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14

窓辺でうたた寝

「いよいよやな……尸魂界へは明日の午前一時に出発するはずや。見送りには行かれへんけど、気つけて行ってくるんやで」
「うん。真子さん、本当にありがとう。それから皆さんにも……」
「ああ、ちゃんと伝えとくから安心し? なまえちゃんも、怪我するなとは言わんから無事に帰ってきいや。約束やで?」
「うん。行ってきます!」



「──そんな! ど……どうしたら……」
「言ったじゃろ? 大切なのは心のありよう。迷わず、恐れず、立ち止まらず、振り返らず、遺していく者たちに想いを馳せず、ただ前に進むのみ。それが出来る奴だけついて来い」
「……何寝呆けたこと言ってんだよ。ここに集まってきた時点で全員、心は決まってんだよ!」
「分かっておるのじゃな? 小僧。負ければ二度とここへは戻れぬぞ」
「勝ちゃいいだけの話だろ!」
「……そのとおり!」
「話はついたみたいっスね。それじゃ、位置についてください。穿界門を開きます」

待って! と。黒崎サン以外も通れるよう通常の穿界門に霊子変換機を組み込んでいることのメリットとお手製であるがゆえのリスクの説明を終え、テッサイと二手に分かれて門の脇に膝をつこうとした瞬間、聞こえてきた声に心臓が嫌な音を立てたような気がした。同時に一筋の汗がこめかみを伝う。
店の座敷へと繋がる長い長い梯子を下ってきたのは。

「なまえ!? お前、何でここに……!」
「私も一緒に行く」
「なっ!? 言ったじゃねえか! 今までの喧嘩とは訳が違う。何が起こるか分からねえ……そんなところにお前を連れていくわけにいかねーって」
「私は勝手について行くんだよ。心配しなくても自分の身は自分で守るし、足手まといになるようなら見捨ててくれたって構わないから」
「けどよ……」

仮に修行をつけて欲しいと頭を下げられたとしても適当な言葉を並べて煙に巻くつもりでいたのだが、彼らのやり取りから察するにアタシへたどり着く前に黒崎サンが釘を刺していたらしい。
そのまま大人しく引き下がったと油断していたのだろう。だが、実際は彼女は自力で別の道を探し、恐らく相応の力をつけて今日この場に現れた。

(ハァ……仕方ないっスね)

拒絶しきれないでいる黒崎サンに代わり、ジリジリと歩み寄りながら仕込み杖から引き抜いた紅姫を間髪を入れずに振り下ろした。

「──どうやら、意思は固いようっスね」

周囲の焦りを多分に含んだ声からも分かるとおり刃に込めた殺意に偽りはなく、彼女にも正しく伝わっていたはずだ。しかし、首の皮に触れる既のところで止まった刃に怖気づくどころか、帽子のつばに隠れるアタシの目を捉えようとする彼女に折れる様子はなく、最早何を言ったところで無駄だと言うことを悟った。

「……ハァ、仕方ないっスね──みょうじサン、尸魂界に行けば命を賭けざるを得ない場面に出くわすこともあるかもしれません」

ならばせめて、黒崎サンやアタシの制止を振り切ってでもあちらへ行くと言うのなら、こちらにも決して譲れない一線と言うものがあるわけで。

「それでも最後まで諦めないと、アタシと約束出来ますか?」
「ここへ来る前に友だちとも約束したんです。必ず帰ってくるって……それに、店長さんが思ってるよりずっと強くなっていると思いますよ? 私」
「……その言葉、信じていいんスね?」

アタシから視線を外すことなくはっきりと頷いたみょうじサンに二度目のため息が零れた。

「分かりました──皆さんも準備はいいですか? 今から穿界門を開きます。開いたと同時に駆け込んでください」

そして言ったとおり、道が繋がったと同時に飛び込んだ彼らの姿が完全に見えなくなった後、淡い期待を抱いて伸ばした手はそれなりの衝撃を伴って呆気なく弾かれた。

「──姿が見えないっちゅうことは、あの子もちゃんと間に合ったようやな」
「平子サン!?」

煙を上げる手のひらを見つめていると、突然現れ真子でええ言うてるやろ、と掴みどころのない相変わらずな態度で歩み寄ってくる平子サンに全てを悟る。

「あなたでしたか。彼女を唆したのは……」
「唆すって……人聞きの悪いやっちゃな。俺はお友だちを助けたいっちゅうなまえちゃんにほんのちょっと力を貸しただけや」

そこで力を貸すのではなく恨みを買う覚悟で突き放すべきだったのではないかと問いつめる資格はアタシにもない。何せ、彼女を止められなかったことについてはアタシも同罪なのだ。

「……勝てますか?」
「俺たちも出来るだけのことはした。後はあの子を信じるしかないわ」
「そうっスか──任せましたよ。黒崎サン」

朽木さんのことも、尸魂界の地に足をつける資格すらないボクの代わりにどうかなまえサンを守ってくださいね。

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