〔23〕

「リイムー!!」
「行って!ルフィ!」リイムはミホークの斬撃を止めながら叫ぶ。
「余所見をするなとあれ程言っただろう」
「っ!!」しまった、そう思った次の瞬間、間に誰かが入ってきた事にリイムはハッとする。
「あなた…Mr.1、ダズ・ボーネスじゃない!!」
「…社長命令だ、一旦海軍を敵とする」
「!」
そうは言って間に入ったものの、ズバッっとミホークによって一太刀で斬られてしまう。
「ちょっと、先生!」
「次は容赦せんぞ、リイム」
「〜〜〜〜!!」
ああもう、と、ミホークを止める術を考えるが、勿論有る訳もなく。
「あなたを越えなければ、世界一にはなれない…でも、今は無理だわ!」
「潔いな」
「だから、私は全力で生きる!ロー達の所へ帰るのよっ!!」
「…其れ程までの男か?」
「先生には分からなくてもいいわよ」
「そこまで誰かに執着するのは珍しいな」
ただ、約束を守る為、と海に出た小娘だったあの頃を思い出すミホーク。
その後も、麦わらこそ助けはするが、ふらりふらりと漂う姿は正に死神、これからもそうなのだろうと思っていたのだが。
「…見つけたのだな」
「…な、何をよ」そうリイムが少しミホークとの距離を取ったその時。
ガキン!!と音がしたと思えばそこに現れたのはリイムも知っている男だった。
「おい、死神、さっさと行け」
「クロコダイル!」
「今…!!虫の居所が悪ぃんだ、気ぃつけな、鷹の目!」
リイムとミホークの間に入ったクロコダイルは血を流し倒れているボーネスをチラリと見た。
「てめぇは幸運の女神じゃねぇ、死神なんだろ?さっさと行って…あいつらを絶望させてくるんだな!!」
「…!」
クロクダイルにそんな事を言われると思わなかったリイムは、ぐっと唇を噛み締めた。
「…そうね」いつからか付いた異名はいつも嫌で仕方なかった。どうして人々は命運を、死神に準えて私のせいにするのかと。
運命というものは、自分で切り開くものなのに、と。
でも、このマリンフォードに来てからは少しだけ、運命に抗いもがく人々をその手で左右する死神が好きになれそうなのだ。
「人の運命を引っ掻き回すのは、…悪くないわ」あの人が負けなしの幸運の女神だったのならば…
私はそれを越えるような、刀という鎌を持つ、死を司る者になろうではないか。それがきっと…私なのだ、と。
「もしもっと何かが違う人生だったら、あなたの仲間になってあげてもよかったわ」
「フッ…事実部下だっただろうが」
「あ、そういえばそうね」忘れていたわ、と笑いながらリイムは走り出した。

ルフィが、処刑台の近くまで着いたようで、さらに何かが処刑台までの道を作ったのが見えた。
「行かせるなぁー!!」海兵達が一斉にルフィを攻撃しようとする。
「させないわ、ルフィー!!行ってぇぇぇぇぇ!!」リイムは近くの海兵達を止めに飛び込む。
「うわあああ!!」
「裏切り者がああ!!」次々と押し寄せる海兵を無我夢中で倒していく。
橋の上で、ルフィがガープと対峙したのが見えたが、どうやらルフィが殴り飛ばし、ついに処刑台へと辿り着いた。
ハンコックがエースの手錠の鍵は持ってきた、と言っていたので恐らく今ルフィの手にあるのだろう。
しかし、すぐ横にはセンゴクがおり、そう簡単に外せない事は容易に想像できた。
案の定、センゴクは何の能力か分からないが巨大化し、ルフィ達に攻撃を仕掛けた。
そこで何故か…Mr.3が見えたのだが、一緒にインペルダウンから脱獄してきた所から推測するに、今はきっとルフィに協力してくれるだろうと、行方を見守る。
そして、処刑台は大きな爆発音と共に、崩れていった。

「爆炎の中に!」
「炎のトンネルが!!」その言葉を聞いたリイムは、薄っすらと涙を浮かべる。
「ルフィ…エース…」姿を現したのは、ルフィを掴むエース。
「エースー!!!」そしてルフィの歓喜の声。
ついに、ルフィはエースを解放したのだ。息ぴったりに戦う二人の姿に、思わずニコリと笑い、
「何て息の合い様だ!」
「二人の逃げ道を作れ!!」そう叫ぶ隊長達に続いていった。
突如、本部に向かって船が動き出す。そこには白ひげを刺したスクアードが乗っていた。
しかし、白ひげはそうはさせないと、その船を手で止める。
「今から伝えるのは…最後の船長命令だ!!!よぉく聞け、白ひげ海賊団!!
お前らと俺はここで別れる!全員!!必ず生きて!!無事新世界に帰還しろ!!」
そう叫んだ白ひげに、海賊達はどよめいた。
「俺は、時代の残党だ…新時代に俺の乗り込む船はねぇ…!!!行けぇ〜〜〜!!野郎共ぉ!!」
おそらく、海軍との全てに決着をつけるつもりなのだろう。そして、この時代にも。
白ひげの放った攻撃は、島を丸ごと潰そうとでもいう様な大きな揺れで、一刻も早く脱出しなければ、とリイムもルフィ達を追った。
途中、一部の海賊達は白ひげを置いて行けないと嘆くが、「船長命令が聞けねぇのか!さっさと行けアホンダラァ!」と一喝される。
「早く、あの人の覚悟を無駄にする気なの!!?」
リイムの近くにも狼狽える海賊達がおり、早く行きなさいよ!と逃げるように促す。
「ハァ…なかなか、追い着けないわ」一向に縮まらないルフィ達との距離を、もどかしく思いながら走り、
途中あまりにも多い海兵に、フワリと下半身を雲に変化させ宙を舞い進んで行った。
おかげでようやく、二人やジンベイの姿をしっかりと捉えたその時。
「…っ!!!!!」
視界に入ったのは赤犬、そして、ルフィを庇い、赤犬のマグマの拳を受けたエースの姿だった。
「う…そ…」リイムは、目を見開いたまま、そこから数秒、誰かが「エースがやられたぁ〜〜〜!!」と叫ぶまで、動く事が出来なかった。

「赤犬を止めろおおおお!!!」そう、誰かが叫んでいる。そうだ、あの大将を止めなければ。
まだ少し息がありそうなエース、それにルフィも狙われている。ジンベエが間に入ったのが見えた。
リイムは、何も考えられなかった。ただあの赤犬をどうにかするしかない、それが出来るか出来ないかなど関係なかった。
「ふざけるな…赤犬ぅううう!!!」一気にマリンフォードの上空は分厚い雲に覆われる。
「死神!」
「何をする気だ!!」
周りの海賊の声ももはや耳に入らない。
「ふざけるなふざけるな…!海軍なんてクソ食らえ!!!」ゴオオオオオオ!!!という突風と遠雷。ポツリ、ポツリと雨が降り出した。

赤犬が一瞬、リイムへと視線をやるが、すぐにマルコとビスタによって止められる。
ルフィに抱えられていたエースが、ドサっと地面に倒れるのが見えた。
「エースーーーーー!!!!」
「…」ルフィは、大丈夫だろうか。早く逃げて、ジンベエ、早くルフィを連れて逃げて。
「エースの弟を連れて行けよい!ジンベエ!その命こそ!生けるエースの意志だ!!!」
マルコが間に入ってくれたようで、ジンベエはルフィを抱えて走り出す。
彼らに追い風になるようにリイムはコントロールしようとするがうまくいかずに苛立ちを覚える。
そんな中、白ひげが赤犬を攻撃し、その後反撃で顔が半分消えたのが見えた。
顔を半分失っても衰える事のない白ひげの攻撃で、海軍本部に亀裂が入った。
すぐに周りの海軍が騒ぎ出す。「うわあああ!!白ひげの地震にっ今度は嵐だ!飛ばされる!!」「死神の仕業か!!」
「蛙の子は蛙だ!一度は七武海の部下として海軍に味方しながら…やはり裏切り者!!」
「ごちゃごちゃと煩いわね!!私は、ハートの海賊団の、フランジパニ・リイムなのよ!!!」
「・・・!!あのルーキーの仲間ぁ?」
「どうなってんだ!!」

騒ぐ海兵を横目に「今だわ!!」と、リイムは未だかつてない程集中し、意識を空へと向ける。
ゴオオオオオと、マリンフォードの周辺を凄まじい強風が包み、徐々に海面がうねり出す。
「おいおい…!!!」
「シャイニーの娘よ、まさかその能力を以って海をも支配するつもりなのか…!!!」
青キジとセンゴクは、末恐ろしい娘だと、どんどんと高くなってゆく海面を見つめる。
もはや地震に嵐にと壊滅的な海軍本部に、迫る高波。
「こりゃぁ…」マズイな、と海面を凍らせるべく青キジが強風の空へと飛んだのだが。
「ちょ、ちょっと死神!!無茶だッチャブルよおおお!!!」
「…っ、後、少…し なの  にっ…」
リイムはゴフッと血を吐くと、もう少し、という瞬間に意識を手放した。
強風は少しずつ威力を弱め、海面は穏やかになってゆく。
「言わんこっちゃないわ!!」イワンコフはすぐさま叫ぶ。
「ヴァナータ達!死神を拾うッチャブルよおお!!」
「はい!!イワさん!!」
近くに居た新人類達は、倒れたリイムをすぐさま担ぎ、再び走り出した。

その間に、黒ひげ海賊団が現れ、マリンフォードの戦場に一波乱起こす。
結果、かつて海賊王と渡り合った男、白ひげ海賊団船長“大海賊”エドワード・ニューゲートは、
ひとつなぎの大秘宝は、実在すると世に告げ、この頂上決戦にて死亡した。
その後、黒ひげことティーチは、白ひげの悪魔の実の能力を手にし、センゴクとぶつかり合う。
その衝撃で、リイムはふと目を覚ます。
「…!!一体、どうなって…」
「起きた!!死神が目を覚ましたぞおお!!」
「白ひげが!黒ひげが!!」
「…とんでもない事に、なったわね」運ばれながらも周りの状況から、何となく事の重大さを察したリイムは、もう大丈夫、と自身の力で地に足を着ける。
「ありがとう、ルフィ達はどこ?」
「あっちですけど!無茶しないで下さいって!!!うわああ!イワさん!!」
新人類達が絶叫したので、そちらを見れば、赤犬にやられているイワンコフ達が見える。
その先には、ジンベエと、恐らく気絶しているであろうルフィもいるだろう。
「くそっ…!!!」急いで向かうも、後一歩間に合わずに目の前で赤犬に貫かれてしまうジンベイとルフィ。
「ふざけんな赤犬!!!」ザッっと間に入ったが、勿論どうするかなど考えていない。
「裏切り者の血を引く娘…貴様もここで死んでおくかぁ!!」
高波では焼け石に水、そうは思うも何もしないよりは!と思った次の瞬間、砂が赤犬を貫通する。
「!!ハァ…また、助けられるなんて」
「喋るんじゃねぇ、傷口が開くぞ!砂嵐!!」
クロコダイルがそう叫べば、砂嵐に乗ってリイムとルフィを抱えたジンベイは宙を舞う。
「誰か受け取ってさっさと船に乗せちまえ!お前ら!守りてぇもんはしっかり守りやがれ!
これ以上こいつらの思い通りにさせんじゃねぇよ!!」
「…!!」
そうこうするうちに、クロコダイルから随分と離れていった。

リイムはどうにかジンベエを掴み、自力で飛ぼうと試みるが、もはや体力が残っていないようだ。
「すまない…リイムさんよ…ルフィ君を…」
「ハァ、喋っちゃ駄目よ、…うちの船長が医者だから、それまで、どうにか…」
持ち堪えて帰らなければ、そう思うが、ジンベイも意識を失いどうすれば…、そう思っていたその行く先に赤い鼻の人物が見えた。
「どわー!!何か飛んできたぁ!」
「助かったわ…」
「うわあああ!!麦わらにジンベエに死神!!どういう経緯で血まみれで空を飛んできやがったお前ら!!」
すぐにマグマの追撃が襲うが、バギーがうまく避けたので、リイムはホッと息をつく。
「早く…手当て、しないと」
「手当てなんかこんなとこでできっかよおおお!!それに助けて欲しいのは俺だバカ野郎!」
「あら…そうなの…」
「死神がついてこられちゃ俺はおしまいだぜ!!」
「すげーぜキャプテン・バギー!逃げると見せかけて麦わらを助けて、あの死神まで一緒でも動じる事無く!!」バギーの部下達がやいやいと騒いでいる。
「だ、そうじゃない、赤鼻さん」
「う、うるせぇ!!って誰が赤っ鼻じゃクラァ!!」
そう騒ぐバギーを横目に、リイムは海面がブクブクと揺れたのが目に入る。
「…!!」次の瞬間、ザパァン!!と見慣れた黄色い潜水艦が海上に姿を現した。

「麦わら屋をこっちへ乗せろ!!」
「ム・ギ・ワラヤ〜〜?あぁ?てめぇ誰だ小僧!!」リイムは、その声に、思わず涙が浮かぶ。
「麦わら屋とはいずれは敵だが悪縁も縁、こんな所で死なれてもつまらねぇ!」
「…ロー!!!」リイムは声にならない声でつぶやく。あぁ、彼はルフィを助けてくれるのだと。
「そいつらをここから逃がす!!一旦俺に預けろ!!俺は 医者だ!!!」
「トラファルガー・ローです!北の海のルーキー!」
「麦わらのルフィの共犯の海賊!!」
「死神リイムの仲間が!」
「潜水艦で救援に来た模様!!!」
すぐさま海軍の攻撃がロー達の船を襲う。
「急げ!二人共だ!こっちへ乗せろ!」
「船長!リイムはどこ!!」
「ロー船長!軍艦が沖から回り込んできた!」
どうやらジンベエの影に隠れてリイムの姿は見えていないようで。どうにか顔を覗かせて声を出す。
「ロー…!!」「!!」
気付いたクルーたちは歓喜の声を上げる。
「リイム〜〜!!!!」
「うわあああ無事でよかったぁぁ!!」
「バカ、何やってんだお前」
「ちょっと寄り道を」
「うぇぇええ!お前ら知り合いか!?って!ヤバイ、黄猿だあああ!!」
バギーの騒ぐ声で、黄猿がこちらを狙っている事に気付く。
「よし!任せたぞ馬の骨共!せいぜい頑張りやがれ!!」バギーはポイっと3人を投げた。
さすがに二人を抱えたまま降りるのは無理だったリイムは空中でジンベエとルフィを手放し、その様子をみたローは「受け取れ!ジャンバール!」と指示を出す。
「ロー!!」
「…着地も出来ねぇのか、お前」
バランスを崩したままフワリ、と落下してきたリイムを、ローは受け止め、そのまま甲板に倒れこんだ。
怒っている様な気がして、すぐに立ち上がろうとするも、ローの腕はぎゅっと力が入っていて動けない。
「…ごめんなさい」と、リイムは思わず謝る。
「うるせぇ、黙ってろ…お前ら!海へ潜るぞ!」
「「アイアイ!」」
ようやくローも起き上がれば、そのまま抱きかかえられる。
「あ、歩けるわよ!」
「黙ってろって言ってんだ」
そう船内へ入ろうとした時、確実に黄猿の標的がこちらへ向いた。
「シャボンディじゃあよくも逃げてくれたねぇ〜、トラファルガー・ロー〜〜!!」
「キャプテン!ひどい傷だよ、生きてるかなぁ…急ご!」ベポもルフィを抱え、慌ただしく走り出す。
「麦わらのルフィ〜、死神リイム、死の外科医ロー!!!」まずい、と思ったその時。
「そこまでだぁぁあぁぁ!!!」と、戦場に響き渡った叫び。海兵、コビーが赤犬の前に立ちはだかったのだった。
「もうやめましょうよ!もうこれ以上戦うの!やめましょうよ!命がも゛ったいだい!!」
止めようとするコビーに、「数秒無駄にした…!」そう拳を向けた赤犬。
しかしその時、そこに現れたのは赤髪の四皇だった。
「よくやった若い海兵…お前が命を懸けて生み出した勇気ある数秒は、良くか悪くか…たった今世界の運命を大きく変えた!!」
「急げ!」
「急いで中へ!!」
その全ての時が止まった隙を見て、クルー達は船内へと入って行く。
「この戦争を、終わらせに来た!!」そう、シャンクスは告げた。
「シャンクス…」
「…」
「キャプテン!四皇珍しいけど!早く扉閉めて!リイムの手当てもしないと!」
「ああ…待て、何か飛んでくる」
「あれは、ルフィの…」





守りたいもの

「…終わるのね、これで」
「…」
「約束、したでしょ…」
「本当にバカだ、お前は」
「…」
「…よく帰ったな、リイム」
「ロぉ…っ、た、ただい゛まっ!!」
「ああ(…おかえり、死神)」

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