鳴門 | ナノ
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94.


さっきから頻繁に疼く左目を通して、オビトの見ているものや声が俺の中にも流れ込んでくる。おそらくお互いの写輪眼が共鳴しているからなのだろう。

「上を見てみろ。月夜の夢の世界へ向かう時が近づいている。大きく開いた地獄の穴を埋めてくれる時がやっと来たのだ!」

待ちどおしいと言わんばかりのオビトの声に脳裏を過ぎるのは戦いの最中で交わしたあるやり取りだ。自身の心は痛みさえ感じないほどの大きな穴が開き、残酷な現実を目の当たりにする度にさらに広がっていく。そんな世界でどうやって穴を埋めるのだと怒声を浴びせてくるあいつの姿を。

(だがな、オビト)

初めは馬鹿にしていても人は人一倍頑張る奴を見ると、自ずと手を差し伸べたくなる。人はいずれ、心の穴はお互いに埋め合うことを知るからだ。そして、その仲間で満ちた心を持つ者は、ナルトは何よりも強くなる。
ナルトとサスケの一撃がぬのぼこの剣を砕いたと同時に新たに流れ込んできたのはオビトが描いたイメージの一つだろうか。あの時、命からがら三人とも里へ戻ってくることが出来たもしもの未来。リンを失っても多くの仲間に支えられ、ともに成長し、やがて火影となり次の世代を温かく見守り育んでいく。そんな悲しくも優しい世界。

「俺と同じ夢を持ってたはずのあんたが火影とは真逆になっちまった! 俺とそっくりだったからこそ、お前が──」
「だからこそ、この世界に絶望するお前を見たかった……いや、俺の選んだ道が間違っていなかったことをもう一度実感したかったんだ」

心のどこかで燻っていた小さな迷いがナルトを前にして次第に大きくなり、いつしか後悔へと変わっていたのだろう。

「お前は何もかも捨てて逃げてるだけじゃねえか!」
「いや、平和を実現出来る俺のやり方は火影以上だ」
「本気で言ってんのか? 本当にそう思ってんのか?」


「険しい道だと分かっていて歩けば、仲間の死体をまたぐだけだ。明確な行き先があり、近道があるなら誰だって楽な方を選ぶ。どちらにしても火影の目指すべき場所は世界の平和だ」
「俺が知りたいのはそんなことじゃねえ。険しい道の歩き方だ!」
「行き着く先が同じだとしてもか?」
「結局、誰かが歩いてみなきゃ険しい道だったかどうかも分かんねえだろうが。痛みを我慢して皆の前を歩く火影は仲間の死体をまたぐようなことは絶対にしねえ! 火影になるのに近道はねえし、なった後の逃げ道なんてねえんだよ!」

現実の世界ではチャクラによる綱引きが行われており、オビトの中から尾獣を引きはがすことに成功したようだった。これでアイツは人柱力じゃなくなり戦う術を失ったことになる。

「……そろそろ行くか」

座標を合わせながら神威を発動させると、思ったとおりの場所に出られたらしく力尽きたように倒れているオビトにまたがり、右手に握りしめたクナイを構える。

「急に出てきてすまないが、かつて同期で友であった俺にこいつのケジメをつけさせてくれ」
「カカシ先生! そいつはもう……」

覚悟を鈍らせるわけにもいかないと、ナルトの制止の声を振り切り顔の横まで持ち上げたクナイを振り下ろそうとした瞬間、急接近してきた気配に右手を掴まれ既のところでクナイの先がピタリと止まった。

「父ちゃん!?」
「ずいぶんと息子がガミガミ説教したみたいだけどそう言うところは母親譲りみたいだね。でも、本当ならそれは君の役目だ。オビトのことを心から理解し、何かを言えるとしたら友だちの君だけだと思うよ。カカシ」

先生の言葉が深く胸に突き刺さり、クナイを握る手に込められていたはずの力が瞬く間に薄れていく。最早、俺にオビトを殺せないと悟ったのか、先生はナルトたちをマダラの元へ向かわせると拘束していた手をそっと解放した。

「医療忍者として君たちを必死に守っていたリンはこんな状態を望んじゃいなかったろうね。でも、そうさせてしまったのは俺の責任だ……リンを守れなくてすまなかった」
「……リンは俺の光だった。彼女を失い、全てが地獄に塗り替えられてしまった。希望などない。マダラに成り代わった後も改めて確信しただけだ。この目をもってしても見えてこない。何も」

オビトの独白は俺の心の内を代弁しているようでもあった。あの時、お互いの立場が逆だったらオビトと同じ道を選んでいたかもしれない。だが。

「俺だってこの世界が地獄だと思ったさ。お前を失ったと思っていたし、リンを失い、挙句には先生やあいつも……」

暗部らしくない暗部と揶揄されたあいつは失ってばかりだった俺にとってようやく見つけた光だった。今度こそ守ると誓ったはずだったのに、里のために賭けたあいつの命は俺の目の前で呆気なく散ってしまった。

「でも、どうにか眼を凝らして見ようとしたんだ。お前がくれた写輪眼と言葉があれば、見える気がしたんだよ」
「それがナルトだってのか。あいつの道が失敗しないと、なぜ言い切れる?」
「確信があるわけじゃないさ。だが、あいつが道を躓きそうなら俺が助ける。俺だけじゃない……夢も現実も諦めないあいつの歩き方は仲間を引き寄せ、躓きそうなら助けたくなる。そのサポートが多ければ多いほどゴールにも近づける」
「この真っ暗な地獄に本当にそんなものがあると……」
「俺たちは同じ眼を持ってるんだ。信じる仲間が集まれば希望も形となって見えてくるかもしれない……そう思わないか? オビト」

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