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07

廻廊へようこそ

「──それにしても、最後の一撃がここまでとはね。こいつは、まともにくらったらやばかったかもしれないねぇ……」

文字どおり決死の一撃によって焼かれたそこからは、今もなお白煙が天高く上がり続けている。
ここまでたどり着いた上に、ウチの三席を倒すだけのことはある。全くもって恐れ入る。とは言え、彼の戦いもひとまずここまでだろう。

「チャドくん……ッ」
「おっと」
「……ッ、離して! 破道の──」
「落ち着きなって。彼は死んじゃいないよ……ほら、君なら分かるだろう?」

彼の元へ駆け寄ろうとする少女の前に立ちはだかり、正面から受け止めるようにその華奢な肩に手を置いた瞬間、目の前に翳された手のひらに霊圧が込められていく。
この子からしてみれば大切な仲間を切り捨てたボクは敵以外の何者でもなく、あまり手荒な真似はしたくないがいざとなれば力づくもやむを得ないかと考えていると、どうやらボクの声に耳を貸せるだけの冷静さは残っていたらしい。微かではあるものの彼の霊圧が感じ取れることが分かると、手のひらのそれを霧散させ小さく安堵の息を漏らした。

「……これで、少しはボクと話す気になってくれたかい?」

どこかバツが悪そうに頷く姿が無茶をして四番隊のお世話になるたびに浦原くんにチクチクと諫められる過去の姿と重なり、懐かしさから密かに目を細めた。
己の罪から目を背けたいがために二度と会いたくないとすら思っていたのに、いざ相対してみると喜んでいる自分がいるのだから、どこまで行っても自分本意なのだと自嘲せずにはいられない。

「あの……ありがとうございました。チャドくんのこと殺さないでくれて。でも、どうして……?」
「君の友だちだからね。大切な友だちがボクの所為で死んじゃったら、ボクが何を言っても聞く気にならないでしょ?」

先ほどのことからも分かるように、元々頭の悪い子じゃない。案の定、ボクが疑問に答えつつも言外ににじませた部分まで正しく読み取ったことを確信し、二歩ほど距離を取ってからさらに言葉を続けた。

「三十番台の鬼道を詠唱破棄で撃てるとは大したもんだ。見たところ君も人間のようだけど、一体誰にそれを教わったんだい?」
「……バイト先で知り合った友だち」
「んん?」
「……多分、あなたが知りたいことに答えられるほど私もそこまで知らないと思います。友だちのことも、ずっと普通の人だと思ってたくらいだし……」

ふと、わざわざ余所の隊舎まで足を運んで、死神になって間もない少女を構い倒す彼の姿を思い出した。
例えば、二人の縁が今も切れることなく続いていたとして、碌に戦い方も知らないままこちらへ乗り込もうとするこの子を放って置けずに渋々ながらも力を貸した友人とやらが彼だったら面白い。
そうであれば、今までただの人間として振る舞っていたにも関わらず、素生の一部を明かした理由にも得心がいくと言うものだ。まあ、どれもこれも確証がなければ、そこへ繋がるほどの情報もないに等しいのだが。

「君がそう言うなら仕方ない。それじゃ、もう一つだけ。君は……」
「京楽隊長! 伝令です!」
「どうしたの? 息切らせてらしくない……そう言えば、裏挺隊の子が来てたね。何だい?」
「……藍染隊長が……お亡くなりになられました」
「……えっ……?」

実のところ、次の質問こそが本命だったのだが。七緒ちゃんの慌てようからそれなりに急を要するのだろうし、勿体ぶったツケだと自分を無理やり納得させて先を促せば、告げられた訃報に真っ先に反応を示したのは意外にもなまえちゃんだった。

「死因は斬魄刀による鎖結および魄睡の摘出と心部破壊……事故ではなく殺害です」
「殺害……? 藍染隊長の名前は……まさか藍染惣右介だなんて言いませんよね……?」
「……残念だけど、君が言ったとおりだよ。彼の名前は藍染惣右介……五番隊の隊長だ」
「そ、そんな……! 待ってよ。隊長って強いんでしょ? ねえ……! なのに、何で……ッ、」

なまえちゃんがボクの羽織りを掴んだと同時に動こうとした七緒ちゃんを視線だけで制止する。信じたくないと全身で訴える姿がこの子の最期の姿と重なったからだ。
あの時、ボクたちはかける言葉を間違えたがためにあのような惨劇を生んでしまった。二の舞を踏むわけにはいかない。

「君が惣右介くんとどう言う関係か、今は敢えて聞かない。でも、時にはどんなに残酷でも、それを現実として受け入れなくちゃならないこともあるんだよ」
「……でも、……ッ」
「遅かれ早かれ、それが現実だって言うなら受け入れるしかないんだ……ボクたちと一緒においで。今から惣右介くんに会いに行こう」
「隊長! 何を考えてるんですか!? 旅禍を四番隊に連れていくなんて……」
「いいから。とりあえず救護隊を呼んで、彼のことはどこかの牢へ入れといてもらおう。君もそれでいいね?」

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