〔22〕

ロジャー海賊団と唯一互角に渡り合い、この大海賊時代の頂点に君臨する海賊、白ひげが刺されるなんて。
リイムは目の前で起きた事件に驚きを隠せなかった。
会話の内容から、傘下の海賊スクアードが海軍の口車に乗せられたようだ。
白ひげが、仲間を売った、と。そんな事、するはずがない…あって欲しくない、そう思う。
それにしてもあの白ひげが、避ける事も出来ないなんて、本当に仲間達を息子だと思っていたからか…
いや、余程体調が良くないのだろう。そんな状況に、ルフィもリイムも動けずにいた。
「なんて…事が…」
「みっともねぇじゃねぇか!白ひげ!俺はそんな弱ぇ男に敗けたつもりはねぇぞ!」
そう叫んだのは、クロコダイルだった。彼があんな風に感情を露にするなんて。
それでも、白ひげは、スクアードを自身の方へ引き寄せて「みんな俺の家族だぜ」と諭すと、
その拳を思いきり振り、後方の氷塊を吹き飛ばし退路を作った。
「海賊なら!信じるものはてめぇで決めろぉ!!」
海賊達がどよめく。「…!やっぱりウソだ!海軍の作戦だったんだ!畜生…!」
「俺と共に来る者は命を捨ててついて来い!」
「ウオオオおお!」
「行くぞぉ〜〜〜!」ついに、白ひげが動いたのだ。
「オヤッさんに続けー!」
「オヤジに道を開けろぉ!」一斉に海賊達も動き出す。
「ルフィ、私達も!」
「ああ!それにしてもすげぇなあのおっさん!」
リイムもルフィと走り出す。途中、白ひげが能力を使ったお陰で、地震どころではない揺れに見舞われるもひたすら、処刑台を目指す。
ところが、だ。ルフィももう少しだ、と腕を伸ばしたのだが、突如地面から壁が出てきた。
次々と何枚もの防御壁が出現し、周囲を取り囲んだ。幸運かどうかは分からないが、オーズによって、1ヵ所だけは上がりきらなかったのだが。
「うまくあそこから入ればいいけれど…これは、ピンチかもしれないわね、ルフィ」
空を見上げれば、頭上からは赤犬の放ったマグマの塊が流星群のように降ってきた。

「なぜ映像が途切れたんだ!」
「マリンフォードを映せ!」
「海軍と白ひげが黙約してたってのは本当か!?」
「白ひげは仲間を売ったのか?」
シャボンディ諸島のモニター中継は全て切れてしまい、設置された広場では、これまでにない程騒ぎになっていた。
一方、ハートの海賊団は。
「船長、電伝虫のトラブルだって!」
「…あぁ」そう返事すると、今まで静かに座っていたローはすっと立ち上がる。
「!」それを見たクルー達は、何も言わずに続いて立ち上がった。
「…船を出すぞ、ベポ!」
「アイアイ!キャプテン!」
「ついて来い、ジャンバール!」
彼らは船を停めているグローブに向けて進んで行った。
「リイム、大丈夫かな」出航準備をしながらシャチは小さく呟く。
「リイムだからな、きっと大丈夫だ」ペンギンは死神はそう簡単に死なないさ、とシャチの背中を叩いた。



「俺達の船が…!」
「モビー・ディック号が…!」
降ってきたマグマの塊によって、氷は溶け足場はなくなり、さらに海水はマグマで煮えたぎって熱湯になっていた。
「早く、どうにかしないと…」これでは圧倒的不利。
津波は無理だが嵐で高波を起こすことは出来るのかもしれない…。
それでマグマの海を冷やせるか?と考えるがその前にそこまで出来る体力もない気がするし、何よりここは能力者だらけなのだ。自身も溺れかねないとリイムは悩む。
「作戦はほぼ順調、これより速やかにポートガス・D・エースの処刑を執行する!」
処刑台も見えない状況でそう宣言され、海賊達は皆オーズの倒れている場所、オーズの道へ進む。
「あれ、ルフィ!!ジンベエ、ルフィはどこ!?」
「さっきまで隣に…あそこじゃ!」
ふと視界から消えたルフィを探せば、既にオーズの道へ進んでおり、案の定待ち構えていた海軍に撃たれたのが見えた。
「ちょっとルフィ!あそこしか道がないのに、海軍がいないわけないでしょ!待ち構えてるに決まってるじゃない!」
「死神の言う通りッダブルよ!むしろ罠よ!」
「全く無茶を!」
そう3人に責められるも、諦める事など更々ないのは分かってはいるけれど、とリイムはルフィに手を伸ばす。
「ハァハァ…頼みがあるっ!」そう言いながらリイムの手を取って立ち上がるルフィの提案に三人はなんという無鉄砲な案だ、と半ば呆れるが
「それなら、私も援護するから無茶はしないで!」とリイムは提案する。
「ああ!頼むリイム!」
「ええ!」
丁度、見計らったかのように動き出すオーズ。
「今ね!!」ジンベエの水柱が防御壁を越える。
ザパァン!と音を立てて、防御壁の内側に降り立つルフィの目の前には、大将が3人、立ちはだかっていた。
「私、も…」ルフィ1人では命を捨てに行くようなもの。
私が行ったところで、とは思うがそれでも、戦況を引っ掻き回すぐらい出来るかもとリイムは思っていた。
だから、すぐにルフィの後を追って援護する、そう思っていたのに。
「ちょ、ちょっと死神!ヴァナタ!」
「リイムさん!血が…!!」リイムは膝からガクリ、と地面に崩れ落ちた。

「ハァ…」リイムは傷口を手で押さえると、駆け寄ったイワンコフに少しだけ体重を預ける。
「でも、…行かなきゃ」
「どうしてヴァナタがそこまでするッチャブル!」そう聞かれたら、簡単には答えられないけど。
「ルフィ、は、ゾロ…私のライバルで大切な人が、人には簡単に従わないような彼が、海賊王にすると、そう決めた男なのよ…」
イワンコフはそれにしても、と口にするがリイムの言葉で遮られる。
「それにね、…ここで海軍から、この出来事から逃げたら、私の中の色んなものが…砕け散っちゃいそうなのよ」
二人の気持ちも、無視出来ないから。それは同じ海賊として感じるのか、何か似たようなものを感じたからかは分からないが。
「…ハァ、ヴァナタ麦わらボーイの事言えないッチャブルね!分かったわよ、テンションホルモン!」
「!?」
「回復した訳じゃないわ、誤魔化してるようなものだからね!」
「これは…?あら本当、動けるわ…ありがとう、イワンコフ、先に行くわね!」
「全く、無茶するんじゃないッダブルよ!」
リイムはサアァッと姿を変化させ、包囲壁を越えて行った。

「ルフィ!」黄猿に蹴り飛ばされたルフィが目に入ったが、すぐに処刑台での動きに焦る。
「駄目!エース!」
「エース!!」
「お願い!」
リイムは、普段、段階を踏んで天候を操作していた、むしろそうしないと出来ないのではと思っていたのだが
今は一刻を争う事態。エースの首に刀が向けられ振り下ろされる、その瞬間。
ザンッツ!と音を立てて、刀を持つ海兵が一人は衝撃波のようなもので、もう一人は小さな竜巻のようなものによって吹き飛んだ。
「ハァ…小さいけど出来たわね…」
「誰だ!!」センゴクは視界に入った二人に目をやる。
「…貴様らか!」
「クロコダイルに!」
「リイムだ!」
「あら、元、ボスじゃない…奇遇ね、こんなところで」
「相変わらず…神出鬼没だな。ミス・ハッピーデスデー…いや、死神か」
「リイム!え!それにあいつ!」ルフィもまさかのクロコダイルの手助けに驚く。
「…」
「あんな瀕死のジジイは後で消すさ。…その前に、お前らの喜ぶ顔が見たくねぇんだよ!」
クロコダイルは海軍に向かって凄む。と、突然クロコダイルの頭が飛ぶ。
「また現れたわね、ドフラミンゴ…」
「オイオイ、ワニ野郎、てめぇ俺をフッて死神と組むのかぁ?あぁ、白ひげと組む、の間違いか。どちらにしても嫉妬しちまうじゃねぇかよ…」
フッフッフッと笑うドフラミンゴ。
「俺は誰とも組みはしねぇよ」そう言うと、二人は衝突した。
その衝撃に一瞬バランスを崩すが「もう、いい迷惑だわ!」と、巻き込まれないようにルフィの元へ急ぐ。
しかし、そう簡単には進めず青キジに阻まれているのが見える。
「ルフィ!」危ない!と思った瞬間、1番隊隊長、不死鳥マルコが間に入ったのでほっと息をつくが、依然油断はしてられない。
「4人の侵入を許した!」
「能力者は包囲壁を越えて来るぞ!!」
さらに、海中に待機していた、もう一隻の船が現れ、それをオーズが持ち上げてそのまま包囲壁の内側へと降ろした。
これで多数の海賊達が広場へ侵入し、白ひげも、広場へと降り立った。
「野郎共!エースを救いだし、海軍を滅ぼせぇぇ!」…これは、本当にどうなるか分からないわ、とリイムは迫り来る中将達を迎え撃った。

どうにか応戦しているが、ルフィが危ない。早く彼の所へと思っていた矢先、黄猿に蹴り飛ばされてしまうが、白ひげによって止まった。
顔面を巨大化させ怒るイワンコフの気持ちも分かるが、彼はきっと死んでも進むことを止めないだろう。
そうこうしていればいよいよ伝説の英雄ガープまで動き、エースを助けに向かったマルコが殴り飛ばされる。
「ハァ、ルフィの意識は?」ようやく合流すれば、ちょうど意識を取り戻したと思われるルフィ。
イワンコフに「最後の頼みだ」と口を開く。限界をとうに越えているらしく、命を落とすわよ!とイワンコフも止めようと必死だ。
「…」
「やれるだけやって…死ぬならいい…今戦えなくてエースを救えなかったら…!」
…私なら、きっと死にたくなる、死ぬ程後悔する。
「後で…死にたくなる!!!今、戦う力を俺にくれ!!」
その台詞を聞くと、やっぱりルフィだわ、とリイムは無意識に笑った。
「勝手にしやがれぇ!」と、半ばやけくそにも聞こえたが、イワンコフはルフィにホルモンを打った。
「ウォオォオォオ!!」と叫び立ち上がったルフィ。
「ルフィったら…でも一人突っ走らせると危ないわね」
「ヴァナタ達…本当に自分勝手で見てるこっちの寿命が縮まるッチャブルよ!ヴァターシも援護するわっ!」
しかし突如目の前にはパシフィスタが現れる。
「しまった!こいつら」
「厄介だわ!」そう思った瞬間、パシフィスタとの間に一人の人影が見え、パシフィスタの攻撃が止まる。
「ハンコック!」
「そうか!お前ら味方か!ありがとうハンコック!」
ハンコックはルフィの言葉にまた頬を赤く染める。
「助かったわ、ハンコック」
「リイム!そなたはついでじゃ!」
「…あら、そう」
「ええぃ、さっさとルフィと共に行くのじゃ、本当ならわらわが付きっきりで援護したい所なのじゃ…」
「そうね、ハンコックもあまり目立ち過ぎないように」
全く、七武海だというのに彼女はよくやるわ、とリイムはパシフィスタをすり抜けて進んだ。

ところが戦況はあまり良くない方向へ進んでいるらしく…
名のある隊長達も、白ひげの体調が悪化し赤犬に攻撃された動揺からか、一瞬の隙を突かれ次々に崩れてゆく。
しかし白ひげは「俺ぁ白ひげだぁあ!」と叫ぶと長刀を振るう。あれだけ傷だらけでも、多数の海兵を吹き飛ばした。
なんという…海賊なんだろう、とリイムは思った。その矢先。
「未来が見たけりゃ今すぐに見せてやるぞ、白ひげ!やれ!」
再びエースの処刑が執行されそうになる。
「…!!間に合わない!」
「やめろぉ〜〜〜〜〜〜!!!」

「!!?」
「…!」
「おいおいマジか…!」
「今のは…覇王色の…!!」
騒然としたのは、ルフィが覇王色の覇気を使い、執行を中断させたからだった。
「ヴァナタいつどこでそんな力身につけッチャブルなの?」
「あぁ?何が!!」
「何でもない!」
「…無意識なのね」
そういうものを持ってるのも、今までのルフィを見れば分かる気がする。
だから、私も今…とリイムは思う。
「麦わらのルフィを全力で援護しろぉ!」 と白ひげも叫ぶ。すると一斉に隊長達や傘下の海賊達がルフィを狙っていた海兵を倒してゆく。
「…!!ルフィ、とんでもない事よ、これ」
「何が!」
「一大事なのよ麦わらボーイ!世界一の海賊がヴァナタを試してる!
白ひげの心あてに応える覚悟あんのかいって聞いてんノッキャブル!!」
「白ひげのおっさんが何だか知らねぇけど!俺がここに来た理由は始めからひとつだ!」
そう叫ぶルフィと並走していれば、視界に入ったのは…黒刀を構えたミホークだった。
「ルフィ、避けて!“鷹の目”よ!」
「!?」




Selfish Children

「リイム、何故そこまでして麦わらを逃がす」
「私がそうしたいからよ!」
「ここで死ねば、あやつの元に戻れぬぞ」
「私は死なない…約束、したから」
「本当に…我侭になったものだな」
「海賊なんて、そんなものでしょう?」

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