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02

廻廊へようこそ

「──オレの名前は志波空鶴……流魂街一の花火師だぜ!」

門から入れないのなら別の方法で。夜一さんを先頭に足を運んだのは、巨大な煙突が特徴的な一軒のお屋敷だった。
夜一さんの古くからの友人である空鶴さん曰く、瀞霊廷は上空から地中に至るまで殺気石と言う特殊な鉱石の壁に囲まれていて、ただ飛んでいくだけでは私たちの体は塵になってしまうのだとか。

「そこで、こいつの出番だ!」

空鶴さんが放った水晶玉のようなものが緩やかな弧を描いて一護の手に収まった。

「……何だ、これ?」
「霊珠核だ。そいつに手のひらを押し当てて、霊力を込めてみろ」

言われたとおり、一護は水晶玉を持った手に力を込めているみたいだが。

「……って、霊力を込めるってどうやるんだ?」
「あァ!? 何言ってんだ。そんなもん、こうやって鬼道を撃つ時みたいに手先に力を込めりゃいいだけじゃねえか! 死神なら鬼道くらい使えんだろ?」
「それが……こやつは先刻話したとおりの俄死神でな。鬼道が全く使えんのじゃ」
「何だとォ!? ……チッ、しょうがねーな。そんじゃお前、代わりにやってみろ」
「えっ……私ですか?」

嫌とは言わせないとばかりに彼女の弟こと岩鷲くんを経由して例の水晶玉が両手へと押しつけられた。ごく自然に渡されたけれど本当に出来るのか、多少なりとも不安はあるが鬼道を撃つ時の感覚と同じだと言うのなら自分にも出来るはず。
真子さんたちとの修行を思い出しながら水晶玉を持つ両手に力を込めると、全身を包み込むように分厚いガラスの壁が出現した。

「な……何だ!?」
「そいつは、オレの開発した特殊硬化霊子隔壁発生装置だ。お前ら全員でこの球体に霊力を込めれば、一時的に瀞霊廷の障壁を突き破るぐらいの砲弾が作れる! そいつをこの花鶴大砲で打ち上げて、一気に内部へ突入するって寸法だ。多少荒いやり方だが、他に方法はねえ! 以上だ。何か質問のある奴は?」

門を潜る以外の方法が花火師に大砲で打ち上げてもらうことだなんて誰一人想像すらしていなかった所為か、ひたすら圧倒されている間に質問も異論もないと判断したらしい空鶴さんはおつきの二人組を呼びつけるなり私たちを地下の練武場へと運び込んだのだった。



「──やけに浮かない顔をしておるな」
「……夜一さん……」

霊珠核の説明の段階で砲弾を展開出来たこともあり練習を早々に切り上げ、地上へと戻って来ていた。
外はいつの間にか日が沈み始めていて橙から紫、やがて黒へとグラデーションを作り出す空をぼんやり眺めていると、霊力集中の練習を始めたくらいから姿が見えなくなっていた夜一さんがふらりと現れ、隣にすとんと腰を下ろした。

「何じゃ、先の一件で早くも怖じ気づきおったか?」
「そんなことないよ! ただ、ちょっと気になったことがあっただけ……」
「ほう?」
「うん──あの、例え話くらいに聞いてくれたらいいんだけど……その人が死神なのに霊圧を感じないことってあったりするの?」
「フム。まあ、全くないと言うわけではないが……霊圧にはそれぞれ固有の波長があるとされており、それに寸分の狂いもなく重ねることが出来れば不可能と言うわけでもないじゃろうが……それには並外れた霊圧知覚とコントロールが要求される。最早、努力でどうこうなる類いのものではないじゃろうな」
「……そっか、」

あの時、ジ丹坊さんはギンを隊長と呼んでいた。彼らの間にも階級制度が存在するのなら、ギンが人の上に立てるだけの力を持った死神と言うことになる。
そして、それは恐らく先生や要に対しても同じことが言えるわけで。

「……これは霊術院で知識の一つとして学ぶくらいで、実戦で使われることなどないに等しいものじゃ。おぬし、なぜこんなものを気にしておる?」
「何となくだもん、理由なんてないよ。最初に言ったでしょ? 例え話くらいに聞いてくれたらいいって」

ギンがここにいて、後の二人がいないとか、全くの無関係だなんて最初から思っていない。そうだとしたら確かめなくてはならない。
死神であるはずの先生がどうして正体を隠してまで私に関わろうとしたのか、引き取ってくれたのか。何よりあの日、一緒に暮らそうと言ってくれたのかを。

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