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09

窓辺でうたた寝

階段を上りきり開けた場所に出ると、大虚に足蹴にされて背中から投げ出される一護と、一護の元に駆け寄る石田くんの姿が見え、追撃に備えて咄嗟に紅い斬撃を飛ばそうと刀を振り上げたところで目の前に黒の羽織りをまとった腕が差し出され、思わずその動きを止めた。

「ダメっスよ。手出しちゃ」
「店長さん? でも、このままじゃ二人が……!」
「朽木さんにも言いましたが、これは必要な戦いなんスよ。彼女にとっても、黒崎さんにとってもね」

だからみょうじサンも大人しく見ててください、と有無を言わせない雰囲気に圧され、渋々ではあるが中途半端に構えていた刀を下ろした。
遠目に見える限りでは蹴り飛ばされた先で石田くんと口喧嘩出来るくらいには無事みたいだし、いざとなったら店長さんを押しのけてでも加勢に入ればいい。逸る気持ちを抑えるべく自分にそう言い聞かせていると不意に急上昇する霊圧を感じ、二人から大虚へと視線を移した。すると、大虚の口元に溜まっていく不気味な光が見えて。
でも、どうしてだろう。今までを振り返ってみても、こんな間近であれだけ強大な霊圧を浴びて平静を保てるはずがないのに。まるで目の前に分厚い壁でもあって、大虚の霊圧から守ってくれているかのような。
そんなことを考えている間にも光はどんどん強さを増していき、一護が大虚の足元に滑り込んだ次の瞬間、一目で危険だと分かる光線が容赦なく放たれた。

「黒崎……ッ!」

けれど、一護の存在がかき消されることはなく。それどころか、頭上に掲げた大刀で受け止めたかと思うと一護の霊圧がどんどん高まっていくのが分かる。やがてそれが最高潮に達した瞬間、大きく振りかぶった大刀が大虚の光線を弾き返した。

「ッ、わ……!」
「……こんな、こんなことが……一護め、大虚を両断してしまいおった……!」

足元から頭の先まで、一直線に走った斬撃によって深手を負った大虚がひび割れた空を手繰り寄せながら向こう側へと消えていく。

「勝ォー利!」

一方、元いた世界へ帰っていく大虚を尻目に得意気な顔で高々とピースサインを掲げる一護に自然と肩の力が抜けた。店長さんは必要な戦いだと言っていたけれど、さっきの光線にそのまま押しつぶされていたかもしれない最悪の可能性を考えて無意識の内に全身に力がこもっていたらしい。
先日の一件よりもさらに非現実的なことが立て続けに起こった所為か、心なしか体が気怠く感じる。とは言っても、流石にこれで一段落ついただろうし、家に帰って少し休もう。要さんが来るまで、どれくらい時間があるだろうか。出来ることなら手の込んだ料理を用意して待っていたいところだが、難しいようであれば簡単なもので済まさせてもらっちゃおう。
ぼんやりともやがかかり出した頭でこの後の予定を組み立てていると、ふと、一護の霊圧が不自然なくらい大きく揺らいだような気がした。

「な、何だ!? 何だよ、これ……ッ」
「どうやら、力を一気に解放しすぎちゃったみたいっスねぇ。その反動でコントロールを失っちゃってるんスよ」
「! 造り子……?」
「ほら、斬魄刀が元の形を保てなくなってるでしょう? 彼、このままだと消滅しますよ」
「そんな……! 何とかならないの!?」
「簡単なことっスよ。自力でコントロール出来ないのなら、自分を制御するためのハンドルを一時的に誰かに預けてしまえばいい。あなたがあの男の手を借りた時のようにね」
「……なら、私が一護の霊圧を抑える。造り子、あなたも力を貸して」
「あなたがそれを望むなら」

今度こそ店長さんを押しのけ、再び姿を現した造り子とともに一護の元へ駆け寄った。

「一護!」
「なまえ!? こっち来るな! お前まで巻き添え食うぞ!」
「巻き込まれるために来たの!」

そのまま仰向けに倒れる一護の傍らに膝をつき、瞼を下ろす。

「イメージしてください。あなたは今、真っ暗な海の中にいる。激しく泡を立て、大きくうねり、容赦なく海底へと引きずりこもうとするそこで、たった一つの光を探すんです」
「光?」
「はい。ひどく不安定で、今にも消えてしまいそうなくらい小さな光を」

とぼんっと、突然真っ暗な世界へ突き落とされるような感覚に囚われた。ゴボゴボと大量の泡を伴って全身に絡みついてくる水をかき分けながら、頭の中に直接語りかけてくる造り子の声に導かれるようにひたすら進んでいくと、彼が言ったような頼りなく明滅する小さな光へとたどり着いた。それを包み込むように添えた両手に彼の大きな手のひらが重ねられる。

「今回はボクがサポートします。黒崎一護の霊圧に同調して少しずつ鎮めていってください」

周りの水が恐らく一護の霊圧で、だとしたら醜く歪んだ円が本来の形を取り戻すことで私の暴走した霊圧が安定したように、手元の光が本来の輝きを取り戻せば一護の霊圧も安定するはず。
過去に二度、店長さんに助けてもらった時のことを思い出しながら、相変わらずひどく荒れている周囲の海を巻き込んで手元の光へと注ぎ込んでいく。しばらくすると、余分な霊圧を圧し固めて放出し続けてくれている石田くんの協力もあって一護の刀も徐々に本来の形を取り戻し始めているようだった。

「──ちぇっ……そんな顔してる人間を殴れるかよ。ちくしょうめ……」

けれど、意識を保つことが出来たのはここまで。
石田くんが矢を放つのを止めて膝をついたと同時に、私も力尽きたように気を失ってしまったのだった。

「おや? 解放したばかりでボクの力を使いすぎちゃったみたいっスね。仕方ない。また近い内にお会いしましょう。ね? なまえサン」

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