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01

廻廊へようこそ

順調とは言えないもののどうにか断界を抜け、死神の居住区である瀞霊廷への侵入を阻む門番ことジ丹坊さんとの戦いにも勝利しようやく中へ足を踏み入れようとした瞬間、頭が真っ白になった。

「三番隊・隊長……市丸……ギン……ッ!」
「あァ、こらあかん。あかんなぁ……門番は門を開けるためにいてんのとちゃうやろ」

目で追えないほどの速さで駆け抜けた光がジ丹坊さんの左腕を切り落とした。

「おー、片腕でも門を支えられんねや? 流石、尸魂界一の豪傑……けど、やっぱり門番としたら失格や」
「負げた門番が門を開げるのは当だり前のこどだべ!」
「何を言うてんねや? 分かってへんねんな。負けた門番は門なんか開けへんよ。門番が負ける言うのは──」

死ぬ言う意味やぞ、と周囲の空気がどこか重苦しくなったと同時に踏み込んだ一護の大刀と彼が構えた脇差しがぶつかり合った。
一度距離を取った一護は彼を威嚇し、後先考えずに飛び出した一護へ夜一さんが怒号を飛ばし、織姫がさっそくジ丹坊さんの治療に取りかかる。突然訪れた衝撃に固まっていたそれぞれが我にかえったように動き始める中、自分だけが未だに動けないでいた。
日の光を閉じこめてキラキラと輝く銀色の髪、常に笑みを浮かべているかのような印象を受ける細められた目元。そして、はんなりとした関西弁。一護と対峙しているのは私のよく知る人物だったからだ。

「──そうか……君が黒崎一護か」
「! 知ってんのか? 俺のこと」
「何や、やっぱりそうかァ……ほんなら、なおさらここを通すわけにはいかんなあ」
「何する気だよ? そんな離れて。その脇差しでも投げるのか?」
「脇差しやない。これがボクの斬魄刀や──射殺せ・神鎗」

どうしてギンがここにいるのだろう。どうして一護と同じ黒い着物を着ているのだろう。
次から次へと浮かぶ疑問がまるでシャボン玉のようにぱちんっと弾けて消えていく中、鋭く伸びた斬魄刀を自身のそれで咄嗟に受け止めた一護が背後のジ丹坊さんもろとも勢いよく吹き飛ばされた。

「く……黒崎くん!」
「黒崎っ!」
「! しまった! 門が下りる……っ!」
「バイバーイ」

そして一護の安否を気にかける皆を余所に支えを失ったことで容赦なく下りていく門の隙間から呑気に手を振るギンの後を追いかけることも、況してや名前を叫ぶことも出来ないまま、その姿が完全に見えなくなるまで唯々見ていることしか出来なかった。

「黒崎くん! 大丈夫!? 黒崎く……」
「痛ってえッ! ちくしょー何だよ、あのやろー! 危うく怪我するところだったじゃねーか!」
「げ……元気そうだね……って言うか、怪我ないんだ……?」
「無事で何よりじゃ、一護」
「! 夜一さん……悪い。俺の所為で門が……」
「いや、おぬしを責めても始まらぬ。門は再び閉ざされてしまったが、相手が市丸ではおぬしが飛びかからずとも同じ結果じゃったろう。おぬしに怪我がないだけでもよしとせねばな」

混線するラジオのように頭の中がザワザワと落ち着かないけれど、今は一護の無事に安堵することや次の手を考えることの方が先だ。
それらを振り払うかのように頭を振ったところでふと、こちらへ向けられるいくつもの視線に気がついた。

「人だ……」
「何だ、こいつら? 今まで隠れてたのか?」
「何で……?」
「当然じゃ。死神の導きなしに不正に尸魂界へ来た魂魄は旅禍と呼ばれ、尸魂界ではあらゆる災厄の元凶とされる。彼らが儂らを恐れて身を隠すのも道理と言うわけじゃ」
「……敵なのか?」
「さあな。じゃが、こうして姿を見せたと言うことは儂らに対していくらか心を許したと言うこと──……」

どうやら彼らは、夜一さんの読みどおり私たちが自分たちに危害を加えるような存在ではないと判断したから出て来たらしい。何でも、ジ丹坊さんを守るためにギンへ向かって行くような人が悪人であるはずがないのだとか。
そう言うわけで夜一さんが情報収集のために集落の長と話している間、私たちは束の間の休息を取ることになった。

「舜桜、あやめ──双天帰盾・私は拒絶する」

どこか暖かみのある印象を受ける傘が展開され、それに覆われた傷口が少しずつではあるけれど着実に塞がっていく。

「──あれくらい、あなたにだってやろうと思えば出来ますよ」
「! 造り子……?」

完全に切り落とされた状態からでも治せるなんてすごいな。そんな感想を抱きながらジ丹坊さんの治療に取り組む織姫の背中を見つめていると、不意に造り子が姿を現した。

「どう言うこと? 私にも出来るって」
「厳密に言うと、あなたと彼女ではベクトルが異なるんですけどね──見た限りでは彼女の能力は拒絶。一方、あなたの力の根幹にあるのは創造です」
「創造?」
「彼女は零にすることは出来ても、一から作り出すことは出来ません。一方であなたは零にすることは出来ませんが、一から作り出すことは出来ます。そう言うことっスよ」
「ふーん……」

今一つ分からなかったけれど、掘り下げる前に長と話していたはずの夜一さんが全員に召集をかけたことで造り子が消えてしまい、結局有耶無耶になってしまったのだった。

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