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08

廻廊へようこそ

「先ほど、東仙隊長と狛村隊長もいらっしゃいました。お二人にもお伝えしましたが、聖壁から下ろされた時には既に息はなく……何者のかの目を欺くために義骸を使った可能性も考慮に入れてあらゆる方面から調べましたが、藍染隊長の死を固めるだけの結果に終わりました」

卯ノ花隊長の説明に耳を傾けながら、密かに病室の外へと意識を向けた。
自らの目で確認することは叶わないものの、あの子の霊圧知覚ならベッドに横たわる惣右介くんの遺体が本物かどうか見極めることなど、息をするのと等しく容易いことだろう。

「ところで、京楽隊長。珍しいですね……いつも被っている笠はどうされたのですか?」
「うーん……実はここへ来る前に例の旅禍と一戦交えてね。首をくれてやるより、いいだろうと思ってさ」

流石は卯ノ花隊長、なかなか痛いところを突いてくる。とは言え、返し自体が全くの嘘と言うわけでもなく、旅禍にくれてやったと言う点に関してはあながち間違いでもなかった。

──……いくら死覇装を着てても、普段見慣れない子がボクたちと一緒にいたら流石に不審がられるからね……これを被ってるといいよ

七緒ちゃんが用意した死覇装に着替え、益々懐かしい姿へと近づいたなまえちゃんの頭に愛用の編笠を乗せた。

──……誰か来ても顔を見せちゃいけないよ。声をかけられたらこう答えなさい。『京楽隊長にここで待ってるよう言われたんです』……いいね?

目と鼻の先には四番隊の救護詰所があり、万が一にも当時を知る者になまえちゃんの顔を見られたら面倒だ。
一方で八番隊の所属だと分かれば、それ以上深入りしようとする者もそうそういないだろう。新入りと思われる女の子が自隊の隊長の愛用品を託され、その帰りを待っているとなればなおさら。

「……そうでしたか。京楽隊長がそこまで苦戦する相手なら、やはりこの戦い一筋縄ではいかないようですね……そろそろご自身の隊の指揮へお戻りください。私も直に前線へと参じましょう」

正直なところ、彼女がどこまでボクの言い分を信じたのか分からない。
油断したと呆れつつも七緒ちゃんがいる手前、小言を控えているのか。それとも、端から信じてすらいないのか。どちらにしろ、目を瞑ってくれるのならそれに甘えない手はない。
卯ノ花隊長に追い出された態を装い、早々に病室を後にした。



「一体、何を考えてるんですか。卯ノ花隊長にまで白々しい嘘をついて……第一、彼女がみょうじなまえ本人だと決まったわけでもないのに」
「おや? なまえちゃんと面識があったのかい?」
「……矢胴丸前副隊長との読書の折に何度か」
「ああ、そう言えばあの子も何度か参加してたね……なら、七緒ちゃんも分かってるでしょ。他はともかく、あの子に限っては他人の空似なんてあり得ないって」

旅禍の少年にそれなりの深手を負わせたのはあの子の逃げ道を塞ぐことが狙いだったが、それとは別に本人かどうか確かめるためでもあった。霊圧知覚が人一倍優れているなまえちゃんなら周囲に高濃度の霊圧が充満していようが、今にも消え入りそうなくらい微かなものだろうが、目的の霊圧を探ることなど造作もないだろうと。
事実あの子にはそれが出来たし、惣右介くんの生死を確かめるに当たりボクの提案を当然のごとく受け入れていたことからも、あの子がみょうじなまえ本人であることは間違いないのだ。

「そんな顔しなさんな。詳しいことはこれから本人に聞けば──……やっぱり大人しく待ってるようなタマじゃないか」

どこか悔しげな表情を浮かべつつ口を噤んだ七緒ちゃんを伴い、救護詰所から少しばかり離れた待ち合わせ場所まで戻って来たものの、そこになまえちゃんの姿はなく。
ふと、懺罪宮の方から朽木隊長の霊圧を感じた。大方、旅禍の誰かと衝突したのだろう。
それにしても、隊長格まで動き出す中、懺罪宮までたどり着くとは。さっきの彼と言い、極囚を救い出すためにわざわざ尸魂界へ乗り込んでくるだけのことはある。

「七緒ちゃん、ボクたちも行こうか」
「……一応聞きますが、どちらへ?」
「懺罪宮さ。きっとなまえちゃんも向かってるだろうからね」

あの子のことだから、朽木隊長と戦っている相手の霊圧まで正確に捉えたに違いない。惣右介くんのことが済んだ今、ボクの言うことを聞く理由もなくなり、窮地に立たされた仲間の応援に向かったと考える方が自然だろう。
ボクの記憶が正しければ二人の間にも多少の面識があったはずだが、だからと言って彼が情けをかけるとは思えず、万が一があっては寝覚めが悪い。

「……差し出がましいようですが、仮に彼女が本人だったとしても今は旅禍です。藍染隊長を殺したのも恐らくは旅禍の一味……あまり彼女に肩入れするべきではないかと」
「……うん、そうだね。でも、そうじゃないかもしれない」
「え……?」

百年前、あの子の死に際の行動がボクの中に一滴の染みを残した。

「いや、ただの可能性の話さ。ただ、旅禍の中に犯人がいるかもしれないなら、なおさら死なすべきじゃない。分かるね?」

もしかしたら、あの子だけが知る何かがあったのではないかと。

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