〜〜パ〜〜〜!」
「すげータンク!」
「きゅうきょくだー!!」
どーん!!!とポーズを決めたところで、あまりの寒さにチョッパーに抱きついているナミがこちらに気付く。
「あ〜〜〜!!あんた見覚えある!!」
その声にチョッパーも気付く。
「シャボンディにいた奴だぞ!」
「…………」
「まさか子供達閉じ込めてたのあんた!?この外道!!この子たち返さないわよ!!…って!」
ようやくナミ達は、少し後ろに居たリイムに気付く。
「リイム!!ちょっとリイムじゃないの!」
「…さっきから居たわよ」
死神だけあって影が薄いのだろうか、とリイムは真面目に思う。
「…!!!どこの極悪人かと思えばてめェはスモーカー!!さらにいつものカワイコさーん!」
サンジも海軍に気付いたようだが、相変わらず女性には目がハートなのね、とリイムは後ろから眺める。
「そして〜〜〜!!その麗しいお声は!!リイムさぁぁぁん!!」
ぐりんと振り向いたかと思えば、リイムの側まで駆け寄って来る。
「ああ、髪を切ったリイムさん、なんて似合ってるんだァ!!…俺はいつでもそんな貴女の下僕です〜〜〜!!」
「…」
リイムはじとっとした目でサンジを見つめるのだが。
「そんな目線も素敵だァ〜〜〜!!イでッ!!…まずいぞまさかの海軍だ!!」
途中ナミに拳骨で殴られたサンジは、視線を海軍へと戻し「ここは無理だ、出口を変えよう!みんな中へ!」と叫んだ。

まるで嵐のように、再び研究所の方へと走って行くサンジ達。
「……!!!居るじゃねェか何が二人だ!!」
「居たな…今驚いてる所だ…」
「…」
一瞬の沈黙を破ったのはたしぎの一声。
「みんな!麦わらの一味を捕らえます!!」
「あっ…クソ!圧倒された…よし行くぞ!大佐ちゃんに続け!」
そう海軍が動き出すも「おい!待て!」とスモーカーが制止する。
「…!!あいつら面倒持ち込みやがって!!…ROOM!!」
ローが面倒そうな表情でそう呟けば、ブゥン!と周囲に円が広がった。
「…」
「タクト」ズボォ!!!とけたたましい音を立てて、海軍の船が河底ごと宙へと浮かぶ。
「うわああああ〜〜〜!」
「軍艦が宙に浮いたァ!!」
「何だこりゃァ!!」
混乱する海軍にローは言い放つ。
「お前らもう島から出す訳にはいかねェ…人が居ねェと言った事は悪かったよ…!!!」
「ウオオ!やっぱコイツヤベェ!!」
「下がってろ!お前らごときじゃあ手も足も…解体されちまうぞ!!!」
スモーカーは十手を手に取ると、ローとリイムの方へと構えた。

ローは鬼哭を鞘から抜くと、大きく振り抜いた。
「ぎゃ〜〜〜!!」
「みろスモさん!だからコイツらと関わりたくねェんだ!」
ザンッ!!と船は真っ二つになり、さらに宙を舞う。
「…ロー、あのままでいいの?」
「…あァ、あいつらも逃がす訳には…侍もいたな」
ローはサンジ達に向けて、シャンブルズと呟いた。
急に斬ったりはしないだろうとリイムは思っていたので、ローにサンジ達をどうするのかと聞いたのだが
ここから見ている様子では、どうやら中身を入れ替えたようだ。
「面白いわよね、それ」
サンジ達には気の毒だが、想像するとなかなか笑いが込み上げてくる。
「お前もやるか?」
「…遠慮しておくわ」リイムは笑いながら首を横に振った。
「一旦退こうぜ中将!コイツの能力気味悪すぎる!!」
「軍艦を飛ばすわぶった斬るわそれをブツけてくるわ!!」
「こんな奴とは戦えねェ!!」
明らかに動揺する海軍達に比べて、二人は随分と冷静…ね、とリイムはスモーカーとたしぎがどう動くのかを静かに見守る。
「くそぉ!艦がなきゃ基地にも帰れねェ!」
「協定違反だぞ!トラファルガー!本部にチクってやるぜ!!!」
「称号剥奪だァ!」
「心配無用…スキャン」
瞬く間に海軍の電伝虫が、リイムの目の前にドサドサっと落ちて来た。
「…ほんと、便利よね」リイムはボソリと呟く。
「お前らがこの島で見た物全て…本部にも政府にも報告はさせねェ」
「“オペオペの実”…改造自在人間、だったな!!!」と、スモーカーがついに動き出した。
ボッっと半煙状態になったスモーカーは、ローに向けて十手を持った手を伸ばしてくる。
「…」リイムもいつでも動けるように神経を張り巡らせる。
「太刀筋に入るなお前ら!!」スモーカーが部下に向けて叫ぶも、それはもう遅く、ドォン!!と真っ二つになっていく海兵。
「お前ら邪魔だ!サークルから出てろ!ローの作った円内に居る間は手術台にのせられた患者だと思え!」
それを聞いた海兵達は、ぎゃー!!と逃げ惑う。
「ここは手術室!奴はこの空間を完全に支配執刀する、死の外科医だ!!」
すると突然、ガキィン!と刀のぶつかる音が周囲に響く。
「無駄よ…」
「っ!フランジパニ…!さっきまで扉の前に座って…!!」
「あなた、動こうとしたから…」
「…!!」確かにたしぎは、トラファルガーがその気ならと、応戦しようと刀に手を掛けようとしたのだが。
…そのほんの僅かな気配を感じ取ったの!?と、たしぎは背筋に寒気を覚える。
「悪いけど、あなたは私に勝てない」
「…そんな事は!!」
「たしぎ!やめておけ!!リイムはお前が覇気を使えるからといって太刀打ち出来るレベルじゃねェ!
それに今、ここはローの円内、さっさと退くんだ!」
たしぎは、そう叫ぶスモーカーの声を、分かっているけども…!!と、ただ唇を噛み締めながら聞いていた。




Opening

「何故、あなた程の剣士が海賊に…!」
「…」
「どうしていつも悪が世界にのさばるんです!!」
「悪か正義かなんて関係ない
私は私の信念を貫く、ただそれだけなのよ…」

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