おてつだい



「…なに?
俺に依頼だと…?」



アドリビトムに身を寄せた翌日の朝、アッシュはアンジュに呼び出された。
何の用かを問えば、アンジュはアドリビトムにきた依頼の中の1つをアッシュに頼みたいと言った。



「俺は昨日来たばかりだ。
少しは休ませろ!!」
「あらそう。
だったら、アッシュ。
あなたをアドリビトムに置くことはできないわ。
働かない人を置いておけるほどの余裕はうちにはないの。
あんなに小さいルークだって自分にも何か出来ることはないか考えて、頑張ってるのにお兄さんがそれじゃ、ルークが可哀想よ。
それにナタリアは朝早くに何か仕事はないかって自分から聞きにきてくれたのよ?」
「仕事をしないと言ってるわけじゃねェ!
ルークは生まれてから一度も城の外に出たことはない。
だからせめて、ここに慣れるまでは……。
…………………。
…ちょっと待て。
今、何て言った?」
「ナタリアは朝早くに…、」
「違う!
そうじゃねェ!!
ルークは何を頑張ってると言うんだ!?」
「あら?
知らなかったの?
ルークはロックスやクレアにやり方を教わりながら、掃除をしたり食事を作ったりしてるわよ?
今日の朝食はルークが頑張って野菜を切ったみたい。
形はいびつだったけど…、一生懸命さが伝わってこなかった?」
「なッ!?
ルークに刃物を持たせたのか!?
万が一にでも、ケガをしたらどうする!?」
「大丈夫よ。
ロックスとクレアがきちんと見ててくれるから。」
「クソッ!!
朝から姿が見えないとは思っていたが、まさかそんな強制労働を強いられていたとはな…!
何が自由のギルドだ!
強制労働させる低レベルなギルドじゃねぇかっ!
このクズがっ!」
「低レベルなんて聞き捨てならないわね。
いい?強制じゃなくてルークが自分から手伝いたいって言ったのよ?」
「ルーク…。
待ってろ…。」
「アッシュ、聞いてるの?」
「俺がお前を強制労働から救いだしてやる!」
「あ…っ!
ちょっ…アッシュ!!
…まったくもう…。
ルークもあんな過保護な人を兄にもって同情するわ…。」



すごいスピードで食堂へ向かったアッシュにアンジュは困ったように笑った。




***



「ルークッッ!!」
「あっ!
アシュにぃ!!」
「無事か!?」
「…?」
「…どこもケガはしていないようだな…。」
「ケガなんてしてないよ?」
「俺が来たからもう、安心しろ。
もうこんなことはさせない。」
「え?
こんなことって、なに?」
「掃除や料理なんてコイツらにさせればいい。
さあ、行こう。」
「やだっ!」



食堂へ向かい、ルークの手を握り、部屋に戻ろうとしたアッシュ。
それに気付いたルークは慌ててアッシュの手を振り払い、クレアの後ろに隠れた。



「ルーク…。
いいか?こんなことをお前はする必要はない。」
「ダメなの?」
「ダメに決まっているだろう。
帰るぞ。」
「やだっ!
クレねぇやロックシュにおしえてもらうの、すっごくたのしいもん!
みんなが、がんばったなって、おれのことをほめてくれたもん!
なのに、アシュにぃは、なんでダメってゆーの?」
「それは…危ないからに決まってるだろう!」
「あぶなくないもんっ!
クレねぇやロックシュ、やさしいもんっ!
アシュにぃ、いっつも『あれはするな、これはするな』ってダメなことばっか!」
「それは…お前を心配して…。」
「おれだって、おとこのこだもんっ!
がんばれるもんっ!
ダメばっかのアシュにぃなんてキライだッ!!」
「………ッ!」



ベーッと舌を出してアッシュを拒絶するルークにアッシュは灰のように真っ白になった。

2人の会話を見守っていたロックスとクレアもさすがにこれはマズイと思ったのか、クレアはルークと目線を合わせるようにしゃがみ、口を開いた。



「ルーク。
アッシュもあなたが大切だからただ、心配なだけなの。
だからルークが頑張りたい気持ちをきちんと伝えたらきっと分かってくれるわ。」
「だって…。」
「ルークはアッシュのこと嫌い?」



クレアに問いかけられたルークはふるふると首を横に振った。



「アッシュもルークと同じよ。
だから、アッシュに気持ちを伝えれば分かってくれるわ。」
「……ほんと…?
また、ダメっていわれない?」
「言われないわ。
でもね、ただ嫌いって言うだけじゃ伝わらないわ。
ルークが頑張って朝ごはんを作ったのもみんなに誉められることが嬉しかったのも事実かもしれないけど、きっかけは違う気持ちがあったからでしょう?」
「………うん…。」
「じゃあ、アッシュにそれを伝えましょう?」
「……クレねぇ…、てをギュってしててくれる?」
「もちろんよ。」



不安そうな瞳でクレアを見上げるルークにクレアは優しく微笑みかけ、ルークの小さな手を握った。

そしてクレアがルークを優しく諭す中、ロックスはアッシュの元に向かい、気遣わしげに声をかけた。



「アッシュ様。
ルーク様は、頑張ってる姿を見て誉めてほしかっただけなんです。
覚束ない手つきで野菜を切りながら、何回も『アシュにぃ、おいしいっていってくれるかな?』と言いながら必死に頑張っていました。
他の皆さんも初めてにしては上手だからきっと誉めてくれると言ってくれていたので、ルーク様はアッシュ様にダメだと言われたことが悲しかったのだと思います。」
「……ルークが…そんなことを…。」
「アッシュ様もルーク様が心配でたまらないのことは分かります。
ですが、ただ心配するだけでなく、ルーク様の気持ちを尊重することも時には必要だと僕は思います。
僕とクレア様でルーク様がケガをしないよう、細心の注意をはらいます。
どうか、ルーク様が頑張ろうとしていることは認めてあげてください。」
「………。
過保護にするだけが愛情ではないということか…。
………わかった。
ルークがやると言うなら俺も認めてやるべきだ。
だが、ルークも男だ。
やらせるなら、しっかり頼む。
多少のケガなら……、仕方ねェ。」
「アッシュ様…!」



ロックスの話を聞いたアッシュはルークが2人の手伝いをすることを認めた。
アッシュの言葉にロックスは嬉しそうに笑った。



「アシュにぃ…。」
「!
ルーク…。」



ロックスの話に気を取られていたアッシュは名前を呼ばれ、振り返った。
振り返った先にはクレアと手を繋ぎながら不安そうな表情を浮かべるルークがいた。



「アシュにぃ!
おれ、クレねぇや、ロックシュからしらないこと、いっぱいおしえてもらったよ!
うれしかった!
それに、がんばるアシュにぃがよろこんでくれるゴハンつくれるようになりたいっ!
だから…、あの、ね…えっと…うんと…。」
「ルーク。」



途中からしどろもどろになるルークにアッシュはただ名前を呼んだ。
名前を呼ばれたルークはビクッと肩を震わせたあと、アッシュの顔を見つめた。



「俺はお前がやりたいと言うならもう反対はしない。
だが、やると言った以上は途中で投げ出すな。
それが条件だ。」
「……!
アシュにぃ!!
うんっ!がんばるっ!
ありがと、アシュにぃ!!
アシュにぃ、だいしゅきっ!!」



認めてくれたアッシュにルークはパアッと顔を輝かせ、喜びのあまり、アッシュに抱きついた。
それを受け入れたアッシュは小さく笑った。



「あのねっアシュにぃ、キライなんていって…ごめんなさい…。」
「気にするな。
俺が反対をするだけで話を聞かなかったのが悪い。」
「アシュにぃ!!
おれも、がんばるっ!
だから、アシュにぃもがんばってねっ!」



にぱーっと笑いながらルークにそう言われたアッシュはそのあと、アンジュに頼まれた依頼だけでなく、他の依頼もこなしたのだった。




※※※

な、長くなってしまった…。


ただ、ルークは小さくて戦えないので、手伝えることといえば家事手伝いくらいしかなく…。


そして過保護な兄ちゃんはそれを簡単に許すはずもなく…。
許してもらうためのお話として書きました。


次は…ロイドあたりと絡ませたいなぁ…
(`∀´)

閲覧ありがとうございました!

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