鳴門 | ナノ
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106.この悲劇を喜劇と呼ぼう


心なしか億劫に感じる瞼を持ち上げるやいなや、頬を伝った雫は私のものじゃない。
泣くくらいこの世界に未練があるのなら、わざわざこの体を返すこともなかったのに。徐々に強さを増す光に溶けていく中、私に向かって手を振った彼女に心内で悪態をつきながら理由もなく空を見上げたところでカカシ先生の傍にあった六道仙人様の気配が揺らいだような気がした。

「どうやら、そろそろ時間のようだ。繋ぎの者よ、お前たちの祖が残したものはただの一部分にすぎない。大切な者とともにある未来を望むのは当然の権利であるはずだ」
「……でも、全てを手元に残すことは出来ません。それなら私は、友に誓った未来を選びたい」

すぐにとはいかないかもしれない。今までと同じようにはいかないかもしれない。でも、また皆で笑い合えるようになる時がきっと来る。
第7班がバラバラになっていくことに深く傷つき大粒の涙で頬を濡らすサクラへ向けた言葉は、何も励ますためだけじゃない。トビさんから人繋ぎと言う特殊な一族について聞かされ、自分がその存在であることを知った私の覚悟であり、友への誓いでもあった。
どうせ死ぬのなら、せめて仙人様の言う大切な者たちが笑い合える未来の礎になりたい。その意志は硬く、これ以上は何を言っても無駄だと悟ったのか仙人様はそうか、と心なしか沈んだ声色でつぶやくと、まるで景色へ溶け込んでいくかのようにゆっくりとその姿を消した。
そしてその直後、彼方で強力なチャクラがぶつかるのを感じ、二人の戦いによって巻き起こった衝撃がここまで届いてくる。同時に私の足元にはいくつかの赤い染みが出来上がった。

「! お前……」

拭っても一向に止まる気配のないそれは私の鼻から垂れる血だった。新たに負傷したわけでもないのに流れるそれの意味を正しく理解し声に出したトビさんだけでなく、カカシ先生まで動揺しているだろうことが背中へ向けられる視線で分かる。
トビさんほど事情を把握していなくても人繋ぎは時代を跨ぐことが出来ないと説明してあるし、彼の様子から私の身に良くないことが起こっていることくらいは察しがついているのだろう。けれど、その疑問を解消するよりも先に小さな呻き声が上がり、先生の意識はサクラへと向けられた。

「サクラ、目が覚めたか」
「先生……もう、夕方? はっ! サスケくんとナルトは!?」
「……恐らく、決着をつけるために二人は今、最後の闘いをしている」
「そんな……っ、なら、私たちも早く行かないと! 二人はどこに!?」
「終末の谷だと思うよ。初代火影様とうちはマダラが、ナルトとサスケが袂を分かった場所……インドラとアシュラの因縁の場所だからね」
「なまえ? って、血が……!?」
「ああ、さっきまで私の見た目が変わっていたでしょ? これはその副作用みたいなもの。少し休めば大丈夫だから……それより、行かなくて良いの?」

私の言葉をどこまで信じたのか定かでないけれど、二人の元へ駆けつけることを優先することに決めたらしい。何せ、ナルトはともかくサスケは本気でナルトを手にかけようとしているのだから。
それはカカシ先生も同じのようで、何か言いたそう表情を浮かべていたものの、サクラの肩を借りながら二人は終末の谷へと向かったのだった。

「──お前は行かなくて良かったのか?」
「どちらにしろ、無限月読を解術するためにここへ戻って来ますから」

だからわざわざついて行く気にならなかった。それに、平気なふうを装ってはいるけれど、正直なところ立っているだけで精一杯なのだ。鼻血を流し始めた辺りから、徐々に血の気が引いていっている。
やがて視界までもがぼやけ始めたころ、一際強大なチャクラが衝突したのを最後に辺りに静けさが戻り、自然と口角が上がった。

「どうやら、決着がついたみたいですね」

私の言葉を後押しするかのように神樹のつるに巻き取られていた人たちも解方されていく。

「……逝くのか?」
「はい」

こちらへ戻ってくる四人の姿も見えた。

「なまえ! 良かった。無事だったんだな」
「なまえ、すまなかった。俺はお前まで手にかけようと……」
「ううん。二人が生きて戻ってきてくれただけで十分だから」

ふらつく足に鞭打ち、数歩先に降り立った二人の元へと歩み寄ると合わせるように膝をつく。けれどそれは一瞬で、激闘の末片腕を失ったらしい二人を労うように軽く肩に触れた後、すぐさま立ち上がり、再び距離を開けた。

「二人とも、本当にありがとう。これで私たちもようやく役目を終えることが出来る。せめて、この戦争で皆が負った傷を一つでも多く持って逝くよ」

巳の印を結び、そして唱える。

「人繋ぎの術」

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