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12

窓辺でうたた寝

「死神とやり合うなら、斬魄刀を使いこなすだけじゃ不十分や。ええか? 死神の戦い方は大きく分けて四つ──斬魄刀による斬術、素手による白打、主に補助の役割を担う歩法……そんでもって霊術による鬼道や」

実のところ、その気になれば多少強引にでもごまかすことだって出来たのだ。にも関わらず、早々に手を貸すことを決めたのは、あの子の後ろに懐かしい羽織りを身にまとった友人の姿を見たからだった。
とは言え、、そいつがあくまで友人もとい喜助の姿を借りているだけにすぎないことも、ならば何者なのかと言うことも知っていて、向こうもそれを承知の上で敢えて俺にも見えるような形で姿を現したのだろう。
そこまで察しがついてしまえば適当な言葉を並べて煙に巻くよりも、さっさと認めて力を貸すことこそが最善だと判断するしかなかった。

「予定が大きく狂わん限り、そのお友だちとやらが尸魂界に向けて出発するのは大体二週間後……つまり、なまえちゃんがせなあかんのはこれから二週間で死神と戦えるだけの力をつけることや」
「……、うん」
「まぁ、そない不安そうな顔せんでも、二週間で何もかも完璧にこなせなんて無茶よう言わんわ。斬術に、基本的な歩法と鬼道……なまえちゃんが約束どおり無事に帰って来られるよう鍛えたるから安心せぇ」
「真子さん……、よろしくお願いします!」
「……いい返事や」

とは言え、百聞は一見に如かず。口であれやこれやと説明するよりさっさと実践を通して見せた方がいいだろうと、アジトへ招待してから早一週間。

「一々ビビんな言うてるやろ! 生身で戦ってんのやから一発でもくらったら終いやぞ。避けるなり受け止めるなり反撃するなり、さっさとせんかい!」
「……ッ、破道の三十一・赤火砲!」

なまえの手のひらから放たれた火球が目の前で弾け、ひよ里の視界を奪った。

「チッ……甘いわ、アホ!」
「……ぅッ、造り子!」

その間に瞬歩で距離を詰めたなまえの斬撃を難なく躱すと、お返し言わんばかりにひよ里も斬魄刀を振るう。すると今度は、それを一歩下がることでどうにか躱したなまえが振るった斬魄刀の鋒から、やたらと見覚えのある紅い斬撃が甲高い啼き声を上げながら放たれた。
三十番台の鬼道に加えて瞬歩まで。まるでカラカラに干からびたスポンジに一滴の雫を落とすかのごとく、教えた分だけ吸収していくのはやはり下地となっている魂魄の影響もあるのだろうか。
何にしても当初の計画を大幅に短縮し、実践により近い形での修行へ移ることが出来たのはかなり大きい。

「──あの子のこと、ほんまに行かせるつもりでおんの?」
「……何や、リサか」

ふと、眉間にしわを寄せ分かりやすく不機嫌そうな表情を浮かべるリサが隣に腰を下ろした。

「死神から遠ざけるために私らにすら会ってたの黙っとったくせに……真子やって行かせたくないのが本音なんやないの?」
「……どうせ止めらへんのなら、目の届くところで出来る限り力をつけさせて送り出した方がよっぽどマシやわ」

俺の答えに何と返そうとしたのか、再び口を開いたリサだったが、その声は眼下で突然起こった衝撃によって遮られた。

「鬼道を撃つにも刀を振るにも、一つ一つの動作が大きすぎるわ。ハゲ! せやから距離詰められた途端、対処出来なくなんねん!」

一際派手な衝撃に土煙が巻き上がり、徐々に晴れていくその隙間からすっかり脱力したなまえの姿が見えた。

「……、なまえ……!」

あの様子だと大なり小なり怪我をしているかもしれない。真っ先に飛び降りたリサを先頭に拳西やハッチがあの子の元へと駆け寄っていく。
終始ひよ里の手厳しい指摘が目立つが、仮面や斬魄刀を解放していないとは言え俺たちを相手にそれなりに戦いの形を取れていることについては素直に褒めるべきだろう。

「……でもまあ、今日はここまでやな」

あの子が尸魂界へ行って無事に戻って来られるかどうかは、この二週間にかかっていると言っても過言ではない。残り一週間で俺たちはどこまであの子を強くしてやれるだろうか。
そんなことを考えながら、俺もリサに続くようになまえの下を目指して飛び降りた。

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