脱色 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

11

窓辺でうたた寝

「さてと、連絡事項はこんなもんかなぁ……そんじゃあんたたち、9月まで死ぬなよ! 以上、解散!」

皆が朽木さんの記憶を失くしても私たちの世界は、僅かな違和感さえもなく正しく回っている。それは彼女が死神で、文字どおり別世界の住人だからだろうか。
恐らくこのまま人一人消えたことに見て見ぬ振りをしたところで誰に責められるわけでもなく、桃原くんのような別の記憶に上書きされて、やがて埋もれていくのだろう。自分からわざわざ危ない橋を渡る必要はない。頭では分かっているののに、そうやって割り切ることを人並みの良心が許さなかった。

「──心配しなくても、ルキアは俺が必ず助け出す! だから、お前はこっちで待ってろ」

他校の生徒を相手にした今までのような喧嘩とは訳が違う。命を懸けざるを得ない場面もあるだろう。そんな危険な場所にお前を連れて行くわけにはいかない。

「あららァ、行っちゃいましたねぇ……でも、これであなたも心が決まったみたいっスね」
「……うん、」

いつの間にか隣に姿を現した造り子の問いに、言うやいなやみるみる遠ざかっていく一護の背中を見つめたまま頷いた。
死神の力を分け与える行為は実は重罪に当たるらしく、罪を犯した朽木さんは連れ戻され、一護も一度は負けたものの彼女の処刑を阻止するべく十分な力をつけて尸魂界へ乗り込むつもりでいるのだとか。他校の生徒との喧嘩の時ですら傍にいることにあまりいい顔をしない一護のことだから、それなら自分もついて行くと申し出た途端に距離を置こうとすることは何となく察しがついていた。

「……ねぇ、造り子。もう一度力を貸してくれる?」
「一度と言わず、何度でもお貸ししますよ。あなたがそれを望むならね」

私も自分なりのやり方で力をつけて、その時に備えるだけだ。すると造り子はへらりと表情を緩め、一つの助言をくれた。



「──お? 何や、なまえちゃんやんか。バイト先以外で会うなんて珍しいな」

あなたが死神と渡り合うためには、ボクの力をさらに引き出せるようにひたすら経験を積むしかありません。ちょうど、そのためにうってつけの相手がいますよ。
バイト先の常連としか思っていなかった真子さんがまさか、と半信半疑だったものの、強く意識して霊圧を探ってみると微かにだがその気配を感じ取ることが出来る。死神との戦い方を教わるなら、同じく死神に。ようやく彼の意図を理解したと同時に、急激に高まっていく緊張感に気づかない振りをしつつ意を決して口を開いた。

「……真子さん。今日は真子さんにお願いがあって来たの」
「お願い? 何やねん、そない改まって」
「斬魄刀を使った戦い方を教えて欲しいの」

途端、普段は軽口を叩き飄々としている真子さんが眉間にしわを寄せ、怪訝な表情を浮かべた。

「友だちが尸魂界に連れ戻されて、このままだと処刑されるかもしれない。それを止めようとしている人がいて、私も力になりたいけど、今のままじゃ足手まといにしかならない……だからせめて、自分の身は自分で守れるくらい強くなりたいの」
「……話をぶった切るようやけど、死神とか処刑とか俺には何のことかサッパリ──いや、そこまで知っとるなら今さら惚けたって無駄やな」

とは言え、ある程度予想していた反応だから大人しく引き下がるつもりはなく。畳みかけるようにさらに言葉を続けると、真子さんは何でよりによって俺やねん、とガリガリと頭をかきながらため息をついた後、真剣な顔つきでこちらを見据えた。

「ほな、一つだけ条件出させてもらうで?」
「条件?」
「あっちで何があっても、必ず帰ってくること。それが約束出来るっちゅうなら自分に死神の戦い方、教えたるわ」

[ PREV | BACK | NEXT ]