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窓辺でうたた寝

「──ねぇねぇ、朽木さんて黒崎のこと好きなの?」

誰が誰に告白したとか、誰と誰がつき合い始めたとか、はたまた別れたとか。
どこからともなく流れてくる噂に浮き足立ってことの真相を確かめたがる人からすれば、男女が四六時中一緒にいたら恰好の的になるのも当然と言えば当然なわけで。しかも、それが色んな意味で有名な一護と転校してきたばかりの朽木さんともなればなおさら。実際は、一護が死神の仕事を手伝っているから行動をともにしていることが多いのだけれど。
思わずジュースを吹き出した朽木さんに、事情を知る自分は苦笑するしかなかった。

「……って言うか、ぶっちゃけ黒崎とどう言う関係?」
「どうって……お友……」
「ちょっとマハナ! その聞き方ストレートすぎるよ!」
「何言ってんの! あんたたちが気にしてるくせに聞けないでいるから、代わりに聞いてんでしょ! で、結局のところどうなのよ? 朽木さん、転校して来てからしょっちゅう黒崎と一緒にいるけど、黒崎のことどうこうってわけじゃないの?」
「……黒崎くんは、ただのお友だちですわ!」
「……えっ、マジで? 恋愛感情ないの?」
「ええ」
「これっぽっちも……?」
「ええ! 小指の甘皮ほどもありませんわ!」

こうして校舎裏の木陰で輪になって腰を下ろし、お弁当をつつきながら話に花を咲かせ、時には揃って笑い声を上げる。
虚の大群や大虚が空座町に襲来した昨日のことがまるで嘘のようにこの場に流れる空気はいつもと変わらない。どこまで行っても穏やかな時間に思わないところが全くないと言うわけでもないけれど、平和であることに越したことはない。
お昼休みに皆で集まって、少しずれた恋バナで盛り上がった挙句、暴走した千鶴にたつきが少しばかり過激なツッコミを入れて、そこへ誰からともなく混ざって気がつくと皆で声に出して笑い合って。いつか朽木さんが帰ってしまうまで、いや、朽木さんが帰ってしまってもこんな日常が卒業までずっと続けばいい。



「──おかえり、なまえ」
「! 要さん……?」

お昼休みに開かれた女子会は本鈴が鳴るギリギリまで続き、微かに残る余韻にどこかソワソワしつつも午後の授業を終えて帰路につく。
そのまま慣れた手つきで鍵穴を回し、玄関を跨いだところで中から聞こえた声に思わず足が止まった。

「ああ、昨日は来れなくてすまなかった。ようやく時間が取れたから寄ったんだが……迷惑だったかな?」
「そんなことないよ! それに来てくれただけで十分だし、嬉しい」

むしろ要さんの都合がつかなくて良かった。昨日は虚の一件もあったし、一護の霊圧が安定したのを見届けるなり気を失ってしまったらしい私を誰が自宅まで運んでくれたのか定かでないが、万が一そんな場面に出くわしでもしたら。要さんのことだから少々大袈裟なくらい慌てふためいて、心配のあまり多少の無理を押してでも頻繁に顔を出そうとさえするかもしれない。
先生やギンに対しても言えることだけれど、余計な心配はかけたくないのだ。

「そうだ! あのね、要さん。期末考査の結果が出たの。ほら!」

要さんのどこかばつの悪そうな顔を敢えてハツラツとした声で躱し、順位表の控えを差し出した。元々それが目的の一つと言うのもあって要さんも早々に気持ちを切り替えてくれたらしく、受け取ったそれに視線を落とし、そっと指先を滑らせる。とは言っても、彼は目が悪いらしいから私が代わりに読み上げていくのだけれど。
用紙の上を滑る指先を誘導しながら教科ごとの点数と学年の平均点、そして全体の点数と順位を伝え終わると、要さんは私の肩に手を乗せた。

「よく頑張ったな。アルバイトもして忙しい中でも中間考査から順位を落としていないとは、流石だ」
「要さんにそう言ってもらいたくて頑張ったんだ」
「そうか。ならば、努力した者には相応の報酬を与えなければ……夕飯を作ったんだ。一緒に食べよう」
「うん。要さんのごはん、久しぶりだなぁ」

向かい合って席につき、口へ運んだそれは健康に気をつかってか心なしか薄めに整えられた味つけのお陰で、全身に染み渡っていくように感じた。
ややお小言の多い会話に苦笑を浮かべつつも安定の美味しさに舌鼓を打ち、食後の紅茶でひと息ついたところで明日も早くから仕事らしい要さんを見送った。私も寝支度を調えてベッドに潜り込む。明日もいつもと変わらない日常がやって来ると信じて疑わずに。けれど。

「──おーす、黒崎!」
「……えーっと、初めまして?」
「初めましてだぁ? まだ憶えてないのかよ!? 桃原だよ、桃原鉄生! 一体お前のこと何回空手部に誘ったと思ってんだよ!?」

皆の中から朽木ルキアと言う存在が消えていた。まるで初めから全てがなかったかのように。

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