〔24〕

女ヶ島、アマゾン・リリー。ルフィの療養を目的としたローの一団は緊急特例により女ヶ島湾岸への停泊を許可されていた。
どのような経緯を辿りそうなったのか。…時は少々遡る。

−−−

「キャプテン!オペの準備出来たよ!」
「あぁ、コイツを置いたらすぐに行く」
「私も、そっちに連れてって」
「は?隣の処置室で寝てろ」
手術室へ連れてけというリイムに、ローはそう言うのだが。
「ルフィ達の側にいたいのよ。それに、そこに一緒にいたほうが何かあった時に都合がいいでしょう?」
「何かってなんだよ」
「…こう見えて結構、キツイのよ…でも皆を信頼してるから。
二人を手術してから私の事をちゃんとどうにかしてくれるで…しょ?」
リイムはニヤリと笑うと、よろしくね、と目を閉じて意識を手放した。
「…ペンギン、お前リイムの応急処置だけ先にしろ、それからこっちを手伝え」
「任せて!船長!」
ローはそっとリイムを降ろした。
「それにしても…二人ともよく、生きてるな…リイムも無駄に傷増やしやがって」
ルフィとジンベエを逃がすべく二人を保護したロー達は、マリンフォードを出航。
青キジと黄猿による追撃に合うがどうにか逃れ、二人の手術をしながら海底を進んだ。

「ふぅ、大手術だったな」
「ああ、よくあれで生きてたもんだ」手術を終えたペンギンとシャチは、通路に出て汗を拭いながらそう話す。
「それにしても、リイムもまた派手にやったな」
「ほんと、そういう性分なんだろうなぁ」
「…船長も、がみがみ言いながらもあんな顔しちゃって」
「あれだろ、リイムをキャッチした時だろう?」
まるで壊れ物を扱うような、大切なものを愛でる様な表情を見た二人。
「俺さ、リイムが空から降ってきた時…まるで女神でも降ってきたと思ったんだ、そしてそれを受け止めた船長!ドラマみたいですげぇ絵になってたよなぁ」と、シャチが興奮気味に言う。
「まぁ、なんつーか、リイムだからだよな」
あれが俺らだったらベポかジャンバールがキャッチして無下に扱われたぜ、とペンギンもあの瞬間の感想を述べる。
「それにさっきの船長!」
「リイムは俺一人で十分だ、てめぇら休んで来い、って!クーッ!カッコいいぜ!」
「シャチ、もしかしてこれは、そろそろもしかするんじゃねぇか!?」
偽装カップルからの卒業もあるのでは?とペンギンとシャチは興奮する。
「二人とも何騒いでるの〜、あまり興奮すると余計暑くなるよぉ〜〜」
汗だくなベポが歩いてくる。
「潜水はこれだから苦手だよ…厚くて耐えられないよぉ〜」と、廊下にぺたりと倒れこむ。
「黙ってろよ、こっちまで暑くなるだろうが!」
「…毛皮ボーボーだもんな、無理ねぇよ」
「…オレ、潜水嫌いだ、狭いところに何時間も…むさ苦しい奴らと一緒なんて」
「「お前が一番むさ苦しいわ!!!」」
「もう駄目、こうなったら二人も道連れだぁ〜〜!」
ベポは二人に飛び掛かり、抱きついた。
「汗をなすりつけるな!!」
「駄目だ!浮上しよう!」

「…あら、おはよう?ロー」
「今は昼間だ」
リイムは目を開くと、天井とローが視界に入り、そういえば船に戻ってきたのだと思い出す。
処置が終わった所なのか、包帯を巻かれている途中のようで。
「…まぁ、そうよね、そうなるわよね」
「何がだ」自身の様子を冷静に確認すれば、服はボロボロだったので着替えており
上半身は今まさに包帯を巻かれているのでブラジャーもしていない。
「…」それでも、確か入った時には何人ものクルー達が居たので、気を利かせて外に出してくれたのだろう。
「はぁ、流石にこんな時は男に生まれたかったと思わざるを得ないわ」
「は?」
「…私だって、ちょっとは恥ずかしいって事よ!言わせないでくれる!?」
「へぇ」
いくら医者とはいえ、同じ船で過ごす近い年代の男に裸を見られるのは…と、リイムはなんとも言えない気持ちになる。
「まぁ、流石に鍛えてるだけあるな」とリイムの腹筋をペチンと叩くとニヤリとローは笑う。
「痛ったぃ!ちょっと!怪我人なんだからもっと丁重に扱いなさいよ!」と叫ぶも。
「…てめぇ、元々怪我してた上に安静にしてろと言ったよな?何がどうなってマリンフォードに居たんだ?」と、ローは眉間のシワを寄せる。
「あ、…そんな事もあったわね」目を泳がせて話を逸らそうとするのだが。
「あんだけぐっちゃぐちゃの顔で帰ったら仲間にしてくれって叫んでおいて、鼻水まで垂らして…」
そう言われてハッとリイムはあの時の事を思い出す。
とにかく必死だったのだが、冷静に振り返ると随分恥ずかしい気持ちになる。
「あ、あれはまぁ…その…」色々あって話すと長いのよ、と誤魔化そうとするが「うるせぇ、いくらでも聞いてやるから全部話せ」
そう言うローの気迫に押されて、ぽつりぽつりと話出した。

「つまり、予想通り鷹の目がてめぇの師匠って訳で」
「そうなのよ、ばったり会って、そのまま無理矢理連れてかれてね」
「それで七武海と一緒に居たのか」
「本当に最悪だったわ、あ、でもハンコックとは仲良くなれそうよ」
「あの海賊女帝か」
「ええ、意外と可愛いのよ、彼女」リイムは、モジモジするハンコック可愛かったわ、と微笑む。
「てめぇが七武海と並んでモニターに映った時のあいつらの反応と言ったら」
「あら、やっぱり映っちゃったのね…どこまで放送されてたの?あれ」
「あぁ…白ひげが刺された所までだ」
「…そう」リイムは、つまりあの事、も、放送されてしまった事を知る。
…皆も知ってしまったのね、出来れば自分の口から言いたかったのだけれど、と思うがもう後の祭りだった。
包帯も巻き終わったのでリイムはふぅ、と息を吐いて起き上がりベッドに腰掛ける。
「おい、まだ横になってろ」
「なんか、寝てられないのよ…」ちらりと別のベッドで横になるルフィに目をやる。
「先生は私に、世界を知れって、この時代の流れを自分の目で見届けろって…でも結局、あんな事に…なっちゃったわ」
あんな事、とはルフィの事か、エースの事か、それとも自身の母親の事か?とローは思うが。
「…」「お前はお前、だろう?いつもみたいにヘラヘラしてやがれ」
「へ、ヘラヘラって何よ!」
「お前がしんみりしてっと調子が狂うんだよ」そう言うとローはリイムの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「は?ちょっ、と!何なのよ、もう!」
「上が騒がしいな、少し様子を見てくるか、おとなしくしてろよ」
そう言うとローは手術室を後にした。
「…なんなのよ、調子が狂うのはこっちよ…」

「だあああああ!!生き返った!やっぱり外は気持ちいいなぁ」ベポは久々の外の空気に気持ちよさそうに伸びをする。
「右よし、左よし」周囲の状況を確認しようと見回すが、次の瞬間。
「正面…蛇よし、っスネーィクッ!!!」ベポは突然視界に入った蛇に驚き声を上げる。
「なんだぁ?」
「何で蛇が!?」ペンギンとシャチもベポの声に慌てて出てくる。
「何でこんな所に海軍の船が!?」
「誰か居るぞ!王下七武海、海賊女帝ボア・ハンコック!!」
「…安心するのじゃ、海兵達は皆石にしてある」海軍の船から降りてきたハンコックがそう告げる。
「で、ルフィの容態はどうなのじゃ?ひどいのか?治るのであろうな…?」
「よくオレ達が浮上してくる場所がわかったな、海軍がまだ追跡してきたのかと思ってキモ冷やしたよ〜」
「海底をサロメに尾行させたのじゃ」な〜る、とベポは納得するのだが。
「勝手に話題を逸らすな!ケモノの分際で!!」
「すいません…」
「「打たれ弱っ!!」」
「ルフィの容態を、はよ申せと…!!」ハンコックが痺れを切らせたその時。
「キャプテン!!」
「やれる事は全部やった」
ローが騒ぎを聞きつけて出て来た。
「手術の範疇では現状命はつないでる、だがあり得ない程のダメージを蓄積している。まだ生きられる保障はない」
「…」
「それは当然だっチャブル!ヒ〜ハ〜!」イワンコフと新人類達が顔を出す。
「何だ、あいつら」
「インペルダウンの囚人達…ルフィの味方のようじゃ」
船から降りてきたイワンコフは「麦わらボーイはインペルダウンですでに立つ事すら出来ない体になっていたのよ!」
よくもまぁあれだけ、と、目の前で兄が死んだダメージは計り知れないわ、と話す。
「ところでヴァナタ、麦わらボーイとは友達なの?」
「いや、助ける義理もねぇ…親切が不安なら何か理屈をつけようか?」
「いいえ、いいわ、直感が体を動かす時ってあるものよ」
そうローとイワンコフが話していたその時だった。

「ちょっと、動いちゃ駄目だってば!」リイムの声がしたかと思えば、重症のジンベエが歩いてきたのである。
「北の海、トラファルガー・ローじゃな、ありがとう、命を救われた…!!」
「寝てろ、死ぬぞ」
「そう言ったんだけども…」
「心が落ち着かん…ムリじゃ」ジンベエも失ったものは大きく、ルフィの目覚めた時が最も心配だと話す。
「…お前もだ、寝てろと言っただろう」
「ヴァナタもよかったわ、元気そうで!!」イワンコフがうんうんと頷く。そしてもう一人。
「おお!…リイム!そう言えばおぬしもこの船に…!!!」
「ひどいわハンコック、さっきから居たわよ…ルフィのついでなのね、やっぱり」
「ハッ!!つまり!!この医者の男と!リイムは!…け、結婚を…!!」
「「してないわっ!!!」」
「…おい、何がどうなって結婚した事になってんだ」
「あの人、普通の恋愛脳してないのよ、名前呼ばれたり抱きつかれたら結婚するレベルよ」
「成程…」そうリイムとローが話していると、さらに顔を赤らめたハンコックがもじもじと喋る。
「ああ、やはり結婚した二人は仲睦まじくあのように話すのだな!!わらわも元気になったルフィとはよ話をしとうものじゃ…」
「駄目ねこの人、何言っても駄目だわ」
「…勝手にやってろ」わいわい騒いでいるが、ハンコックが突然、我に返る。
「そうじゃ!ケモノ!電伝虫はあるか?」
「あるよ…あ!ありますすいません」
「いいなーお前女帝のしもべみたいで」
「九蛇の海賊船を呼べばこの潜水艦ごと凪の帯を渡れる!ルフィの生存が政府にバレては必ず追っ手がかかる…わらわ達が女ヶ島で匿おう」
「…それは、助かるわね」
「お、おぬしははついでじゃ!!あくまでもルフィの為じゃ!」
「はいはい、わかってるわよ、蛇姫様」「
リイム!!今更そう呼ばれるのも腹立たしい!!…ハンコックでよい!!」
「あら、そう、そんなに照れなくていいのに」
「照れてなどおらぬ!!」
「いいなーリイム、海賊女帝と仲良さそうで」
「…なんか、ツンデレ具合が誰かさんに似てるわね」
「は?誰の事だ」
「分かってる癖に」
「ともかく、わらわがまだ七武海であるなら、安全に療養できる!…ルフィ…」

そして迎えの九蛇の海賊船と共に、アマゾン・リリーにたどり着く。
ハンコックの凱旋に沸き立つ島の女達。そしてそれを見て鼻を伸ばす、ハートの海賊団のクルー達。
「…まぁ、正しい反応よね、これが」
「本当にこいつらはめでたい奴らだ」ローは扉の横に寄りかかったままボソッと答える。
「ローが鼻の下伸ばすトコロなんて想像出来ないわね、あ、もしかしてむっつり?」
「…おい、その減らず口を塞げ」
「え、うそ図星?さっき私にヘラヘラしてろって言ったのはどこの誰かしら」
それは俺だ、とローは思うが、こうも全開だとスリッパ…いや、鬼哭で思いっきり叩きたくもなる。
「…てめぇもロロノア屋と一緒だとデレデレしてんだろうが!!」
「は!!!!?何それどこ情報よ!!」リイムは沸騰させたように顔を赤くする。
「…俺がこの目で見た」
「え!!うそ!いつよ!私デレデレなんてしないわよ!!」
そんなやり取りが目に入ったペンギンは、もしかして二人に何かあったんじゃないかという淡い期待を粉々に打ち砕かれる。
「やっぱ、自覚するまでこっちがモヤモヤするだけだわ…って!!矢?やーーー!!??」
そうこうしている間に、多数の矢が船へ向かって飛んでくる。
やはり男がここへ来る事は異例のようで、ルフィ以外の男が島に立ち入る事は許されず、海に戻るしかないか、と諦めたのだが。
ローの医療技術を認めるジンベエの助言もあり、ニョン婆が特例として湾岸へ停泊する事を認めたのだった。




変わる世界と変わらないもの

「そーだ!まだ俺たち言ってないよな」
「そういえば!」「何が?」
「「「おかえり〜〜〜!!!副船長〜〜〜!!!」」」
「…!!」
「だ、そうだ、異論でもあるか?」
「…!!ない…わよ!!!」
「ったく、泣くな副船長」
「な、泣いでないっ!!」

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