脱色 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

09

廻廊へようこそ

「──あんたら貴族はどうだか知らねーが、この程度でビビッて逃げるような腰ぬけはいねえんだよ。志波家の男の中にはな!」
「志波……そうか。貴様、志波家の者か。ならば、手を抜いてすまなかった。貴様をここから生かしては帰すまい」

胸の高さで構えた斬魄刀の刀身が散れ、と言う解号とともに消えた。同時に無数の光が岩鷲くんの周囲を漂っているのが見える。

「叶えろ・造り子!」

その正体を確かめなくても、危険だと言うことは火を見るより明らかだ。こちらもすぐさま斬魄刀を解放し、甲高い啼き声とともに上空から降らせた紅い斬撃で無数の光を一つ残らず撃ち落とした。そのまま二人の間に勢いよく降り立つ。

「遅くなってごめんね。あの人の相手は私がする……朽木さんたちのこと頼んだよ。岩鷲くん」
「なっ、何言ってんだよ! 相手は四大貴族の一つ、朽木家の歴代最強と言われるような奴だぞ! 嬢ちゃんが出たところでどうにかなるわけ……」
「大丈夫。私、こう見えて結構強いから」

岩鷲くんとの会話もそこそこに彼らを背に庇うようにして斬魄刀を構え直した。
京楽さんが足を止めた先で感じ取ることが出来た霊圧は、全部で三つ。その内の一つは覚えすらなかったけれど、何となく先生のものではないのだろうなと言う確信があった。つまり、もう二度と先生とは会えないわけで。
あの時の京楽さん言葉がジワジワと現実味を帯びてくるにつれて息が上がり、滲んだ視界がゆらゆらと揺れるけれど、今はそんなことに構っている暇なんてない。何せ、私たちがここまで来たのは朽木さんを助け出すためなのだから。

「その姿……貴様、何者だ?」
「──こっちに来る前、ボクが教えたこと覚えてますか?」

まるで自身のそれで威嚇するかのように空気を重苦しくさせるほどの強大な霊圧に対抗するようなタイミングで背後に姿を現した造り子の問いに間髪を入れずに頷いた。

「なら、結構。彼……朽木白哉は間違いなく強敵です。修行の成果を見せる時っスよ」
「答えぬか……いいだろう。この場に横たわる死体が一つ増えるだけだ」

ふと、視界の隅で小さな光を捉えたかと思うと、頬に一筋の赤が走った。その光は、ついさっき岩鷲くんの周囲を漂っていたものと同じ。
刀身が消えるなり出現した光、刀身のない柄を振るうのに合わせた動き。つまり、その光の一つ一つが彼の意思を通した刃なのだろう。
夜一さん曰く白の羽織は隊長の証で、その実力は席官と大きな隔たりがあるのだとか。きっと、一度でも囲まれれば私の力ではどうにもならない。

「破道の三十三・蒼火墜!」

ならば先手必勝とばかりに放った鬼道を目眩ましに瞬歩で距離を詰め、その勢いのまま斬魄刀を振り下ろせば、相手も瞬時に刀身を戻しお互いの間に無数の火花が散った。

「──あなたの霊圧知覚は他の追随を許さない。戦いの中で集中力が上がり、相手の四肢を流れる霊圧の動きすらも捉えられるようになったあなたの目なら見えるはずです。相手の次の一手が」

つばぜり合いの最中、不意に相手の両足が光をまとった。それは恐らく瞬歩の予備動作で、使われて一気に不利になる前に飛び退きながら紅い斬撃を放つ。
それを半歩の動きで躱す瞬間に合わせて踏み込めば、再びお互いの斬魄刀がぶつかり合う。

「──けれど、あなたの最大の強みは霊圧の流れから相手の動きを読むことなんかじゃない」
「戦い方まで同じとは……それで接近戦に持ち込めば勝機があるとでも思ったか? 笑わせる」

つばぜり合いの最中、相手の左手が柄を離れ向けられた人差し指と中指が一際強い光をまとった。

「破道の四・白雷──!?」

今度は鬼道の予備動作だと悟ったと同時に相手の左腕に意識を集中させる。そしてそこから繋がる糸を手繰り寄せるイメージを描いた次の瞬間、こちらの右胸から肩にかけてを貫くつもりだっただろう電撃は死覇装の袖を焦がすだけに留まり、代わりに背後の建物の壁の一部を削った。

「そう、流れを見極めることで相手の霊圧に同調し干渉することこそが最大の強み──何一つ知らないところから二週間でここまで出来るようになれば、上出来っスね」
「並外れた霊圧知覚による動きの先読みと同調。貴様、やはり……ならばこちらも手を抜くわけにはいくまい」

言うやいなや刀身が再び無数の光へと姿を変えた。
この展開を全く予想していなかったわけでもないけれど、大した警戒をしていなかったことも確かで。まさかつばぜり合いの最中にそこまで大胆な行動には出ないだろうと、どこかで甘く考えていたのだ。けれど相手は隊長格で、いくら意表を突いたところで実力の差がはっきりしているのならわざわざ守りに入る必要もない。

「まずい……逃げろ、みょうじ! 二度も防げるほど兄様の千本桜は甘くないぞ!」
「──千本桜の能力は、千を超える刃による全方位攻撃。一度攻められれば、動きの先読みや同調による干渉は通用しません」
「うん……でも、自分一人だけ逃げるわけにいかないよ」

後ろには朽木さんや岩鷲くんがいる。完全に防ぐことは難しくても、せめて彼女たちに刃が届かないように。

「……迎え撃つよ。造り子、あなたも力を貸して」
「もちろん。あなたが望むならいくらでも」

造り子の右手が斬魄刀の柄に添えられると、刀身が甲高く啼き始めた。刀身のない柄を振り上げる相手に対抗するべくこちらも斬魄刀を振り上げ、紅い斬撃を放とうとした瞬間。

「ふうっ! それくらいにしといたらどうだい? 朽木隊長」

猛スピードで近づいてきたかと思うと、突然割って入ってきたその人が相手の手首を掴んで止めた。

[ PREV | BACK | NEXT ]