貴族様と元騎士の距離


昔から貴族は嫌いだった。
騎士団に入ってからも貴族に対する嫌悪感は募る一方だった。

贅沢にかまけて、下町の人間がどれだけ辛い生活を強いられようが、お構い無し。
奴等からすれば自分さえよければ他人が目の前でのたれ死のうが目もくれない。

ずっとそんな連中ばかりを見てきたから、あのお坊っちゃんもそうなのだろうと思っていた。



━━━…俺たちの旅にまた1人同行者が増えた。
俺が嫌悪する貴族のお坊っちゃんだ。
いつの間にか世界を救う旅になっていた俺たちの旅にたまたま会って世界を救う旅をしていると知ったお坊っちゃんは、俺も手伝えることがあるかもしれないから一緒に行かせてくれ、なんて言い出した。

…正直、冗談じゃないと思った。
だが、貴族のお坊っちゃんに俺たちの旅についてこれるはずがないと思ったし、すぐに自分から離脱したいと申し出てくるだろうとも思った。
貴族のお坊っちゃんの気まぐれの旅がいつまで続くか見物だな、なんて気持ちでいた。

…だが1ヶ月経ち、2ヶ月経ってもお坊っちゃんは離脱することはなかった。
それどころか弱音や文句1つ言うこともなかった。

だが、それでも俺はあのお坊っちゃんが貴族だってだけで、距離を取っていた。
話しかけられても「ああ」とか「そうだな」なんて言う気のない返事しか返さなかったし、あのお坊っちゃんも何となくでも俺に距離を取られていることに気付いていたのか、必要最低限のことしか話し掛けてこなくなっていた。



「……この辺で今日は夜営した方がいいな。」



旅の途中、辺りは暗くなり…暗闇の中をこれ以上進むのは危険だと判断して夜営することになった。



「ルーク!一緒に準備しましょう!」
「ルーク、そっち持っててよ!」
「僕も手伝うよ!」
「んと、こうでいいか?」



エステル、リタ、カロルと共に夜営するためのテントをたてるために談笑しながらも準備を進めていくお坊っちゃん。
俺はそれを一瞥したあと、夕飯を作るために食材の入った袋を漁っていた。



「………!!
……みんな、武器を取ってくれ。」



そんな中、ルークは何かの気配を感じ取ったようで警戒した様子で腰にある剣を抜くと、ユーリたちに注意を呼び掛けた。
だが、ユーリたちもすぐに魔物の気配を感じ取って各々が武器を手に取った。

暗闇の中から現れた魔物。
魔物が攻撃をしかけてくるのと同時に戦いの火蓋が切って落とされた。




***



「ちょっと…!何よ…!この数の多さ…!」
「…さすがにおっさん、もうへとへとよ…。」
「全然減ってる気がしないよ…。」
「ったく…!一体どこから沸いて出て来るんだよ!」



魔物と戦いながら、誰もが愚痴や弱音を吐いた。
戦闘が始まってから軽く1時間は経っている。
それなのに魔物は次から次へと現れる。
今までいくつもの死闘を潜り抜けてきたユーリたちもさすがに1時間もぶっ通しで戦い続ければ疲労は重なる一方だった。

それでも、気力だけで魔物を倒し続け…、ようやく最後の一体をユーリが斬り伏せたことで終わりを迎えた。



「…もう…、さすがに動けないわね…。」
「…ここまでの数を相手にしたことは僕もありません…。」
「…もう動けないのじゃ…。」



戦闘が終わり、誰もが息を切らし、ぐったりしていた。



「みんな!まだだ!!」



やっと終わった、と気を抜いていた時だった。
ルークの焦った声が響いたのは。
えっ?と誰もがルークに視線を向けると、そこには今まで襲ってきていた魔物より遥かに大きな魔物が今、まさに飛びかかってきていた。

気を抜いていたことや、先程までの疲労が残っていたこともあって、ユーリたちは咄嗟の反応が遅れてしまった。
大きな魔物はその巨体を活かしてユーリたちを潰して止めをさそうとしているようで、避けられない!と誰もが思った。



「…響け!集え!全てを滅する刃と化せ!
“ロスト・フォン・ドライブ”!!」



誰もが覚悟を決めた時、ルークの声と共に辺りは強いエネルギーと光に包まれた。

…そして、光が消えた頃…、魔物の姿は跡形もなく消え去っていた。



「…ッ!ルーク…!!」



状況の把握が出来ず、誰もが呆然とする中、エステルが青白い顔で荒い呼吸をしたまま倒れているルークを見て、悲痛な声をあげた。
慌ててユーリたちはルークの元に駆け寄った。



「…なんだったんだ?さっきの力は…。」
「…ルーク…。
超振動は体に強い負担がかかるから使えないって…言っていたのにどうして…。」
「…どういうことだ?さっきの力は超振動っていうのか?」



ルークのことを、とても心配そうに見つめながら呟いたエステルの言葉に他の面々はその言葉の意味を問いかけた。



「…ルークは元々…、この世界ではないオールドラントという世界からここ、テルカ・リュミレースに来たみたいなんです。
…ルークの力は第七音素というものを使うらしいのですが…テルカ・リュミレースに第七音素は存在しないから、超振動を使うためにはルークの体内にある音素を使うしかないみたいなんです…。
ですから…超振動は…使えば使うほどルークの命を削る力なんだそうです…。」
『…………。』



エステルから聞かされた話に誰もが言葉を失った。
ルークがテルカ・リュミレースの人間でないという話も武醒魔導器を使わずに戦っている点からも偽りではないのだろうと思った。
だが、命を削る力…という話を聞いて戸惑わずにはいられなかった。



「…どうして、命を削る力なんて…使ったのじゃ…?」
「……ルークは、オールドラントという世界で大きな罪を犯したって言ってました。
そして、大切な人も失ったのだと。
…だから…、自分のこの力で大切な人たちが守れるなら躊躇なんてしないって…言ってました…。」
「………。」



エステルから聞かされた話にユーリはギュッと拳を握りしめた。

罪を犯した、というのはユーリも同じだ。

たくさんの人が苦しんでいるのに、それを悪いこととも思わないラゴウたちを手にかけた自分。
どうしても自分とルークのことを重ねて見てしまう。

嫌いな貴族のお坊っちゃんは、大切な人を守るために命を削ることを知っていても守るためにその力をふるった。

ユーリが毛嫌いする貴族の人間は絶対にそんなことはしない。
だけど、ルークは違っていた。

ユーリたちを守るように力をふるったルークの背中を見て、ユーリは自分で自分のことを殴りたくなった。

一体、今までルークの何を見てきたのだろう?と、後悔せずにはいられなかった。


“貴族だから”
そんな理由でユーリはルーク個人のことを見ようともしなかった。



「……みんな…。」
「ルーク!」
「大丈夫!?」
「無事…か…?」
「バカ!アンタ、他人のことより自分の心配しなさいよ!」
「…いいんだ。
守れる力があるのに戸惑う理由なんて…ないだろ…?」



そう言いながら青白い顔で微笑むルーク。
それを見たユーリは大きく息をはいたあと、ルークの頭をくしゃりと撫でたあと、口を開いた。



「…悪かったな、それと…ありがとな、ルーク。」
「……っ!
…初めて…、ユーリが俺のことルークって呼んでくれた…。」
「…本当に悪かった。
……お前が貴族だってだけで距離を取っていた俺は…最低だな。」
「そんなことない!
いいんだ!ユーリが俺のこと名前で呼んでくれた…それだけで俺、本当に嬉しいんだから!」




そう言ってルークは笑った。
あんなに距離を取っていたのに、明らかに嫌いだと言わんばかりの態度を取っていたのに、嬉しいと言って笑うルークにユーリは敵わないな、と思った。



「…今まではお前のこと、“お坊っちゃん”としか呼んだことなかったからな…。
…俺は今まで妙な意地をはって、お前と距離を取ってきた。
けどな、その超振動って力を二度と使わせるつもりはないからな!
ルークが無茶しないよう、近くで見張らせてもらうつもりだから覚悟しておけよ?」



今までは大きな距離が空いていた2人は、この出来事をきっかけに急速にその距離を縮めていった。


End

※※※

ユリルク企画で書かせていただきました。

貴族ってだけで嫌悪しているユーリがルークのことを認め、大切な存在となる。
もう、ユリルクの醍醐味ですよね!!

私、こういうのホントに好きなんです♪

ちなみに、エステルに話をしていたのは他の人とは違う力のことで悩んでいることを知ったルークが自分がレプリカであることやこの世界の人間じゃないからその気持ちがよく分かって…思わず打ち明けちゃったなんて理由があったりします。

いやー…書いてて本当に楽しかったですっ!
素敵な企画に参加させていただきまして、本当にありがとうございましたっ!

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