脱色 | ナノ
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05

窓辺でうたた寝

カウンターに乗せられた数種類のお弁当や飲みもの、お菓子を順番にレジに通していく。最後にチューインガムのバーコードをスキャンし、総額を伝えながら顔を上げたところでニィッと綺麗に生え揃った白い歯を見せる金色と目が合った。

「真子さん!」
「よぉ、久しぶりやな。バイト、そろそろ上がりやろ? 外で待っとるから一緒に帰ろうや」

言うやいなや真子さんは返事を聞く前にぴったりのお金をカルトンに置くと、パンパンに膨らんだ袋をぶら下げてさっさと出て行ってしまった。
それから20分も経たないくらい後のこと。同僚と挨拶を交わしながらバイトから上がりコンビニを出ると、さっき顔を合わせたばかりの真子さんがひらひらと手を振りながらこちらへ向かってくる。

「おつかれさん」

目と鼻の先で一度足を止めた真子さんは送ったるわ、と私の肩を軽く叩くと、今度は私を追い越すように再び歩き出した。
そう言えば真子さんも金髪だ、と敢えて歩調を緩めてくれた彼の隣を歩きながら、ふとそんなことを考える。ただ、真子さんの金はいくらか濃い色をしていて。例えるなら真子さんの金は太陽で、あの人の金は日だまりだろうか……なんて。

「なーんやさっきからえらい熱い視線を感じんのやけど? 俺の顔に何かついとるか? それとも、いよいよ俺に惚れよったか」
「えっ? あ……いや。そう言えば真子さんも金髪だったなぁと思って」
「……冗談やんか。そないバッサリ切られると流石に傷つくわ……って、ちょお待て! 今、『も』って言うたか!?」

半歩にも満たないほどの距離で足を止めたかと思うと勢いよく振り向いた真子さんは、なぜかひどく焦った様子で私の両肩を掴み。

「あかん! あかんで、なまえちゃん! 確かになまえちゃんくらいの年ごろならちょっと危ない奴に惹かれるもんやけど、そんなん一時の気の迷いや! 俺は絶対認めへんからな!?」
「ちょ……、ちょっと真子さん。落ち着いてください。何か勘違いしてますって!」

前提から間違えているし、もし真子さんの思い浮かべたとおりのことだったとしても金髪と言うだけで危ない人だと決めつけてしまったら自分もその枠に当てはまってしまうのでは。本人の頭からはすっかり抜け落ちていそうだけれど。
とにかく、ガクガクと前後に揺さぶられながらも虚や死神の部分は省きつつ、具合が悪くなって動けなくなってしまったところを助けてくれた親切な人がいたのだとどうにか説明すると、真子さんはようやく落ち着きを取り戻したようでガリガリと頭を掻きながら深いため息をついた。

「ハァ……そうならそうと早よ言わんかい。てっきり、なまえちゃんが火遊びにはまってしもうたんかと……」
「真子さんは想像力豊かですねぇ。でも、心配してくれてありがとうございます」
「まあ、ええわ。それより、今日も一人なんか?」
「まあ、相変わらず忙しいみたいで。でも、先生がいない日もそれなりに楽しくやってるから大丈夫ですよ? そうだ! 真子さん、ぶら霊って知ってますか?」
「ぶら霊? ああ、あのインチキくさい心霊番組か」
「インチキくさいって……別にいいですけど」

保護者のような人たちはいるけれど、彼らの仕事の都合で普段は一人暮らしをしていることを知っている真子さんはこんなふうに何かと気にかけてくれる。
もちろんありがたいことではあるけれど、先生が頻繁に顔を出せないことに負い目を感じていることを知っているから誰かを相手に寂しさを口にしたくない。この場にいない先生を責めているような気がしてしまうから。
そんな思いもあって半ば強引に別の話題を振ると、察したのかそうでないのか定かでないが真子さんはあっさり乗ってくれた。

「それで、今度そのぶら霊が空座町に来るみたいで。私も友だちと見にいくんですよ」

ぶらり霊場・突撃の旅、通称・ぶら霊は国民の四人に一人が見るくらいの超人気番組なだけあって放送の翌日はクラスでもその話題で持ち切りだった。
正直なところ私もどちらかと言えば真子さん寄りなのだけれど、友だちが誘ってくれると言うのなら話は別だ。

「おーおー、ずいぶん浮かれとんなぁ……って、ん? せやけど、あれの放送って確か夜やろ。高校生だけでそない時間に出歩いとってええんか?」
「うーん、そこを突かれちゃう返答にも困っちゃうんですけどね。今回は特例ってことで見逃して欲しいなぁ……なんて思ったり」
「ハァ……しゃあないな。その代わりいつも以上に気つけるんやで? それで目瞑っといたるわ」

ぽふりと真子さんの手が頭に乗せられ、柔らかく跳ねる。金髪と言う特徴に加えてこう言う仕草もあの人と近い部分があるけれど、心配してくれる時の言い方やまとう雰囲気は先生とどこか似ているような気がした。

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