―8―
俺にとって、兄ちゃんは憧れのトレーナー。
そう思う理由は俺が兄ちゃんの弟だからじゃない。
兄ちゃんはいつでも優しくて。
強くて。
カッコよくて。
兄ちゃんのポケモンたちはそんな兄ちゃんが大好きだし、慕っているんだってことは見ているだけで分かる。
だから兄ちゃんみたいなポケモントレーナーになりたいって小さい頃から思ってた。
兄ちゃんがマサラタウンに帰ってきて、俺に旅の話を聞かせてくれるあの時間が楽しみで大好きだった。
俺もいつか、ポケモントレーナーとして旅に出て、兄ちゃんみたいにいろんな仲間が出来て、そして一緒に強くなって。
その時に俺が出会った仲間たちを兄ちゃんに見てもらいたい。
話を聞く度にそう思っていた。
だけど、兄ちゃんが有名になればなるほど、すごく遠い存在になっていくように感じて…寂しかった。
どんどん強くなって、有名になっていく兄ちゃん。
ついにチャンピオンリーグも制覇して、兄ちゃんの名前を知らない人なんていないくらいに有名になった。
チャンピオンリーグを制覇したあと、兄ちゃんはテレビの取材を受けていた。
それが放送され、それを見た俺はそのあとから兄ちゃんを避けるようになった。
『チャンピオンリーグ制覇、おめでとうございます!』
『ありがとうございます!』
『今の喜びを誰に伝えたいですか?』
『応援して、励ましてくれた母と…弟に伝えたいです。』
『レッドさんには弟さんがいらっしゃるのですか?』
『はい。
弟もポケモントレーナーとして旅立つのを楽しみにしてるので…、その時は出来る限り、弟を応援したいですね。』
『レッドさんの弟さんなら優秀なポケモントレーナーになりそうですね。』
『とても優しい弟なので…、きっと優しくて強いトレーナーになるんだと信じています』
その放送を見た時…、俺は兄ちゃんの弟として見られるなんて嫌だと思った。
俺は俺のペースでポケモンマスターを目指したかった。
兄ちゃんは兄ちゃんで、
俺は俺。
そう思ってたんだ。
だけど、俺が旅に出た時、誰かに兄ちゃんの話をしたら俺は“レッドの弟”として周りから見られることになるんじゃないか。
そう考えたら嫌で…怖かった。
だから旅を共にしていった仲間たちにも兄ちゃんのことを言わなかった。
それを言ってしまったらみんな、“サトシ”としてではなく、“レッドの弟”としてしか見てくれないんじゃないかって思った。
だから…怖くて言えなかった。
兄ちゃんのことが大好きなのに兄ちゃんのことを隠す俺は最低だ。
兄ちゃんのことが大好き。
大好きなのに、兄ちゃんの存在を隠す俺は矛盾してる。
久しぶりに会った時、びっくりして思わずそっけない態度を取ってしまったあと…、兄ちゃんはとても傷ついた顔をした。
ごめん…。
ごめんなさい兄ちゃん。
兄ちゃんのこと傷つけたかったわけじゃないんだ。
そんなつもりはなくても、俺の態度は兄ちゃんを傷つけた。
だからロケット団にピカチュウとピカが狙われた時、絶対に守ってみせるって思った。
俺はピカチュウのことが大切で、兄ちゃんも俺がピカチュウのことを大切に思うのと同じくらい、ピカのことを大切に思っていることを知ってたから…だからこれ以上兄ちゃんを悲しませることはしたくなくて、ただ必死だった。
だけど…、意識を失う前に見た兄ちゃんの顔はやっぱり悲しそうで…、結局俺は兄ちゃんを悲しませることしか出来ないんだ。
ごめんなさい兄ちゃん…。
俺は兄ちゃんの弟でいる資格はない。
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